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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

この事件の背後に何があるのか

 東京都目黒区で5歳の女子児童が死亡した痛ましい虐待事件について、連日、さまざまな報道が続いています。亡くなられた女の子のご冥福を祈らずにはいられません。

 昨日の朝日新聞朝刊は社会面を大きくこの事件に割き、「SOS何度も」と題して報道しました。香川県西部子ども児童センターが2度にわたる一時保護を実施し、警察は父親を傷害容疑で2度の書類送検をし(いずれも不起訴)、この家族の東京都目黒区への転出に伴い、東京都の品川児童相談所に情報を引き継いだといいます。

 香川県善通寺市で発生した虐待と虐待対応に関する詳しい情報が品川児相に伝えられていたとすれば、品川児相が家庭訪問でこの女子児童との面会を拒まれた時点で、直ちに警察と連携せず最悪の事態を迎えてしまったことは、容認すべからざる品川児相の職務怠慢です。

 新聞報道によると、品川児相の林直樹所長は「危険性を判断できなかった」としているようですが、香川県からの情報を踏まえて面会拒否の事実を受けとめれば、直ちに警察と連携する必要があると判断するのは当然です。林所長は、香川県からの情報を十分に理解した上で、見守りから虐待対応を始めたとでもいうのでしょうか。

 とりわけ、平成28年の児童福祉法改正によって、児童虐待の防止対策と迅速で的確な虐待事案への対応の強化にさまざまな手立てが講じられてきた中で、今回の事案が発生した事実に注目する必要があります。つまり、これまでたびたび指摘されてきた児童相談所の虐待対応にかかわる問題とは異質の根深さがあることを疑わざるを得ません。

 28年児童福祉法改正に係る厚労省の資料によると、東京都の児童相談所の体制整備には問題があることを示しています

 その一つは、スーパーバイザー(他の児童福祉司の指導・教育を行う児童福祉司)の配置状況がお粗末なことです。平成28年4月1日現在、埼玉県32人、千葉県28人に対し、東京都はわずか13人です。ここに各県の政令市・中核市分を参入して比較すると、埼玉県・さいたま市38人、千葉県・千葉市32人、神奈川県・横浜市・川崎市・相模原市・横須賀市47人となり、東京都の児相には専門性と人材養成力が担保されていない重大な問題があることを示しています。

 東京都は、児童福祉司と児童心理司の配置人数でみると全国でもっとも多い専門職が配置されていることになるのですが、実はこの中身が問題です。一般行政職を含めた3年前後の人事異動と期限付き雇用の児童福祉司等の多数配置の事実があり、虐待対応に係る担い手の次元で専門性が蓄積されない問題が深刻化してきたのです。この問題が、スーパーバイザーのお粗末な少人数に連動していることはほぼ間違いないでしょう。

 今回の虐待死亡事件を受けて小池知事は、「児童福祉司を増員する」と記者会見で述べていますが、正規雇用の専門職が腰を落ち着けて虐待問題に取り組み、児童相談所の組織的専門性が蓄積される仕組みづくりをしない限り、ほとんど実効性はないと考えます。

 もう一つの問題は、東京都の児童相談所の所長クラスの1/3が一般行政職だという信じられない実態がある点です。授業をしたことのない小学校の校長や、オペをしたことのない外科病院の院長なんて社会的に容認されるべきものでないことはすぐに分かるはずです。ところが、福祉の世界だけは、素人に毛の生えた程度の人物が、福祉機関の所長や施設の長になっている事実が横行しています。支援を要する人の切実さとはあまりにも乖離しています。

 虐待対応には高度な専門性に裏打ちされた的確で迅速な判断が求められますから、このような専門性にもとる行政職が「事なかれ主義」に陥るのは必然に過ぎません。立身出世と保身のための「狡猾さ」と「事なかれ主義」が横行するようになった今日の「公務」の世界ではなおのことです。このような無責任極まる人事の配置と異動の問題は、自治体だけでなく総務省も含めて再検討すべき課題ですし、何よりも議会が十分に議論し検討すべきです。

 一口に児童相談所と言いますが、その内実は自治体によって大きな違いがあります。虐待事案が死亡事件にまで至る場合、マスコミはこぞって児童相談所の対応のまずさを指摘しますが、これほどまでに虐待事案が長年続いているのですから、その背後にある問題を掘り下げて取材すべきなのではないでしょうか。

川越氷川神社の風車

 さて、この間少し梅雨寒の日も挟んでいますが、蒸し暑さを感じる季節となりました。川越氷川神社の風車は、涼しげな佇まいで訪れる人々を迎えてくれます。