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和田行男の婆さんとともに

和田 行男 (和田 行男)

「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。

プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)

高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

塀の中の「よりマシ?」


 甲子園球場のグランドに当たる面積ほどの敷地に作られた介護施設に、150人ほどの婆さんを暮らさせているところがオランダにある話をずいぶん前に聞きました。

 敷地内には広場があり、スーパーやカフェ、映画館もあるなど、さながらハウステンボスのような「ひとつの街」ですが、3メートルほどの高い塀に囲まれ、入り口はオートロックで厳重に施錠され、監視カメラで管理しているようですから、言いようによっては「テーマパーク」か「見栄えのいい病院」といったところでしょうか。
 職員数も、日本でいう常勤換算数かどうか「?」なので、数だけでコメントできないのですが、250人の職員が働いているそうです。

 10年ほど前に開設されましたが、僕自身は20年以上も前から「ヨーロッパのような城壁の街だったら、認知症になっても、認知症の家族をもっても、介護施設の職員も、施策をつくる役人たちも、もっと気楽に暮らせるし支援きるだろう」という話をしていたので驚きはしませんでしたが、違和感をもちました。

 というのも僕の原点は「ノーマライゼーション」ですから、この介護施設の根っこにあると思える「婆さんだけを隔離して生きさせる=婆さんのいない社会づくり」は、僕とは違うと感じたからです。

 これまたずいぶん前ですが、あるシンポジウムで僕が「婆さんはいわばハンセン氏病状態におかれている」と現状を評したことに対して、同席していたハンセン氏病隔離施設で仕事をしていた医師から「和田さんはハンセン氏病状態と言われましたが、認知症はハンセン氏病よりも酷い。なぜならハンセン氏病の人たちは塀の中に隔離はされてはいますが、中に限っては自由がある」と言われた言葉を思い出します。
 オランダのこの施設こそ「ハンセン氏病状態」といえるのではないでしょうか。

 でも別の見方をすれば、建物の中に放り込んで隔離・軟禁状態にしている介護施設よりは「よりマシ」とも思えたのですが、そう考えた僕の中には前述とは違うもうひとつの視点があって、「認知症の状態にある方にとってどうか」と考えたとき、あながち悪くはないのではないかと思えたということです。

 何故ならこの敷地内では一般社会と比して「ズレが起こらない・起こりにくい」と思えますし、住みにくさを感じることが少ないのではないかと思えるからです。そこここらの介護施設よりは「よほどマシ」ということですね。

 ならば僕は「その道で行くか」といえば答えは「NO!」で、それは「婆さんとその理解者しか存在しない街にNO!」ではなく、「婆さんがいない社会にNO!」だということです。

 日本の施策は「社会の中での暮らしやすさ」を追求してはいますが、建物の中に隔離してしまう介護施設の在り様を問題視していない矛盾を感じています。

 オランダのこの施設の発案者は「介護従事者」だそうですが、僕との決定的な違いはきっと「認知症患者のための場づくり」と「認知症にあっても人として生きる場づくり」の違いなんでしょうね。

 人がベルリンの壁を築き、人が壁を崩し改めるように、この介護施設の塀が取り壊される日がくることでしょう。

 ふとそんなことを思い出して書いてみましたが、僕の記憶が間違っていたら修正・謝罪しますし、今現在修正されていたら「ごめんなさい」。

追伸

 北海道胆振地方で震度七の地震が起こりました。
 6日早朝3時過ぎに「伊達の仲間」から一報が入りましたが、呑気に東京の行きつけの飲み屋で寝ていて、それに気づいたのは5時。
 すでにテレビで報道されていて、東京よりずっと早く空ける被災地の様子が映し出され状況を知りました。
 幸いにも北海道の仲間たちに被害は出ていないことがわかってひと安心しましたが、まずは停電で「平素の備えの不十分さ」を思い知ったとの仲間の声に「他人事じゃない」との思いをもちました。
 例えば、懐中電灯は備えているんだけど、保管場所がすぐに描けずもたついてしまう・パニックになってしまうというように。
 皆さんも見直してくださいね。非常災害への備えは非常時に使えてこそ生きるものですから。

 また大型台風21号により、作業用の小屋が隣の畑まで吹き飛ばされるなどの被害を受けた「奈良の仲間」の話で驚いたのですが、ドングリの実が、機関銃が乱射されたかのように飛んできて、建屋の壁や窓ガラスに被害を及ばせたそうです。
 まだ熟していない青い実なので硬く、それが壁や窓ガラスに当たってつぶれるほど風の勢いがあったそうで「怖さ」を感じたと。
 恐るべし! ドングリ!

 台風も地震も豪雨も、一瞬にして私たちの暮らしを一変させる破壊力がありますが、できることは「備えること」ぐらい。「どこまで備えれば良いか」ということもありますが、とりあえず「備えあれば憂いなし」へ尽力することですかね。

写真

 曇って面白くて大好きですが、時には不気味に感じます。
 8月18日北海道で見た雲ですが…

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山間地にて