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介護職に就いた私の理由(わけ)

さまざまな事情で介護の仕事に就いた方々の人生経緯と、介護の仕事で体験したエピソードを紹介していきます。「介護の仕事に就くことで、こんなふうに人生が変わった」といった視点からご紹介することで、さまざまな経験を経た介護職が現場には必要であること、そして、それが大変意味のあることだということを、あらためて考えていただく機会としたいと考えています。
たとえば、「介護の仕事をするしかないか・・」などと消極的な気持ちでいる方がいたとしても、この連載で紹介される「介護の仕事にこそ自分を活かす術があった・・」というさまざまな事例を通して、「介護の仕事をやってみよう!」などと積極的に受け止める人が増えることを願っています。そのような介護の仕事の大変さ、面白さ、社会的意義を多くの方に理解していただけるインタビュー連載に取り組んでいきます。


花げし舎ロゴ

花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第150回(最終回) 赤ちゃんから高齢者までを看るステーションをつくりたい
ナースとケアマネジャーを兼務して医療と介護の連携を

芝崎友香子さん(47歳)
麻布ケア訪問看護ステーション
管理者
(東京・港区)

取材・文:石川未紀

看護師として多くの科を経験してきた

 高校生の時、自立できる仕事がしたいと思い看護の道へ進みました。看護師の資格取得後は生まれ育った京都を離れ、東京の大学病院で看護師として働き始めました。その後も様々な大学病院、専門病院で働いてキャリアを積みました。結婚後も夫の転勤に伴って、あちこちへ行きましたが、どこへ行っても看護師として働きました。私の経歴は小児科から始めて、おそらく手術室以外のほとんどの科を経験しました。東京ではありませんが、その間に訪問看護も経験しました。

 私にとっては、いろいろな地域で、様々な科の看護師として働いたことは、どれも大切な経験でした。地域によっても看護に対する考え方は少しずつ違いますし、科によってケアの仕方も違いました。様々な科で経験を積んでいく中で、私にとっては訪問看護が、今までの経験と専門性を活かして、能力を発揮できるのではないかと思いました。いつかは自分で訪問看護ステーションを立ち上げたいと考えていました。

 訪問看護ステーションを立ち上げる時、「私はナースとしての技術はあるけれど、経営やお金の計算はできない、だから手伝ってもらいたい」と夫に持ちかけました。夫は当時は普通の会社員でしたが、一緒にやろうと言ってくれました。ここを開所したのは2016年4月のことです。

介護保険を知らないで訪問看護はできない?

 実は、地方で訪問看護の仕事をしていたとき、医療のことはわかっても、介護保険の制度のことを知らなくて、なかなか利用者の方の困りごとにうまく対応できませんでした。それで、制度のことを詳しく知りたくてケアマネジャーの資格を取りました。ケアマネジャーの資格をとったことで、利用者の方が不便に感じていることの具体的な解決方法を見つけることができるようになりました。今は、ナースとしての仕事の方が割合としては大きいですが、ケアマネジャーの仕事もしています。私がケアマネジャーの資格を持っていることで、他のケアマネジャーさんがどうやったら仕事がしやすいかということも理解できるようになりました。また、ケアマネジャーさんが利用者さんのことについて主治医と話すときに、病状等の専門的な話になると遠慮してしまう場合がありますが、ナースだと医療部分での知識があるので、医師にもしっかりと意見を言うことができます。あと、在宅で終末期までを看る場合、どういう経過をたどるかがだいたいわかるので、かなり具体的に今後の見通しを家族に説明することができます。そこがナースとケアマネジャーの両方の資格を持っている強みだと思います。

多くの科を経験したから赤ちゃんから高齢者まで自信を持って看られる

 私は、多くの科を経験してきたので、赤ちゃんから高齢者まで途切れなくケアをできるところが強みだと思っています。起業にあたり「途切れないケア」というコンセプトで、社員を募集したので、同じような気持ちと実力を持ったナースが集結しました。今では、小児専門の訪問看護ステーションも出てきましたが、一定の年齢になると訪問看護を終了してしまうところが多いようです。でも、当社は年齢による区切りをつけないので、途切れることなくケアを続けることができます。また、当社は難易度の高い医療的ケアが必要な方に対応できるナースがそろっています。また、私以外にもケアマネジャーの資格を持ったナースがいますので、どんなことでも相談いただければ、それに応えることが可能です。

女性の多様な働き方に応えられるのがこの世界の魅力でもある

 訪問看護師というのは、個人のライフスタイルに合わせた多様な働き方ができる職種だと思います。そのため、働きやすい環境を整えることが大事だと考えます。まず、残業をさせない。そのために一人一人にタブレット端末と携帯電話を持たせて、事務所でやる事務仕事を減らしました。情報を共有できるので、出先で不安なこともすぐに解決できますし、カルテもタイムリーに読むことができます。医療機関や他事業所との連携もスムーズになりました。祝日以外はオープンしているのですが、スタッフが調整しあってシフトを作り、連休が取れるようにしています。また、短時間正社員の制度も導入しています。フルタイムでなくても正社員として働くことができます。訪問看護師は基本一人で訪問しますので、病棟のナースに比べると責任も重いですし、不安に感じる事も多いと思います。そうした不安材料をなくすためにもミーティングなどで情報を共有し、相談しあえる環境や雰囲気も作るようにしています。

 まだ、オープンから3年目の訪問看護ステーションですが、地域に溶け込み、多くの悩み事や不安を持っている人たちの助けになりたいと思っています。様々な病気やケアの難しい介護状態でも、相談に乗れるような知識と技術を持ち続ける不断の努力も必要です。医療者や介護事業所の方との連携も大切にしていきたいです。それがナース兼ケアマネジャーだからこそ、できるのではないかと思っています。


会議で個々の不安を解消しています


【久田恵の視点】
 訪問看護の看護師さんの数は、全国で4万人ほど。2025年にはなんと15万人が必要と言われています。人生の最後は病院で、というこれまでの常識は終わり、新たな介護・看護の世界が立ち上がっているのを感じますね。この連載を始めて三年、多くの方たちの取材を続けていきましたが、その間に介護事業分野がどんどん変化していくのを実感してきました。地域で暮し続ける希望を開いてくれる柴崎さんのチャレンジに、エールを送りたいですね。

■ケアサポ 最終回に向けての総括■
 三年間、連載を続けた「介護職に就いた私の理由(わけ)」は、最終回を迎えました。 現場の介護職の方たち150人のさまざまな視点からのお話は、多くの示唆に富み、今後の介護の在り方について考える貴重なメッセージとなりました。インタビューをしながら多くのことを学ばせていただきました。このコーナーが、介護職を志す方たちにたさんの勇気を届けていただいたという思いです。本当にありがとうございました。
花げし舎・取材チーム
  • ※この連載をもとにして再編集した単行本を10月末に現代書館から刊行します。
    そして、次回からは、新連載「福祉の現場で思いをカタチに」が始まります。
    ぜひ、そちらも読んでいただけたら幸いです。