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山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術

山口 晃弘(やまぐち あきひろ)

超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。

プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)

介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。

認知症介護の明日はどっちだ!

 先日、このブログでも紹介させていただいた当法人の実践報告会が13日、無事に終わりました。当日は、たくさんのお客さまにご来場いただき、本当にありがとうございました。

 報告会では、私が所長を務めるグループホーム奥沢・共愛も、介護職による実践発表をさせていただきました。

 発表のことをブログでご紹介させていただこうと思った時、当事業所の説明をしたことがなかったことに気づきました。時折「OK」という単語が登場したかと思いますが、これは事業所名の「奥沢」(Okusawa)と「共愛」(Kyouai)の頭文字を取ったものです。「OK」は肯定的な言葉で、地域の方からより親しまれやすい愛称はないかと考えた時に生まれたものです。

 そこで、私たちは「グループホーム奥沢・共愛は、自分らしく生きることOK!」というスローガンを立てました。

 認知症は、基本的に進行するものです。たとえ認知症が進行しても、麻痺や車椅子、いわゆる寝たきりになったとしても、私たちは「OK」。肯定的に受け止めていくという意思表示でもあります。

 そして、もう一つ。私たちは「明日が楽しみになる今日を創る」というビジョンを立てました。ビジョンとは、経営理念に対する中期的な到達点のようなもの。3年から5年を目途に実現していく組織目標です。このビジョンを社内に浸透させ、社会に対するイメージの確立、評価、信頼につなげていく意味があります。

 このビジョンを説明した時、複数の方から、「明日が楽しみ…って、5分前のことも忘れてしまう認知症の人に、どうやって明日を楽しみにしてもらうのですか?」と聞かれました。

 前回のブログで、「生活とは、活き活きと生きること」と書きました。私たちは、昨日が今日でも、今日が明日でも変わらない。そんな毎日ではなく、明日のことや未来のことを考えると心躍るような毎日を創造する。そこを目指しているのです。

 全体でのイベントとなる運動会や食事会、個別の企画である旅行や観劇などに、介護職は日めくりカレンダーを作って、明日が楽しみになる演出をします。他にもさまざまな仕掛けを用意し、「○月○日には○○がある」という意識を高めます。そして、そのイベントに向けた練習を日常に取り入れます。その内容も、前頭前野への心地良い刺激。つまり、少し考えたり、少しがんばれば達成できるようなプログラム。そこに、やらされてる感をもたないよう、ユーモアを取り入れ、ユニークな発想で行っていくのです。

 私が初めてお会いした時、OKの入居者の皆さんは、職員の名前を覚えていませんでした。「顔は覚えてくれても、名前は覚えられない」と聞かされていました。ところが今は、「○○さん」「○○君」「所長」と呼んでくれます。

 認知症は治る?そうではありません(分かりませんけど)。治るというより、元々残されている脳の機能が、同じような毎日、生きがいも感じないような毎日によって、蓋をしているのではないかと思います。

 毎日が楽しく充実し、明るくて楽しくて優しい職員に囲まれていれば、お年寄りは幸せではないでしょうか。OKの職員がそこに到達するにはまだ不十分ではありますが、「明日が楽しみになる今日を創る」というビジョンの下、その努力をし続けていく所存です。

 私たちは、認知症の方の明日にチャレンジします!