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介護職に就いた私の理由(わけ)

さまざまな事情で介護の仕事に就いた方々の人生経緯と、介護の仕事で体験したエピソードを紹介していきます。「介護の仕事に就くことで、こんなふうに人生が変わった」といった視点からご紹介することで、さまざまな経験を経た介護職が現場には必要であること、そして、それが大変意味のあることだということを、あらためて考えていただく機会としたいと考えています。
たとえば、「介護の仕事をするしかないか・・」などと消極的な気持ちでいる方がいたとしても、この連載で紹介される「介護の仕事にこそ自分を活かす術があった・・」というさまざまな事例を通して、「介護の仕事をやってみよう!」などと積極的に受け止める人が増えることを願っています。そのような介護の仕事の大変さ、面白さ、社会的意義を多くの方に理解していただけるインタビュー連載に取り組んでいきます。


●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃったら、
kawase@chuohoki.co.jp
までご連絡ください。折り返し、連絡させていただきます。

花げし舎ロゴ

花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第112回 フリーターから介護職へ 
介護の仕事は僕自身を成長させてくれた
心で温まる「訪問入浴サービス」を

下谷祐輔さん(33歳)
訪問入浴サービス イリス 平和島
管理者
介護福祉士
(東京都・大田区)

取材・文:原口美香

たまたま見つけた「訪問入浴サービス」の仕事

 この業界に入るまではフリーターで、居酒屋で働いていました。高校を卒業してから土木関係の仕事に就いたんですけれど、半年で辞めてしまって。でも居酒屋はバイトだったので、ちゃんと仕事をしなきゃ、正社員にならなきゃいけないなと仕事を探したんです。最初は介護がやりたい、というわけではなかったんです。その頃「介護」という言葉をよく耳にするようになって、漠然と「仕事するなら介護かな」っていうくらいの感じでした。就職情報誌を見ていて、たまたま訪問入浴サービスの仕事を見つけたんです。運転手のお仕事です、荷物を運ぶお仕事です、と書いてあって、これなら自分にもできるかな、って。

 訪問入浴の仕事は、おうちでお風呂に入れない方の家に行き、持参したお風呂を組み立てて、入っていただくという仕事です。男女3人一組で移動して、男性は車を運転して、大きい荷物を運んだり、利用者の方を抱っこしてお風呂に入れるなど、力仕事を受け持ちます。最初入った会社は、パート扱いだったんですけれど、条件があって、1年以内にこれができたら契約社員、これができたら正社員、っていうのがあったんです。ところがそれをクリアしていっても、なかなか社員にしてもらえませんでした。2年くらいして、やっとのことで正社員になったと思ったら、手取りが5万円くらい減ったんです。やっていられないという気持ちになって、辞めてしまいました。

同じ「訪問入浴サービス」でも内容が全然違う

 それでイリスの募集を見て、前のところに比べたら給料がよくて、ここに入ったんです。入浴の流れはだいたい一緒なんですが、イリスでは内容が全然違いました。前の会社は、ただお風呂に入れる、入れておしまいという感じでした。ここは、どうやったら利用者の方が気持ちよくお風呂に入れるかが第一。寒くないように、とにかく丁寧に楽しい時間を過ごしていただく、っていう教えなんです。

 例えば、浴槽にお湯を溜めるとき、普通はお湯を満タンに溜めるじゃないですか。だけど前の会社では溜めないんですよ。満タンに溜めると時間がかかるので。浴槽の中にハンモックのようなものを乗せて、利用者の方に入ってもらうんですが、お湯が溜まっていないのに、利用者の方を乗せてしまうんです。利用者の方は裸で、空中にいるような状態です。寒さしのぎにタオルを2、3枚かけて、溜めている間に顔を洗ったり頭を洗ったり。その間に半分くらい溜まって、やっと浸かれるかな、くらいのやり方だったんです。ケアマネさんから「1時間で行ってください」という依頼なんですけれど、仮に1時間かかっても、30分で終わっても、金額は一緒なんです。1日何件こなせ、1日いくら稼げって、お金のことしか考えてないんですね。1時間で2軒入れたら2倍の利益になる。利用者の方も訪問入浴ってこういうものだな、とたぶん思っていて、そんなやり方でも「ありがとう、ありがとう」って。お湯に浸からず空中にいるんですよ、冬場でも5分とか。スタッフも同じでしたね。悪気があるわけではないんですけれど、そこでは、利用者の方に寄り添ったケアができる環境とは全然違っていました。

いいサービスをするには、スタッフみんなが同じ方向を向く

 イリスでは、完全にお湯が溜まるまでは浴槽に移動しませんし、浴槽に浸かる時間も倍くらい取っています。それまで僕は前の会社のやり方が当たり前だと思っていたので、イリスに移った当初はギャップが大きすぎて、覚えることもたくさんあって大変な思いをしました。それでもやっているうちに、新しい人が入ってきて、教える立場にもなってきて、適当にお風呂に入れるなんてもってのほか、というように僕自身、徐々に改心されていきました。

 利用者の方が訪問入浴を依頼するのはだいたい、一週間に一回とか二回が多いんです。中にはお風呂が嫌いという方もいらっしゃいますが、大半の方は楽しみにされているんです。だから行ったときには痛くなく、寒くなく、楽しい気持ちいい時間になるようにということに気を付けています。

 チームでやっているので、1人でいいサービスを、と思っていてもダメなんですね。みんなが同じ方向を向いてやっていかなければいけないので。だから職場の人間関係はものすごく重要だと思っています。3人で車で移動するので、楽しい雰囲気でいると、利用者の方のお宅に行ったときにも、楽しい感じになるじゃないですか。うちにお風呂を頼んでくださる方は、割ともう完全寝たきりの方が多いんですね。おうちでも入れなくなって、デイサービスにも行けなくなって。ご本人もご家族も、しっかりお風呂に入って気持ちよくなりたい、っていう気持ちで依頼してくれていると思うので、それにちゃんと応えられるようにと思っています。

会社としての「イリス」を考えていきたい

 今年でイリスに入って10年目です。4年前くらいに平和島の事業所の責任者になりました。現場に出る日もありますが、今は営業も担当しています。ケアマネさんって、訪問入浴が実際どんなふうにやっているか、知らない方が多いんです。イリスの特長をもっと伝えられたらと思っています。半年くらい前から、お風呂とセットでリハビリとマッサージの無料サービスも始めました。専門の先生に3年くらい指導を受けて、スタッフみんなで朝晩練習をしたりもしています。毎年クリスマスの時期には、サンタクロースやトナカイの格好をして、利用者さんのお宅に行きます。浴槽の周りも飾ったりして、お部屋にいても季節を楽しんでもらえたらと。

 この会社に入って、考え方も変わって、僕自身成長できたんです。「自分の接し方で周りが変わっていく」ってよく社長に言われていたんですけれど、ようやく何年か前に理解できたんです。それは仕事でも、プライベートでも活かせることですね。社長がとても熱い人なんです。いいサービスを、っていうのはうるさいくらい。ちゃんと向き合っている人にはちゃんと応えてくれるし、手抜きや適当さは許さない。芯が通っているので、尊敬しています。社長にはすごく学ばせてもらっていますね。少しでも社長の手助けになれればと思っています。今後は、「訪問入浴」だけじゃなくて、「イリス」全体のことを考えていくようになると思います。

毎年12月に行われるクリスマスのイベント入浴。
希望された利用者の方には、一緒に写真を撮ってプレゼントをしている。

日々の研修で一番に考えるのは、利用者の方にとっての
「いいサービス」。

リハビリとマッサージの研修。
利用者さんには、いつも自分の親だと思って接する。


【久田恵の視点】
 「介護」とひとくくりにされますが、一つ一つの仕事がどれほど大切か、その一つ一つが介護を受ける人の晩年の人生を冷たくもあたたかくもする、そういうことを下谷さんの体験から教えられた思いがします。