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和田行男の婆さんとともに

和田 行男 (和田 行男)

「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。

プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)

高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

備要師


 超高齢社会に突入し、総人口の25人にひとりが、このさき15人にひとりが認知症の状態になるといわれるなか、詐欺、介護による家族間の事故・事件、高齢ドライバーによる事故など、超高齢社会に突入するまでにはなかったであろうさまざまな新たなことが起こってきています。

 身近なところでも「可笑しくもあり切なくもある」ことが語られるようになってきました。
 これは、友人が行きつけている美容院で起こった出来事です。

 ある時、認知症の状態にあるのかなと思えるトメさん(仮名)が来店されたそうです。
 子どもさんと暮らしているようで、料理も庭の手入れも「ぜ~んぶ自分でやっているのよ」と話され、自称、何でもきっちりやるタイプだとか。

 美容院には、専門業者に依頼して大切にしている観葉植物が飾られているのですが、それを見たトメさんは美容師に「ここの葉っぱは、余分なのよ」と剪定のアドバイスをしたようです。

 美容師は、美容師と客の会話ですから「あ、そうですか」くらいに受け流していたそうですが、美容師がいったん席を離れて奥の部屋に入って戻ってくると、置いてあった髪切り鋏で、大切にしている観葉植物の葉っぱを切り落とそうとしていたようです。

 それを目にした美容師は、思わず「あ~‼ それは業者さんが~」と言葉をかけて止めたようですが、それがトメさんのプライドを傷つけてしまったのか、一瞬シュンと肩を落として黙ってしまったようです。

 気まずい雰囲気が漂うなか、事はどうあれ高齢者に対して「悪かったかな」と美容師は思ったそうですが、トメさんは肩を落としたのはつかの間で、その直後から「シャンプー、カット、ドライヤーに至るまで美容師のやることに文句とため息をまき散らした」そうです。

「いや~、やりづらかったわ~」

 とは美容師の言葉ですが、トメさんは、それで美容院を替えることはなく、その後三度ほど美容院に来られ、同じような「やりづらい状況」が続いたようです。

 ところがしばらく経った四度目からは一変し、トメさんはそれまで何事もなかったかのように振る舞い、そのことを話すことも、文句とため息をまき散らすようなこともまったくなくなったようです。

 認知症の原因疾患が進行して、記憶障がいによって忘れてしまったのかもしれません。
(実は忘れたふりをしているのかもしれませんね。本当のところはトメさんのみ知るです:友人談)

 この美容師は、訪問美容師をしていた経験があり、寝たきり状態の人のカットを依頼されたときに「おしゃれに本人が好む髪型にしてあげたい」と思ったようですが、家族の意向もあって、本人に向かって思うようにしてやれない難しさに悩んだようです。

 きっとそういう美容師だからこそトメさんとの関係を続けることができ、普段からのさりげない受け入れの姿勢が、トメさんの足を遠ざけなかったのではないかと友人は話していました。

 客層に80歳・90歳代が意外に多くいるようで、自分で予約を入れたにもかかわらず心配になって一日9回も「何日の何時だったよね?」と確認の電話をかけてくる人、16時30分で予約をしてくる90歳代の人に「そんなに遅くて大丈夫ですか?」と確認すると「大丈夫」と答えておきながら夕暮れになるとキャンセルしてくるなんていうことが日常茶飯事起こっているようなのです。

 自分で電話をかけられなくなる
 道が分からなくなる
 一人でバスに乗れなくなる
 歩けなくなる
 トイレの問題もでてくる
 だから行きたくても行けなくなる

 今何とか来られている人たちが、自分ではどうすることもできない状態になって来られなくなる。これまでも美容師の知らない・わからないところで辿り着けなくなった人がいることでしょう。

 少し手助けがあれば「行きつけの美容院に行きつける人がたくさんいるんだろうな」と、美容師の話を聞いていて思いました。

 友人がそう語ってくれました。

 ともすると「介護保険=生活支援の専門業・専門職」が関わるようになると「介護事業所の近場の理美容院に変更」や「介護事業所でカット」となり、「介護事業所完結=それまでの人間関係は遮断」で、人としての暮らしの豊かさを失わせかねません。

 でも本来「行きつけの理美容院に通い続けられるように支援する」が支援(介護)の原点で、「行きつけの喫茶店」「行きつけの飲み屋」「行きつけの商店」など「行きつけ=慣れ=なじみ」を大事にするか、それが難しい状況においても「行きつけ」を改めて築くようにして、地域社会生活を営めるようにするのが介護保険法の目的のはずです。

 同時にこの美容師のような市民の経験は、より寛容さをもった社会を構築していく基礎ともいえ、認知症の状態になるまでつながってきたなじみの関係を途絶えさせることは、認知症の状態と触れる経験を失わせることでもあり、市民が積み上げる機会の損失でもあり、社会的損失を専門職が公金で生んでしまっていると言っても過言ではないでしょう。

 認知症になった人を囲って、囲いの中でしか触れることができない、まるでテーマパークのようなところで生きさせていく社会の在り様ではなく、「受け止め」が日本中にあり、いや世界各地にこんな美容師が点在し、どこでも暮らしていける社会の在り様を目論むべきではないでしょうか。

 きっと多くの国民が「必要な事を備える師=備要師」になれたら、認知症になろうが怖いものなしの社会になれるかもしれませんね。

写真

 こういう「人と人の関係で売り買いするお店」がどんどんなくなってきていますものね。なじみの関係はなくなってきますよね。
 うちの介護事業所が使っている八百屋は、親子四代七十年お店をやっているって言ってましたからね。

案内

講演会「だいじょうぶ認知症」&
シンポジウム「だいじょうぶ認知症と言える社会へ」のお知らせ

  • ◎ 10月21日(土)13時開場 16時30分終了
  • ◎ 国分寺労政会館
    国分寺市南町3-22-10
    国分寺駅南口より徒歩すぐ
  • ◎ 無料 定員150名先着順
  • ◎ 講演
    • ・和田行男
  • ◎ シンポジウム
    • ・新田國夫氏
      (医療法人社団つくし会理事長 医学博士)
      在宅診療で全国的に著名な医師です
    • ・青木美佳氏
      (国分寺市医師会立訪問看護ステーション管理者 看護師)
    • ・玉井理加氏
      (国分寺市福祉保健部高齢福祉課課長)
    • ・和田行男
  • ◎ 主催 (株)大起エンゼルヘルプ
    問合せ:本社 03-3892-1331 担当 酒井

 どしどし来てくださいね。

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