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山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術

山口 晃弘(やまぐち あきひろ)

超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。

プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)

介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑にて人材育成担当。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)がある。

著書

『最強の介護職、最幸の介護術』
『最強の介護職、最幸の介護術』

人生の終わり方 ~後編~

 胃ろうを造設し、寝たきりになったAさんは、特養に入居することになりました。

 施設のケアマネジャーは、ケアプランを立てるのに、要望を伺います。まずはAさんご本人に「Aさん」と要望を聴こうとすると、娘さんが苦笑いしました。
 「母は、脳梗塞を起こしてから、喋ることはできません。意識もないですから」と、Aさんとケアマネとの会話を遮りました。そして、ご自身から要望を話し始めましたが、「特に何もありません。母はこのような状態ですから、たまに車いすに起こしていただいたり、日光浴でもたまにしていただいたらありがたいです」とおっしゃいました。

 「寝たきりで意識がなく喋れない母」というのが、娘さんの中にある今のお母さん。
 介護職にとっては、「寝たきりにはされているだけで、意識がないかどうかも分からないし、本当に喋れないかどうかも分からないAさん」。
 この違い。これこそが、介護職の一つの専門性なのかもしれません。人に対して諦めない。いくつになっても人間には可能性があると信じて実行する。

 入居から数日。面会に来た娘さんは、驚きを隠せませんでした。
 介護職「Aさん!」
 Aさん「はい?」

 介護職の声かけに、Aさんが顔を職員側に向けて「はい?」と答えていたからです。
 「母は喋れるんですか!?」娘様は我が目を疑うような表情で、職員に聞きました。

 「Aさん、職員達がよく声かけするから、喋ってますよ。この子達は元気がいいから、うるさくて寝てられないんじゃないの」と、ベテランの看護主任が笑いながら娘さんに伝えました。「○○さん(娘様)、あなた後悔してるんでしょ。だったら、お母さんにもう一度口から食べてもらったら?あたし達がついてるから、大丈夫よ。一度は終わった命だと思ってさ」。なんとも不謹慎な発言ととられるかもしれませんが、この時の看護主任の言葉は、力強く、自信に満ち溢れていました。
 「はい!お願いしたいです!」と、娘様は泣きながら答えました。

 その後、ペースト状の物でしたが、Aさんは毎日口から食事を食べるようになりました。最初に食べた時は、娘さんに立ち会っていただきました。何年ぶりかに口から食べる食事。一口目を食べたAさんは、職員の「Aさん!おいしい?」という言葉に、ニタ~っと笑いました。
 それから五年余り、Aさんは生き、最後の最後まで食事を口から食べていました。

 老衰死、自然死、尊厳死。苦しむよりも、自然な形で逝かせてあげたい。社会でも、そのような考えが広がりつつあります。私も肯定派です。

 ただ、自分の人生は自分のもの。とはいえ、残される家族の気持ちにも寄り添う必要があると思います。たとえ、元気な頃から話し合って決めていたとしても、大切な人を失う、大切な人がもう二度と会えなくなる、そう思うと決断できないことも、十分理解できます。

 寝たきりになったとしても、もしかしたら不本意な延命になったとしても、そこからの人生を請け負うのが介護職。私たちです。

 私たち介護職がすべきことは、「尊厳死」を守ること以上に、「尊厳を守る」ことであると思います。