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介護職に就いた私の理由(わけ)

さまざまな事情で介護の仕事に就いた方々の人生経緯と、介護の仕事で体験したエピソードを紹介していきます。「介護の仕事に就くことで、こんなふうに人生が変わった」といった視点からご紹介することで、さまざまな経験を経た介護職が現場には必要であること、そして、それが大変意味のあることだということを、あらためて考えていただく機会としたいと考えています。
たとえば、「介護の仕事をするしかないか・・」などと消極的な気持ちでいる方がいたとしても、この連載で紹介される「介護の仕事にこそ自分を活かす術があった・・」というさまざまな事例を通して、「介護の仕事をやってみよう!」などと積極的に受け止める人が増えることを願っています。そのような介護の仕事の大変さ、面白さ、社会的意義を多くの方に理解していただけるインタビュー連載に取り組んでいきます。


●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃったら、
kawase@chuohoki.co.jp
までご連絡ください。折り返し、連絡させていただきます。

花げし舎ロゴ

花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第90回 自宅で長生きをしたいと思える介護を目指したい

田中健太(33歳)
株式会社JICC
SOMPOケア在宅老人ホーム杉並
LSA(ライフ・サポート・アドバイザー)
介護福祉士
(東京・杉並)

取材・文:久田 恵

「在宅老人ホーム」と言う新しいシステムを作りあげたい

 ライフ・サポート・アドバイザー(LSA)として勤務しています。
 これは、「在宅老人ホーム事業」を利用される皆さまのニーズとサービスをつなげて、その方らしい生活をしていくために総合的な支援をする仕事です。
 在宅老人ホームをご存じない方もおられると思いますが、東京の杉並区、新宿区、世田谷区で平成27年からスタートしている事業なんです。
 自宅で老人ホームと同じようなフルサービスを提供し、在宅生活の限界点を上げることで、自分の意思に反して施設に入居する方を減らそうという構想で始まりました。介護の新しい選択肢としての定着を目指して、ケアモデルを構築中のサービスです。
 背景には、平成24年に介護保険サービスに、「24時間対応の定期巡回・随時対応型訪問介護看護のサービス」が創設されたことにあります。それで、一日に短時間の訪問を複数回行うことで、中度・重度の方の在宅生活を支えられるようになったんです。
 SOMPOケア「在宅老人ホーム」では、それにプラスして介護保険ではできないけれど在宅での生活を続けるための生活支援サービスを定額(2万円)で提供し、パッケージ化しました。このサービスでは、管理栄養士による栄養管理とか食事の手配なども、必要に応じて提供します。
 家族のいる方もいない方も、老々介護の方も、認知症の方も、最後まで自宅に住み続けたいという方の思いを支えていくことを目指しています。
 事業所から半径1キロ圏内をサービス提供の範囲としています。電動自転車でご利用者さまの家を巡回してサービスを提供します。事業所から1キロだと、10分以内で移動ができて、効率よく訪問できるのです。

 東京都内を網羅するには、181の拠点が必要なんですが、杉並では現在、基幹事業所の他に3か所の拠点ができました。全部で4ヵ所の事業所があります。ご利用者さまは、約50名。老人ホームと違って家賃がかかりませんから費用は抑えられます。生活保護を受給されている方も利用できるケアモデルです。これが成功すれば介護事業の革命になる、とも言われているのです。
 基本的には、コール機を使っての緊急時のオペレーター応答サービスと、必要な時にヘルパーがすぐに訪問するサービスを提供しています。

 24時間チームで動きますから、一番大事なのは情報の共有です。
 私の仕事は、直接、介護をしているヘルパーからの報告を受けて、総合的な判断をして指示を出すことですが、報告だけで判断するのではなく、直接、家を訪問して状態を確認したり、ご本人やご家族とお話をさせていただくことも大切にしています。また、ヘルパーが気付いたことをいろいろ報告してくれるので、それをご利用者さまの状態とあわせてみて、どうするのが一番良いのかを常に考えます。
 つまり、私は、援助の必要な方が24時間365日、在宅で生活していくために、どういうことがどれだけ必要かを判断して、コーディネートする責任者なんです。着任前の研修では、社内のケアマネジャーと同じ研修を2か月間受け、ケアマネジメントについて基礎から学びました。
 この職場に来たのは昨年のことで、まだまだ私は未熟なんですが、この新しい介護事業に未来を感じて、頑張ろうと思っています。

テニスインストラクターから、介護職へ

 私がヘルパー2級の資格を取ったのは、大学生の時なんです。きっかけは、父方の祖父の介護でした。その後、母方の祖父にも介護が必要になり、看ていた祖母もパーキンソン症状が出て、家族介護が大変になりました。私は、学生の頃からテニスを続け、テニスのインストラクターとして働いていて、あまり介護はできませんでした。でも、その時、訪問介護で来てくれたヘルパーさんの介護の様子を身近で見ることになりました。
 祖父は尿毒症で、最後の頃は、耳や口や鼻から血が流れ出る状態になっていました。それをヘルパーさんが、丁寧にふき取ってくれたのを見て心を打たれたんです。祖父が亡くなった時に、テニスのインストラクターをきっぱりやめて、介護の仕事を本気でしようと決めました。27歳の時でした。
 最初に勤めたのは、地元の有料老人ホームです。介護の仕事をしている友人が、修行をするなら、夜勤もあって、24時間高齢者の生活を支える有料老人ホームがいいよ、と言われて選びました。そこは研修体制もしっかりしていたので、いいかな、と。
 ホームで6年間働いたのですが、自分の視野を広げるには、新しい現場にもチャレンジしたいと思い、在宅介護の仕事を探しました。「在宅老人ホーム」というサービスを知ったのは、転職中の時です。それは最後まで自分の家で介護を受けて暮らせるシステムだと聞いて、一も二もなく決めたのです。
 というのも、働いていた有料老人ホームでは、本当は自宅で暮したい方が、家族に説得されて渋々入居する事例が多かったのです。入居した後も、家に帰りたいという方も多くて、高齢者の方が、望み通りに自宅で暮せるようなお手伝いができたらいいな、と思っていました。「高齢者の意思に反した安易な施設入居を防ぐ」。それが私の目標です。

本人の自立を支える支援が大事だと思う

 今担当しているご利用者さまに、「酒が飲めないと、俺は生きている気がしない」と言う方がいます。飲みすぎないでくださいね、とアドバイスはしますが、お酒を取り上げることはしません。在宅介護の仕事をしていると、人は生きたいように生きたいのだという、当たり前のことを実感させられます。いろいろ大変ではあるけれど、人はやりたいことが選べないと、気持ちもどんどん萎えてくると思います。

 今、利用されている方の平均要介護度は2.8ほどですが、もちろん、中には要介護度4の方も5の方もいて、在宅で看取りまで行います。訪問看護や訪問診療を利用していない場合は、こちらで連携する訪問看護ステーションを紹介させていただくなどして、きちんと最後までコーディネートをしていきます。

 この仕事をはじめて、在宅で自由に暮らすには、できることは自分でやってもらう、それも大事だと知りました。たとえば、ご家族から薬の管理を頼まれて、支援の計画に入れたら、本人がやれる、と言い張る、やってもらったら実はちゃんとできたとか、そういうことも多いのです。自分がやれることに手を出されるのは嫌だという気持ち、ヘルパーさんがいつもいるのはうっとうしいと思う気持ち、それらを理解する必要があると思います。あくまでもご本人が主人公です。「ご本人の気持ちを尊重する」ということを、支援する側は大事にしなければいけないと思っています。
 つまりは、「あなたに必要なところだけを援助します、一緒に頑張りましょう」というスタンスですね。

 人の気持ちを推し量る、ということでは、テニスのインストラクターをしていた時の体験がいきています。楽しそうにやっていた人が急にやめたり、つまらなそうなのにずっと続けている人もいるんですよね。顔の表情とか、少しの会話の中で、相手のニーズを読み取らないと、その方にとって楽しい場所にできないわけです。今になり、インストラクターの経験も無駄ではなかったな、と思います。

 大切なのは、本人が自ら「長く生きたい」と思うこと。それが出来ない場所で長生きしても人は幸せではないと思います。だから、本人が「長生きしたい」と思えるような支援をしたい。ご本人が望むように、その方が暮らしたいと思う場所で生活して欲しい。住み慣れた自宅で暮したい、そう望んだ誰もが自宅で最期まで暮らし続けることができれば、それこそ本当に介護の革命だな、と思います。

アシスト付き自転車で、担当地域を回る田中さん。去年の夏に結婚した彼曰く。
「この職場は、スタッフが互いをサポートできる体制が整っているので、プライベートの時間を大切にできるんです」とか。

【久田恵の視点】
 介護の世界も格差社会です。いろんな介護施設へ行くと、こんなところで介護を受けたいと思う場所は、とても高額です。半ばあきらめの境地の高齢者も少なくありません。「在宅老人ホーム」は、実践できている地域がまだまだ少ないのが現状ですが、いずれ都心の密集した小住宅街での必須介護システムになる日がきそうです。高齢になった時、誰もが安心して在宅介護が受けられる、それが選択可能な社会が実現できたら素晴らしいと思います。