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介護職に就いた私の理由(わけ)

さまざまな事情で介護の仕事に就いた方々の人生経緯と、介護の仕事で体験したエピソードを紹介していきます。「介護の仕事に就くことで、こんなふうに人生が変わった」といった視点からご紹介することで、さまざまな経験を経た介護職が現場には必要であること、そして、それが大変意味のあることだということを、あらためて考えていただく機会としたいと考えています。
たとえば、「介護の仕事をするしかないか・・」などと消極的な気持ちでいる方がいたとしても、この連載で紹介される「介護の仕事にこそ自分を活かす術があった・・」というさまざまな事例を通して、「介護の仕事をやってみよう!」などと積極的に受け止める人が増えることを願っています。そのような介護の仕事の大変さ、面白さ、社会的意義を多くの方に理解していただけるインタビュー連載に取り組んでいきます。


●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃったら、
kawase@chuohoki.co.jp
までご連絡ください。折り返し、連絡させていただきます。

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花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第41回 派遣社員から介護職へ。 
何気ない会話、その方に寄り添う時間を大切にしています

西村弘美さん(54歳)
介護付きケアハウス つぐみのおかコモンズ(神奈川・中郡二宮町)
生活相談員

取材:原口美香

最初は、どうしても介護をやりたい、っていうことではなかった

 小さいころはわんぱくで、壁とか木とか登ってしまうような子どもでした。私は神奈川県の大磯町で生まれ育ち、一度も引越をしたことがないんです。学校を卒業した後は、藤沢市の会社に就職して事務の仕事をしていました。でも「私がやりたいことはここではないな」と感じて、25歳のころ、会社を辞めたんです。それで、東京にある派遣会社に登録して、大手広告代理店で働き始めました。営業や研究開発の部署でマーケティングリサーチのデータ処理をやったり、振興くじの立ち上げにかかわったり、会議のテープ起こしなどもやりましたね。

 45歳くらいのとき、派遣先の会社が移転することになったんです。ずっと神奈川から通っていたんですけど、遠くなって大変になるなと思って契約の更新を止めました。派遣の仕事は時給がいいけど、交通費が出ないんですよね。1か月3万5千円くらいかかっちゃうんです。それで、地元で正社員として働けるところを探そうと思いました。ハローワークで仕事を探している間に、資格が取れる講習があるというのを知って、それも選択肢の一つだと考えたんです。

 思い返してみると、その前の年に、主人の母がちょっとおかしいって話があったんですね。介護という話ではなかったんですけど、勉強したら、そういうことが分かるのかな、ってそういう感じでした。最初は、「どうしても介護をやりたい」っていうことではなかったんですけど、講習会場も通いやすい場所にあったし、専門学校の講師の方が教えてくれ、月曜から金曜の9時から4時までしっかり学べて、資格がたくさん取れるっていうのも魅力でした。卒業までにヘルパー2級、視覚障害者のヘルパーなど、4つくらい取得しました。

 私は、最初からここです。ハローワークで調べて、その中では条件がよかったんです。もう一つは、平均介護度。今も幅広く、要支援1から要介護5の方がいらっしゃいますが、その当時は平均、介護度2までいってなかったと思います。それで最初の入り口としてはいいかな、と思ったんです。普通にズルイ考えです。平成22年の5月からですね、丸6年。

 実際現場に入って思うのは、本当に講習が充実していたな~って。声かけにしろ、身体介護にしろ、習ったことがすぐに使える状況だったと思います。だから、あまり戸惑いがなかったですね。

日中のトラブルが夜間に影響する

 ケアハウスっていうのは、アパート、マンションの一室と同じで、一つの空間を、一つのおうちと考えているものです。その中に介護ステーションがあり、お手伝いする私たちがいる。「だから安心してください」っていうような。ケアハウスの中でも、介護職員が常駐している、介護型のケアハウスです。少ないんじゃないかな、まだまだ認識されてないんです。今は、65歳から102歳の方がいらっしゃいます。

 私は、現場のヘルパーを3年やった後に介護福祉士を取りました。その頃、「生活相談員をやりませんか?」っていう形で職種替えがあったんです。それで生活相談員として勤務することになりました。仕事の内容は、ご家族との連絡、連携ですね。口にする方は少ないんですけど「(家族が)あまり来てくれないのよね」とか、世間話の中で聞き取ったことを、何かの折にご家族に連絡したりとか。

 あとは施設内のトラブルがないように、何かあってからだとややこしくなってしまうので、普段から聞き取りをして問題が起こらないようにしています。ご近所付き合いの仲裁役みたいな感じですかね。

 現場の夜勤のときに感じたことなんですけれど、やっぱり夜、いろいろな行動をされる方がいらっしゃるんですよ。部屋から出て、物をいじったりしたりね。そういう方は、「なぜこういうことをするんだろう」「なぜ眠れないんだろう」って自分なりに考えました。それでいろいろ試したりして、「こうやれば落ち着くんだな」と発見できたりもして。日中のつながり、昼間、誰とどう喋ったとか、どうケンカしたかによって、夜にその症状が出たりするんですよね。だから生活相談員になった今、日中のトラブルなり、何か誰かと接している時に嫌な顔をしていないか、言葉で出せなくても表情に出ていないかと気をつけて見るようにしています。日中、起こった出来事が、夜に失禁したりとか、そういう症状になって出てくることもありますね。心と身体はつながっているんだなと思います。

 ここにいると、普段のコミュニケーションや会話がとても大切だと思いますね。本当に日中、あまり話さないんですよ。お部屋を持ってらして、普通にテレビを観ていたら、何も話さないじゃないですか、他の人と。それを考えると、みなさん、本当はいっぱい話したいんだろうなって思いますね。そこで、私たちが何を汲み取れるかだと思うんです。

普段思っていても言えないことがボソボソって出てくるように気遣う

 最初は、挨拶がきっかけですね。遠くにいても自分のことを認識してもらえたら、手を振るだけでも違う。目的がなくて歩いている様子の方には、近寄って「どうしました?」とか。「なんでもない」って言っても「ホントに?」とか、「じゃあ、またあとで」って。挨拶の後の声かけ、2言目、3言目を大事にしているかな? 自分のことを無視されて、話を聞いてもらえないと心を閉ざされるより、何でもないことを話しているうちに、普段思っていても言えないことがボソボソって出てくることもあるんです。それが5回に1回なのか、3回に1回なのか分かりませんけど、深いところからちょこちょこっと。それが拾えれば、と思います。

 認知症の方と接するときなど、演技したほうがいいと思うこともありますね。悪く言ったらウソなんですけど、よく言ったらコミュニケーション技術の一つみたいな感じです。うまく別の言葉に変えてお伝えする。そうすると傷つかない。伏せるところは伏せたり。「あのときは(昔は)こうだった」って話される方もいますし、懐かしさのまま置いておいてもいいのかな、って思うこともあります。そうすることも介護かなって。

もう少し勉強したい

 やっぱり、アメだけじゃダメなときもあるんですよね。何でも「これ、やっておきますね~」ってお預かりするのではなくて、この方は、ここまでできるはずだ、って。「一緒にやってみます?」っていうように声かけて、その時間をやりっ放しにするのではなく、一緒にできるというのが理想の形ですね。慣れてきたら、ちょっと離れて、また戻ってくる。めちゃめちゃになっていることもありますけど、「やっておいてください」じゃなくて、その方と寄り添う時間。そういう時間はとても必要だと思います。

 今でも職員が足りなかったりするときには、現場に出たりします。その方の食事の様子なり、普段の様子なりが、毎日ベッタリってわけじゃなくても把握していかないといけないと思いますね。そういえば、今日一日この人に会ってないな~って思う方はいらっしゃいますし。だから現場のスタッフの方が頼りですし、現場での情報や認識を高めていけたらと思います。

 今は、生活相談員でも専門に勉強しなきゃいけないことがあると思うんです。社会福祉士の資格は取っておかなければいけないかな。今、問題になっている成年後見人制度、あれも社会福祉士の資格を持っていないとできないっていうのもあるし、財産管理なり、バックボーンなり、その方の生活のもっと深いところまで踏み込めるといったら変ですけど、もう少し勉強したら、そういうこともフォローできるっていう感じですかね。難しい試験なので先は長いですが、できればいいですね、積み重ねて少しずつ。

つぐみのおかコモンズ全景

インタビュー感想

 まだまだ認知度が低いといわれる、介護付きのケアハウス。施設内は、毎月のイベントでの写真や作品などが通路いっぱいに飾られていました。豊かな表情で、気さくに利用者の方に声をかけて歩く西村さんは、一緒にいるだけで楽しくなってしまうような雰囲気の方。普段の挨拶や何気ない会話から、ささいなことでも汲み取っていこうというその姿勢、「心と身体はつながっている」という言葉からは、いつも利用者の方に細やかな目が向けられているということが感じ取れました。生活相談員となった今も、現場を大切にしているそうです。「優しさだけではなく、利用者の方を思うが故の厳しさもときには必要」というお話は、とても印象的でした。このような方がいるだけで、利用者の方々も安心して暮らしていけるのではと思います。

【久田恵の眼】
 介護付きケアハウス、あまり知られていない形態の施設ですね。入居されている方に介護度の幅があるということは、ゆとりを持ってサービスが提供されるメリットがありそう。ともあれ、入所されている方は、高齢になってから、住み慣れた家を離れて暮らさざるを得なかった方たちです。そのストレスは大変に高いものだという認識を施設介護者は忘れないことが大事ですね。一番不安に感じていること、心配していることが取り除けられないと、人には前向きな生きる意欲が生まれないものですから。
 「相手に寄り添う心」を大事にされている西村さん。彼女のような暖かい介護職に出会えた方は、幸運です。