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介護職に就いた私の理由(わけ)

さまざまな事情で介護の仕事に就いた方々の人生経緯と、介護の仕事で体験したエピソードを紹介していきます。「介護の仕事に就くことで、こんなふうに人生が変わった」といった視点からご紹介することで、さまざまな経験を経た介護職が現場には必要であること、そして、それが大変意味のあることだということを、あらためて考えていただく機会としたいと考えています。
たとえば、「介護の仕事をするしかないか・・」などと消極的な気持ちでいる方がいたとしても、この連載で紹介される「介護の仕事にこそ自分を活かす術があった・・」というさまざまな事例を通して、「介護の仕事をやってみよう!」などと積極的に受け止める人が増えることを願っています。そのような介護の仕事の大変さ、面白さ、社会的意義を多くの方に理解していただけるインタビュー連載に取り組んでいきます。


●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃったら、
kawase@chuohoki.co.jp
までご連絡ください。折り返し、連絡させていただきます。

花げし舎ロゴ

花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第140回 新卒で介護職へ 
ケアマネージャーが人と人を繋ぐ 
利用者さんの穏やかな日常のために、伝えるということ

田谷拓己さん(34歳)
社会福祉法人 山坂福祉会 特別養護老人ホーム やまさわの里
介護福祉士/ケアマネージャー/社会福祉士
(栃木県・真岡市)

取材・文:原口美香

おばあちゃんの死が介護の道に向かわせた

 僕はおばあちゃんっ子だったんです。両親が共働きで、放課後になると、よく小学校の校門までシルバーカーを押しながら、おばあちゃんが迎えに来てくれました。僕が中学に入るくらいの時に、おばあちゃんが階段から落ちて骨折し、入院してしまったんです。退院すると、そのまま老健に入ることになって。最初の頃は母親とよく面会に行っていたんですけれど、部活が忙しくなったり、友だちとの時間を優先したりして、だんだんと面会に行かなくなってしまったんです。僕が高校2年生の時、おばあちゃんが亡くなりました。最期は病院に移ってみんなで看取ったんですけれど、「何をやっていたんだ、僕は」という気持ちでいっぱいで。本当は時間があったのに、何でもっと会いに行かなかったんだろうって。それで進路を決めるときに介護の方へ行こう、と思ったんです。

 短大は、福祉や介護を目指す者同士、ゼロからのスタート。それぞれの実習先での話をしながら、お互いに切磋琢磨していたように思います。

 僕は実習に行った特養に、そのまま就職しました。従来型の施設で、身体拘束もまだ残っていたり、経管栄養の方も多くて、流れ作業のような状態でした。最初は仕事を覚えるのがいっぱいいっぱい。がむしゃらに、いかに早く効率よくできるかという感じだったんです。

長野での3年間が今の自分の原点

 2年半くらい勤めて、短大の友人と新設する長野の特養に移りました。そこはユニットケアを取り入れている施設。ゼロから創れるということに希望を持って長野県に移り住んだんです。新設なので、それぞれ違う場所で働いてきた人たちが集まり、全く初めてという人も結構いました。だからスタッフ同士、悩みながら、いろいろ試しながら、利用者さんに対する思いをぶつけ合って、本当にゼロから創り上げたという感じでしたね。入浴の仕方も、利用者さんと一対一で入れるようにしていきました。

 リーダーをやらせてもらった時に、チームのみんなをまとめて、同じ方向に向けることの難しさも感じました。スタッフには年上の方も多かったので、上から言ってもきっとうまくいかないなと。それで相談という形をとって、利用者さんへ対する思いをみんなに伝えて、同じ思いでやっていきたいということを話すようにしていました。当時の施設長も、柔軟に対応してくれて、やりやすかったんです。どこにいても僕はずっと仲間に恵まれてきたんですけれど、長野で過ごした3年間には、本当に感謝しています。そこが今の自分の原点になっているんです。

利用者の方は、ケアマネによって人生が変わってしまう

 結婚を機に長野から地元に戻り、紹介でショートスティに勤めました。特養と違って、利用者さんはある程度の期間で帰ってしまう。そうすると、ケアが途切れ途切れみたいになって、利用者さんが次に来た時には、また状態が変わっていたりする。僕はずっと特養しか知らないまま来ているので、これでいいのかなという気持ちが強かったんです。現場で在宅のケアマネの仕事を目の当たりにすることも多くて、担当するケアマネ次第で人生が変わってしまうということも感じていました。今までは漠然とケアマネの受験資格ができたから取ろう、くらいだったのに、その頃は、こういうケアマネになりたい、ケアマネとしてやってみたいという気持ちが固まっていました。仕事をしながら勉強して資格を取り、ちょうど人事異動があって、系列のグループホームに移りました。

 グループホームでは主任とケアマネの仕事を兼任していましたが、現場が中心。夜勤もこなしながら、空いた時間でケアマネの仕事をするという感じでした。それも、9人しかいないので計画を立てるくらい。それでもグループホームは、すごく良かったんですよね。利用者さんのやりたいことや、今までの生活が施設に入っても続けられて、利用者さんと職員が一体となっていて。だけど、僕がやりたいのはケアマネージャーの仕事だという思いは、ずっとありました。

人と人を繋いで伝える

 念願が叶って、在宅のケアマネになって今、5年目です。具体的には、ご自宅にいる方の最初の介護相談です。介護が必要になった方のご自宅に行って、何が一番困っているのかを引き出して、そこから事業所などに繋げて。紹介するのは責任も大きいですけれど、繋がっているからこそ、自信を持って提案できるんです。その上で、こうすれば今までの通りの生活ができますと伝えるのが一番大事ですね。今までは施設の中で、同僚たちとチームでケアをしていたところから、今度は役割としては一人ですが、これも幅広い意味でのチームだと思っています。利用者さんの一番身近な存在として、お世話になる事業所の方にも「あの利用者さんは、こういうことを大切にしています」とか「こういう生活をしてきたんですよ」と伝えられる。自分が伝えることで、そのデイサービスのケアやヘルパーさんが変わるんですよ。新人の頃の熱い気持ちが今、形を変えてみんなに伝わって、いいケアが出来ていたりするとすごくやりがいを感じます。直接的な介護はできないけれど、みんなに助けてもらって利用者さんの願いが叶うと、感謝してばかりです。ここまで回り道をしてきたように思ったけれど、いろいろなところでの経験が今に活きている。自分も施設で働いていた経験があるから、施設に入っても、利用者さんらしさや、利用者さんの人生が安心して続けられるということを伝えられるのは大きいですね。

 もう一つ、僕が拘っているのは「看取り」です。最近はおうちでの看取りに関わることも多くなってきています。利用者さんに「どこで亡くなりたい?」という話をすると、ほとんどの方が「本当は家で亡くなりたい」と言うんですね。利用者さんの望みを叶えるには、ご家族をはじめ、訪問看護の方であったり、主治医の先生であったり、サポートの体制は、きっとまだまだですけれど、どんどん整ってきています。ご自宅での看取りをご希望されている場合、ケアマネが「大丈夫ですよ、安心してください」と伝えられるかどうかで、おうちで亡くなることができるか、病院に移るか変わってきてしまうんです。難しいこともあるんですけれど、みんなと繋がれるのはケアマネだけなので、そこはすごくやりがいがあります。

 最初の大変な時期を乗り越えて、デイサービスに通い始めたりして落ち着くと、だんだん関わりも少なくなってきますが、気持ちはずっと変わらない。その分、他の事業所さんとの関係が深まっているので、安心して見守っていられます。時々訪問して、「その後はどうですか?」と聞くと「何もないのが一番だね」なんて話をしたりして。大変な時を乗り越えたからこそ、穏やかな日常が戻ってきているというのを感じます。

 生活保護の方や身寄りのない方など、いろいろな事情を抱えた方もいる中で、新人の頃のような情熱だけでは太刀打ちできないことも出てきて、ちゃんとした知識を持って向き合いたいと、社会福祉士の資格も取りました。

 介護職はたくさんのお金をもらうことはできない。だけど、すごく少ないというわけではないです。いろいろな利用者さんと、いろいろな環境で働けるというのはすごく魅力ですし、経験したことが全部自分の力になる。ケアマネが天職と言ったら言い過ぎかも知れないけれど、毎日がとても充実しています。

在宅で3年程担当した利用者さんと、桜の木の下で。施設入所が決まった利用者さんを「大丈夫ですからね」と送り出す。

大変だった時期を乗り越えたから、穏やかな今がある。「いつも僕の心配をしてくれて、お孫さんのように接してもらっています」と田谷さん。

【久田恵の視点】
 介護施設は実にさまざまです。運営している人の介護観も働く介護士さんの考えもそれぞれ。皆、人生の晩年は心地よく暮したいのに、情報がないまま利用者になってしまいがち。相手のニーズを読み取れるケアマネさんに出会えたらとても幸運なことだと思います。