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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

避難所とケア

 全国のいたる所を「数十年に一度の大雨」が襲い、記録的短時間大雨情報や土砂災害警戒情報を耳にしない日の方が珍しい日が続いています。気象の素人でも、地球温暖化と異常気象の深刻化を肌で感じざるを得なくなってきたような気がします。


 この画像は、昨年、飛行高度1万2千メートル付近のジェット機から撮影した雨雲です。確か東海地方上空だったと思うのですが、着陸直後にインターネットで調べてみると、東海地方を豪雨が襲っていた時の雲でした。

 時間雨量70mmという雨が、私の経験した最悪の大雨です。このときは車の運転中で、ワイパーを最高のスピードに上げても前方は視界不良のため、スーパーマーケットの駐車場に停車して、雨が小降りになることをひたすら待ちました。滝のように地面に叩きつける大雨の光景と音に囲まれるだけで、大きい恐怖に襲われたことを覚えています。

 ところが、この間各地でみられる豪雨は、時間雨量90~100mmはざらで、それが何時間も降り続いて土砂災害を引き起こしているのです。昨今の気象は、地域ごとの経験値からは決して割り出せない異常なステージに入っているのではないでしょうか。

 気象庁のデータによると、この50年ほどの間に各地の気温は2~3℃上昇していることを確認できます。しかし、私の小学生当時の大阪では真夏に30℃を超える日もありはしましたが、そのような猛暑はあくまでも「トピック」で、子どもたちの間で特別に話題に上る日だったように記憶しています。ところが今や、真夏に30度を超えるのは普通のことに過ぎず、40℃近くになったらようやく「トピック」となるように、生活実感としての気温は10℃近く上昇しているのではないかとさえ感じるのです。

 「ゲリラ豪雨」という言葉が象徴するように、狭い地域範囲の短時間の大雨は、気象庁や専門家でも事前予測が難しいらしく、避難の勧告・指示・誘導などが後手に回りがちになっています。

 従来、住民避難がつきものの災害といえば、地震に台風といった「格別な自然災害」によるものというイメージでした。しかし、今日では、もはや日常的な気象シーンと化した大雨のたびに、避難を考えなければならないものになってきています。しかも、このような避難所での生活を強いられる期間が、かつてよりも長期化するようにもなりました。

 今回の広島の土砂災害においても、夥しい数の住民の方が避難を余儀なくされました。看護師・保健師などの健康チェックや「心のケアチーム」が避難所での活動を始めたとの報道を耳にします。しかし、テレビ報道の多くは紋切り型の内容に終始しています。

 東日本大震災を機に、厚生労働省をはじめ、改めて注意喚起の必要があると指摘されたものの一つに福祉避難所があります。高齢者や障害のある人など介護や福祉的支援の必要な人の避難所として、あらかじめ自治体と協定や契約を締結した社会福祉施設やその他の公共的施設を活用するものです。

 昨年度に内閣府がまとめた「避難に関する総合的対策の推進に関する実態調査報告書」によると、次のような問題点を指摘することができます。

 まず、福祉避難所が知られていないという問題です。一般層では76%、要援護層でも69%が「『福祉避難所』がどういうものかも、自分の住んでいる地域のどこにあるのかも知らなかった」と回答しています。

 次に、市町村の福祉避難所の取り組みに大きい格差のある問題です(厚労省「福祉避難所設置状況」参照のこと)。
 今回の被災地である広島市では39か所の福祉避難所が設置されていますが、呉市ではまだ1か所の設置もありません。埼玉県内でみると、さいたま市で131か所、飯能市で34か所がそれぞれ設置されているのに対して、中核市である川越市は0か所となっています。

 先の内閣府の報告書に戻ると、避難所における健康面での要望は、一般層と要援護層ともに、「風邪、肺炎、インフルエンザ等の感染症対策」に最多の要望があり、次いで「震災発生前からの、要介護、障害の状態悪化等への対策」、そして「糖尿病、高血圧等の生活習慣病対策」と続き、4番目にようやく「うつ病等の精神疾患対策」が出てきます。テレビ報道はすぐに持ち出す「心のケア」に対する要望の順位はさほど高いものではありません。

 高齢者や障害のある人に乳幼児を抱えた父母や妊産婦も含めて、何らかの支援を要する人を想定すると避難住民の2割近くが該当するのではないでしょうか。避難生活が身近なものとなってきた不幸を脇において事態を正視するならば、地域社会が普段に有する福祉・介護の支援機能が、避難所の設置時点から避難所内で継続利用できるくらいまでの災害対策を自治体は立てておく必要があるのではないでしょうか。

 たとえば、一つの体育館が避難所になった場合、そこには授乳室を兼ねたベビールーム、乳幼児保育スペース、障害のある人・高齢者のデイサービス・スペース、医療・保健スペース、さまざまな相談スペース等が、すべての避難所にすぐにもれなく設置できるような避難計画を立てておくことです。社会福祉施設を中心とする福祉避難所は、ヘビーな支援ニーズと一般避難所のバックアップに対応するものとして位置づけ直すべきです。

 少子高齢化が進み、障害者の権利条約が批准されたわが国の災害対策においては、支援ニーズを抱える人たちが避難所で決して排除されないことを原則とするべきであり、それを担保する実務計画の策定が全国の自治体の急務であると考えます。