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張先生の受験対策講座

張 百々代(はり ももよ)

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。

プロフィール張 百々代(はり ももよ)

精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。

第3回 「精神疾患とその治療」

皆さん、こんにちは。今回から具体的な科目ごとの対策に入っていきます。この講座は専門科目、共通科目の順で解説していきます。今回は「精神疾患とその治療」について、出題基準と過去の出題実績を踏まえて出題傾向を分析し、対策を立てていきます。

出題範囲

この科目の出題範囲は、大項目として「1 精神疾患総論」「2 精神疾患の治療」「3 精神科医療機関の治療構造及び専門病棟」「4 精神科治療における人権擁護」「5 精神科病院におけるチーム医療と精神保健福祉士の役割」「6 精神医療と福祉及び関連機関との間における連携の重要性」という6つの分野に分かれています。

第25回の精神保健福祉士国家試験をみると、「精神疾患総論」から7問、「精神疾患の治療」から2問、「精神科治療における人権擁護」から1問という構成でした。

この科目で最も出題数が多い分野は「精神疾患総論」で、過去の出題傾向もほとんど毎回、この分野から6~7問が出題されています。そのほかの分野は、各1~2問という出題構成が定着しているといえるでしょう。

では、出題頻度の高い分野について学習しておくべき内容を確認していきたいと思います。

精神疾患総論

この分野は、大項目の説明に「代表的な精神疾患について、成因、症状、診断法、治療法、経過、本人や家族への支援を含む」とあります。その主な内容について、中項目を中心に小項目の例示も参考にしてみていきましょう。

「精神医学、医療と歴史の現状」の分野からは、精神医学の歴史として、ピネルや呉秀三、クレペリン等が出題されています。医療の歴史と現状としては、第25回で1995年(平成7年)の精神保健福祉法の改正内容が出題されました。この分野からは近年あまり出題されていませんでした。今後は、わが国の精神保健福祉施策の発展の経緯についても押さえておいたほうがよいでしょう。

「精神現象の生物学的基礎」からは、脳の構造の分野が出題されています。脳の仕組みと働きとして、大脳、小脳、脊髄、間脳、視床、視床下部、中枢神経、末梢神経、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、辺縁系、大脳基底核、垂体路等の機能をしっかり理解しておきましょう。第25回では出題がありませんでしたが、第24回では、大脳皮質、延髄、小脳、視床、視床下部のそれぞれの働きに関する出題がありました。

「精神疾患の成因と分類」の分野からは、国際分類法として「ICD-10」のF0からF9の疾病分類が出題されています。WHOでは、2022年1月からICD-11が発効されています。

「代表的な疾患」「精神症状と状態像」は頻出分野です。
統合失調症、気分障害、パニック障害、心気障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、認知症、身体表現性障害、アルコール依存症、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、境界性パーソナリティ障害等の出題実績があります。行動障害、発達障害などの代表的な疾患についても学習しておきましょう。第25回では、神経性大食性、統合失調症、うつ病、アルツハイマー型認知症、強迫性障害が出題されました。

「診断の手順と方法」からは、てんかんの診断、病院での初回面接の出題がありますが、出題頻度はあまり多くはありません。この分野は、大項目「3 精神科医療機関の治療構造及び専門病棟」の「外来診療」とも重なる分野ですので、並行して学習しておくとよいでしょう。

「身体的検査と心理検査」については、ミニメンタルステート検査、質問紙法による心理検査、脳波検査、頭部CT検査等が出題されています。第25回では、認知症のスクリーニングテストに関する出題がありました。

身体的検査を必要とする疾患は限られていますから、てんかんの発作や脳血管性の障害等を押さえておくとよいでしょう。心理検査としての精神症状の評価尺度や一般的な心理テストについては、共通科目の「心理学理論と心理的支援」と重なる内容ですから並行して学習しておきましょう。

精神疾患の治療

「精神科薬物療法」の「薬理作用と副作用」からは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の副作用、向精神薬や抗精神病薬の副作用、認知症薬の副作用等が出題されています。

定型抗精神病薬、非定型抗精神病薬、抗うつ薬、気分安定薬、抗不安薬、精神刺激薬、抗てんかん薬などの薬理作用や効果と副作用、使用に際して注意すべきことについて整理しておきましょう。

「精神療法」の分野からは、作業療法、精神分析療法、精神力動的精神療法、認知療法等が出題されています。精神療法の種類とその基盤となる考え方、適用対象疾患を押さえておきましょう。認知行動療法、森田療法、自律訓練法、家族療法、支持的精神療法等についても確認しておくとよいでしょう。第25回では認知行動療法が出題されています。

第25回では、上記の2つの分野から総合的に、統合失調症患者の維持期における治療に関する問題が出されました。

「精神科リハビリテーション」の分野からは、社会生活技能訓練(SST)の具体的技法の出題実績があります。家族療法、心理教育などについても学習しておきましょう。

精神科医療機関の治療構造及び専門病棟

「疾病構造と医療構造の変化」の分野からは、病院報告、患者調査、精神科診療所の役割と機能等が出題されています。患者調査については「精神保健の課題と支援」で出題されることもあります。出題傾向をみると、細かい数字よりも全体の推移や動向に関する内容を問う問題になっています。入院患者や通院患者について、疾患と傾向を押さえておくとよいでしょう。

精神科治療における人権擁護

「精神科治療と入院形態」の分野からは、精神保健福祉法における入院形態が出題されています。任意入院、医療保護入院、措置入院等の対象と要件について整理しておきましょう。第24回、第25回とも、短文事例で入院形態に関する出題がありました。今回は後ほど、この分野を取り上げて解説いたします。

「隔離、拘束のあり方」からは、入院中の隔離処遇の基準と精神保健指定医の役割が出題されています。入院時処遇における精神保健指定医の役割等について理解を深めておきましょう。また、隔離・拘束のための条件、遵守事項等も確認しておくとよいでしょう。「移送制度による入院」についての出題はまだありませんが、移送のための条件、移送の対象、手順等についても理解しておきましょう。

精神医療と福祉及び関連機関との間における連携の重要性

「退院促進の支援」では包括型地域生活支援プログラム(ACT)の基本的内容を理解しておきましょう。

「医療観察法」は出題率が高いので、医療観察制度の概要を整理して学習しましょう。

以上、全体を概観してきましたが、今回は精神保健福祉法に規定されている入院形態について解説していきます。

任意入院

精神保健福祉法では、精神科病院における入院形態として、本人の自由意思による「任意入院」を基本的な形態としています。任意入院は、患者本人の同意に基づく入院形態です。精神科病院の管理者は、精神障害者を入院させるときには、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならないと規定されています。

入院時告知義務

任意入院では、入院時に精神科病院の管理者は、退院請求等に関する事項を書面で通知する義務があり、本人から入院意思を記載した書面を受け取らなければなりません。また、入院に係る同意の再確認として、入院後1年経過後、及び2年ごとに同意書を受け取らなければなりません。

退院請求

任意入院者が退院を申し出た場合は、原則として退院させなければなりません。ただし、精神保健指定医の診察の結果、必要があると認めたときは72時間に限り退院させないことができます。特定医師の診察による場合は12時間です。

処遇

開放処遇が原則ですが、病状により精神科医師(精神保健指定医でなくてもよい)の判断がある場合のみ、開放処遇の制限が可能となります。この場合、72時間以内に精神保健指定医による診察が必要とされています。

また、病院の管理者は、隔離・身体拘束等、行動制限に関する一覧台帳を整備する義務があります。都道府県知事は、改善命令を受けた精神科病院管理者に対し、その患者の病状報告を求めることができます。

任意入院 患者本人の同意による入院
入院時告知義務 ・精神科病院の管理者は退院請求等書面告知義務
・精神科病院の管理者は入院意思記載書面を受け取る義務
入院に係る同意の再確認 定期的に入院同意書を受け取る義務
退院請求 退院は本人の自由意思による
退院制限 指定医の診察により72時間(特定医師の場合12時間)に限り退院させないことができる
処遇 ・原則、開放処遇
・開放処遇制限:72時間以内なら精神科医の診断により開放処遇制限が可能

医療保護入院

医療保護入院とは、本人の同意が得られない場合で、1名の精神保健指定医の診察の結果、精神障害があり、医療及び保護のため入院の必要があると診断された場合に家族等の同意によって行う入院形態です。

家族等の定義

医療保護入院の同意を行う「家族等」の定義は、「精神障害者の配偶者、親権を行う者、扶養義務者及び後見人又は保佐人をいう」と規定されています。家族等のうち、本人に対して訴訟をしている者・訴訟した者、その配偶者・直系血族や、本人に対して身体に対する暴力等を行った者などは、医療保護入院の同意を行うことはできません。

特定医の診断・市町村長同意

医療保護入院を必要としている場合で、指定医師がいない等のやむを得ない場合に限り、特定医師の診察のもと最長12時間に限って入院が認められています。

家族等がいない場合、あるいは家族等の全員がその意思表示をできない場合は、市町村長同意による入院になります。

精神科病院の管理者の義務

精神科病院の管理者は、医療保護入院患者が入院もしくは退院した場合は、10日以内に保健所長を経て都道府県知事に入院届・退院届を提出する義務があります。

また、1年ごとに任意入院に移行できない理由、病識や治療への取り組みを記入した定期病状報告書を、保健所長を経て都道府県知事に提出しなければならないとされています。

精神科病院の管理者は、医療保護入院の患者に対して、必ず退院後環境生活環境相談員を選任しなければなりません。また、医療保護入院者退院支援委員会を開催することが義務づけられています。

隔離

医療保護入院患者の院内処遇として、やむを得ない場合の12時間を超えない隔離は、精神保健指定医の判断によらなくても可能ですが、12時間を超える隔離は、精神保健指定医の判断によらなければなりません。

医療保護入院 本人の同意が得られない場合、1名の指定医の診断と家族等の同意による入院(特定医師の診断の場合は、12時間以内の入院)
入院届・退院届 10日以内に入院届・退院届を保健所長を経て都道府県知事に提出する義務
定期病状報告書 1年ごとの定期病状報告書提出義務
精神科病院の管理者 ・退院後生活環境相談員を選任する義務
・医療保護入院者退院支援委員会を開催する義務
隔離 ・12時間以内隔離:精神科医師の判断
・12時間以上隔離:指定医の判断

応急入院

応急入院は、医療保護入院の応急的な形態です。精神科病院の管理者は、医療及び保護の依頼があった者について、急速を要するにもかかわらず家族等の同意を得ることができない場合は、精神保健指定医の診察の結果、精神障害者で直ちに入院させなければその者の医療及び保護を図る上で著しく支障がある者の場合、本人の同意がなくても、72時間に限り入院させることができます。

このような状況で、精神保健指定医師がいない等のやむを得ない場合に限り、特定医師の診察の結果、精神障害者で直ちに入院させなければ、その者の医療及び保護を図る上で著しく支障がある者の場合は、最長12時間に限って入院させることができます。

応急入院 本人や家族等の同意が得られず、指定医が認めた場合72時間(特定医師の場合は12時間)に限る入院形態

措置入院

措置入院とは、精神障害があり、自傷他害のおそれがある場合に、2人以上の精神保健指定医が、入院が必要であると一致して認めたとき、都道府県知事の権限によって行われる入院です。

措置権者

任意入院や、医療保護入院が精神科病院の管理者の責任で行われるのに対して、措置入院は、都道府県知事の権限によって行われる入院形態であるということをしっかりと理解しておきましょう。入院措置の解除の権限があるのも都道府県知事です。

措置時書面告知義務

措置入院患者が入院する病院は、国等の設置した精神科病院または指定病院とされています。都道府県知事は、措置入院患者に入院措置を採る場合は、入院措置を採ること及びその理由について、本人と家族等に対して書面で告知しなければなりません。

病院管理者の義務等

指定病院の管理者は、措置入院の患者について、3か月、6か月、以後6か月ごとに、都道府県知事に対して定期病状報告を行う義務があります。また指定病院の管理者は、都道府県知事の許可を得て、6か月を超えない範囲で措置入院者を仮退院させることができます。

措置入院 2名以上の指定医が自傷他害のおそれがあると認めた場合に、都道府県知事の権限により行われる入院
入院先 国等の設置した精神科病院または指定病院
通知 措置時書面告知義務
定期病状報告 3か月、6か月、以後6か月ごとの定期病状報告義務

緊急措置入院

都道府県知事は、急速を要し、措置入院の手続きを採ることができない場合、1名の精神保健指定医の診察の結果、その者が精神障害者であり、直ちに入院させなければその精神障害のために自身を傷つけまたは他人を害するおそれが著しいと認めたときは、72時間に限り、緊急措置入院をさせることができます。

緊急措置入院 指定医1名の診察で72時間に限る入院

いかがでしたか。
では、第25回の精神保健福祉士国家試験の問題にチャレンジしてみてください。

第25回精神保健福祉士国家試験「精神疾患とその治療」

問題10 Aさん(20歳、男性)は、両親と兄の4人家族である。Aさんは、3か月前から自室で独り言をつぶやきながら、くぎを壁に抜き差しするなどの奇異な行動があった。母親に注意されると、「テレパシーが送られてきた。『やめたらお前の負けだ』という声が聞こえてくる」と言い、夜間も頻回に行っていた。また、過去には、母親が早く寝るように言うと、殴りかかろうとしたこともあった。Aさんは、次第に食事や睡眠が取れなくなり、父親と兄に伴われ、精神科病院を受診した。Aさんは、父親と精神保健指定医による入院の勧めに同意した。
 次のうち、この場合の入院形態として、正しいもの1つ選びなさい。

  • 1 措置入院
  • 2 任意入院
  • 3 医療保護入院
  • 4 緊急措置入院
  • 5 応急入院

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