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介護職に就いた私の理由(わけ)

さまざまな事情で介護の仕事に就いた方々の人生経緯と、介護の仕事で体験したエピソードを紹介していきます。「介護の仕事に就くことで、こんなふうに人生が変わった」といった視点からご紹介することで、さまざまな経験を経た介護職が現場には必要であること、そして、それが大変意味のあることだということを、あらためて考えていただく機会としたいと考えています。
たとえば、「介護の仕事をするしかないか・・」などと消極的な気持ちでいる方がいたとしても、この連載で紹介される「介護の仕事にこそ自分を活かす術があった・・」というさまざまな事例を通して、「介護の仕事をやってみよう!」などと積極的に受け止める人が増えることを願っています。そのような介護の仕事の大変さ、面白さ、社会的意義を多くの方に理解していただけるインタビュー連載に取り組んでいきます。


●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃったら、
kawase@chuohoki.co.jp
までご連絡ください。折り返し、連絡させていただきます。

花げし舎ロゴ

花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第58回 バリバリのキャアリアウーマンから転身 
介護は人間力がアップして、人生が豊かになる仕事です

小泉美智子さん(58歳)
株式会社やさしい手大橋サービス(東京・品川区)
介護福祉士・インストラクター

取材・文:進藤美恵子 

人の役に立つ福祉関係の仕事をしたい

 高校卒業後は、タイピストの専門学校に進学しました。カタカナの職業が流行っていた1976年頃のことです。親の敷いたレールに乗って、上場企業に就職。社長秘書として働きました。そして、「結婚して、子どもを産んで、また職場に復帰して」という形になりました。

 私の中では、母親になった頃から、人の役に立つ福祉関係の仕事をしたいと思うようになっていました。けれども、レールに乗ったまま事務職として働いて、途中、離婚も経験しました。娘を育てなければいけないこともあり、そこから道を外れることができませんでした。総務、経理、人事とキャリアを積んで、マネージャーを務めました。そして、娘が社会人になり、ひと段落したところでその会社を辞めて、ようやく念願だった福祉系の仕事に進むことにしました。

実は、介護に対する抵抗がすごくあった

 福祉の中でも、「子育て」、「介護」と考えていたときに、ヘルパーをしている友人の一人の姿を目の当たりにしました。いまの私と同じ、自費ヘルパーの働き方をしていた友人が、とても生き生きとして、「私には天職よ」と。でも、私には介護に対する抵抗がすごくあった。それは、従姉妹が親の介護をしているのを目の当たりにしたとき、果たして私が同じ立場になったときに介護ができるだろうかといったら、全然自信がなかったんですね。でも、その自信のない自分って何なのって思って。人として、それはどうなのと思いました。

 会社では、マネージャーをして、ある程度のポストにいて、部下もたくさんいる管理職として働いている。そこではいいかもしれないけど、でも一人の人間として考えたときに、「それってどうなのよ」、と自分の中で問いかけたんです。

 介護の仕事をしている友人からは、「こんなに人から、ありがとうって言ってもらえる仕事はないわよ」って。そんなに役に立てる仕事なんだ、それなら一度やってみようと。新聞を読んでいるときに短期間でヘルパー2級を取得できる学校を見つけて、思い立ったらすぐ行動です。それがいまから6年前のことです。

コミュニケーション能力で乗り切ってきた

 全く経験がない中、一人でお客様のご自宅に行って長い時間、介護するのは難しいですよね。施設等での経験を積んでから登録をしたほうがいいと友人たちとも話をしていました。私も自信がありませんでしたし、実際そう思いました。けれども、施設勤務では、夜勤もあります。私は、夜は家でしっかり寝ないとだめなタイプなのです。現在の登録先のコーディネーターの方が、「大丈夫よ。やってみたらいいわよ」って、背中を押してくれたんです。それでポンッと資格取得後、すぐに登録紹介型の自費ヘルパーの仕事に飛び込みました。

 現実は、わからないことがいっぱいあるわけです。ヘルパーをしている友人を“模擬お客様”にして、オムツ交換や車椅子への移乗などの実習を重ねました。現場で何か困ったことやわからないことがあったら、友人たちに一斉メールをして教えてもらったり、紹介会社に聞いたりして技術を獲得してきました。

 でもね、できないながらもスムーズにここまでやってきました。実は、私は、コミュニケーションのインストラクターもしているんです。お客様との信頼関係ができるということは、すごく助けられたなと思うんです。できないながらも助けてもらえる、協力してもらえることがすごくあって。ちょっとへましてもカバーできる、それがものすごく大きく、私を助けてくれたと思います。

 それは、お客様と私との関係、お客様のご家族と私との関係もそうです。お客様とは、長時間一緒にいますので、いろんな話をする中で人間関係を築けるし、だからこそ信頼関係も築けます。何かをするときに、「これからこういうことをします、協力してくださいね」と伝えると協力してくださるので、とてもやりやすくなります。ときには、「私はどういうふうに動けばいいですか?」と聞いてしまうことも。そうすると、「こうしてください」って返ってきます。そうすると、お互いに楽なんです。お客様も変に力を入れなくていいし、私に委ねるのですごく楽で、そういう面からも助けられたと思います。

 ご自宅では、看護師やドクターの来訪、ヘルパー間の交代もあります。その中で、見聞きをしてどんどんスキルアップをして、6年目になりました。

自分にとってもいい時間にしたい

 親業訓練協会という、お互いの間に信頼関係を築き、そんな中で相手の自立を促し、自分も自立していくプログラムを提供している協会があり、その中で、子育ての講座や、医療・介護に携わる方向けの「看護ふれあい学」を提供しています。それを私はインストラクターとしてお伝えしています。アメリカのトーマス・ゴードン博士が提唱したプログラム(ゴードン・メソッド)で日本に入って36年目。看護ふれあい学は、慈恵医大などでも実践されています。介護の分野では未だ力を発揮できていないのですが、微力ながらやっています。

 ゴードン・メソッドには、子育てをしているときに出会ったのですが、親子関係だけではなくて、大人と大人の関係、すべての人間の心と心のキャッチボールなので、おぎゃあと生まれて感情が湧き出た赤ちゃんから、亡くなる寸前の感情がなくなる方まで、すべての方に使えるメソッドなんですね。それを介護の中で実践していったらすごく上手くいって、助けられたんです。

 全国展開をしている会社で、すでに社長の代を息子に譲った方のところに行ったことがあります。そこに定期で入っているヘルパーさんが骨折して動けなくなったときに、私が2週間ほど通うようになりました。最終日に、「今日で最後です」ってお伝えしたら、「君に聞きたいことがあるから、ちょっとテーブルに座ってワインでも飲もうや」って。私は下戸なのでお茶を飲みながらでしたが、「ヘルパーって、賃金も安いし、大変だし、それなのに、どうして君はそんなに生き生きと仕事をしているの? それが不思議でたまらない。その所以を聞かせてくれ」と聞いてきたんです。

 私は、「確かに仕事としてお給料をいただいているけれども、私にとって人として当たり前のことと捉えていて、ここに一緒にいる時間は、お客様にとってもいい時間はもちろんのことだけれども、自分にとっても大切な時間だから、自分にとってもいい時間にしたいと思っているんです」とお答えしたんです。「この仕事は大切な仕事、お役に立てて私は嬉しいんです」とお話をしたら、「ああそうなんだ、なるほどね。感心するね」と言われて。そんなこともありましたね。

登録型で働くメリット

 「中途半端にやるのはおもしろくない。やるならどっぷり浸かってやるほうがおもしろい」と自分の中で楽しめたり、ワクワクしたり、できないことをもっとできるようになったりするほうが楽しいですよね。耐え難い毎日では、おざなりになってしまいます。介護の仕事は、「人」が相手ですので、コミュニケーション(関係性)を大切にしています。

 登録型派遣会社では、お客様から会社に求人が入ると、紹介会社に登録している私たちヘルパーに連絡が入ります。登録型派遣では、会社を通じてお客様からの指名をいただくこともあります。ありがたいことに指名が多いです。身体はひとつなので、なかなかお応えすることはできないですけれど。会社を通さずに直接依頼を受けることもできますけど、それはしません。万が一の事故やケガ等の対応のことであったり、いろいろな点でリスクがありますから。

 登録型で働くメリットは、まず、効率のよさです。介護保険を利用した訪問介護では、移動の時間は給料にカウントされません。登録型では、1回の勤務時間が長いので移動の時間がない、またはあってもその時間は少ないです。介護の仕事のほかに、インストラクターとして講演や講座をしたりしているので、平日を空けることができたりと、時間の調整のしやすさがあります。

娘が賛成してくれたヘルパーの仕事

 実は、ヘルパーになると決めたときに、娘の反応が気になりました。いままで事務職でキャリアアップしてきた私をずっと側で見ていて、介護の仕事と知ったら「娘はどう反応するかな」、「娘の友だちはどう思うかな」、「娘は嫌かな」と思って聞いてみたんです。「介護の仕事、どうかしら」って。

 そしたら娘は、「いい仕事だよね」と言ってくれて。娘は美容院に勤めていて、ヘルパーの方がおばあちゃんを美容院に連れて来るのを日常的に見ていて、「なんかいいな。温かいな」というのを感じていたんです。

 一方でほかの人は、「どうしてそんな大変な仕事をするの。いままでと違う仕事に、なんで」という声が多かった。まずは、「大変ね」といわれることが多かった。でも、「大変じゃないのよ」って私は言いました。普通の企業に勤めていても大変なことはいくらでもあって、人間関係も大変だし、何の仕事をしても大変なことは必ずあるわけだから、「自分が何をしたいのか」が大切。この仕事が好きなのと、お役に立てていることの喜びや、なによりも自分の生活スタイルに合っていることなんです。

 介護職って、人間力を上げる勉強にもなるし、一番かなって思うんですね。社会とつながれるし、人生が豊かになる仕事です。介護職になって自分が変わったのね。気づきというのは、「看取り」や「死」という視点から、人生を見られるようになったことがあります。だから、いまこうしているのを大切に思うようになりました。

 仕事をしている時間も自分の時間なんだから、自分も相手も大切にしたいという気持ちもあります。核家族になって、人の死ということを目の当たりにする機会が減ってしまった。その中で生きることの大切さやいかに生きるかを学ぶことができるのが介護です。集約すると、「人間力」ですよね。自分がこの場所にいるということ、そうすることで人生観とかも変わってくるんじゃないかと思っているんですね。そういう経験ができる仕事ってなかなかないし、ましてや人として当たり前のことをしているんですよね。介護って。

「井の中の蛙」にならないことをアドバイスしたい

 介護は、することが当たり前だと思ってやっていても大変なこともあるかもしれません。けれども、昔から、人が人を介護するのは当たり前でした。身内であろうが、はたまた、近所の人を介護するかもしれないし、人が人を介護するのは当たり前だったんですね。その助け合いだったり、お互い様の関係だったり、本来の人間の姿のような気がするんです。それをしながら、自分の生活の糧にできて、お給料をいただけている・・・なんか上手く言えないんだけれども、自分自身の人生を豊かにするというか、そんな仕事だなって思っています。

 介護に関わる人たちが自分の仕事に誇りを持ち、ブラッシュアップしていくと、もっともっと素晴らしい介護の世界が広がるだろうし、そうなると介護の世界に飛び込んでくる人や離職率も減るのではないかと思います。

 いま、いろんなところで、意見交換ができる場として、たくさんのカフェや勉強会が立ち上がっていますよね。意識の高い人たちがいろんなカフェや勉強会を立ち上げています。「介護職をどうしよう。嫌になってしまったな」という人には、離職する前に、井の中の蛙にならずに、そういうカフェや勉強会などに出かけて行ったら、周りの状況もわかるし、自身のことを振り返ることもできます。私も1人で動いていますので、そうして学び、ヒントを得たりモチベーションを保ったりしています。

自立支援が基本かな

 「介護」と「子育て」って、ものすごく似ていると思います。自立支援のところが。いかにこちらが余計な手出しをしないで、自立を支援していくのがまさにそう。あとは、その人がどうしたいか、どう生きていきたいか、介護だったら現状の体の状況を踏まえて、なにがしたいか、どう生きていきたいかに寄り添って、できないところを手助けしていく。

 子育ては、自分が生んだ子なんだけれども、自分とは別個の人格を持った人間で、自分とは違う能力や才能を持っている。だから、自分のこういうふうになってほしいということに当てはめない。そもそも当てはまるはずがないので、その子の持っている能力、伸びていく力を自立支援していく。小さい頃は自分では言えないけど、大きくなったら、自分でこういうふうに生きたいと考えて、自分で行動していける子どもに育てていくという関わり方。本当に同じだと思うんです。

 この先、70歳くらいまでは働きたいと思っています。それが介護職かどうかはわからないけれども。いまは、介護というところが私の中では、比重は大きいのですけれども。目指す先は、介護だけではなくて、子育てもみんなで上手く交流し合いながら、昔のような社会と同じような形にはならないと思うけれども、今の時代に合った「温かい風」が吹くような、そんな社会や地域になったらいいなと考えています。その一翼を担えたら嬉しいです。

 ずっと介護を続けているかもしれないし、この経験を活かしてほかの仕事にシフトするかもしれない。未知ですけれども。うふふ。(笑)

インタビュー感想

 体調管理と同時に、精神的な気持ちの管理を大切にされている小泉さん。ストレスフルだったり、疲れていたりすると、やっぱりいい関係が築けないのだそう。「気持ちのコンディションはすごく大事です」と。その秘訣は、「睡眠をしっかりとって、ショッピングを楽しんだり、友だちと楽しいおしゃべりをしたり」して、気持ちのコンディションに努めているそう。小泉さんの現場では、双方ともに楽しい時間を過ごせている様子が目に浮かぶようです。

【久田恵の眼】
 介護する、されるの関係の中では、介護される方が主役。 今、相手がなにをどのように、どうしてもらいたいのか、そのニーズを的確にとらえて支援していく、それを技術として持っていることが、介護士の専門性のひとつということですね。