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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

現地に足を運ぶ、直接人と会って話を聞く

 先週末、障害のある議員を中心に活動する「障害者の自立と政治参加を進めるネットワーク」の東京大会が開催されました。「障害者虐待防止の現状と課題・地方自治体の役割」について講演し、それを受けて皆さんとともに報告事例をもとに議論を重ねて深めました。

参加者の人たちと

 このネットワークの皆さんは、現地に足を運んで実態にアプローチし、直接当事者とコンタクトを取っては話に耳を傾けて真実に迫る努力を積み重ねています。たとえば、昨年8月の熊本地震の際には、熊本市や益城町を訪れて実情をつぶさに明らかにしたうえで、国・県・市に対する提案書を作成しています。

 ネットワークの代表であるさいたま市議のでんだひろみさんは、さいたま市のノーマライゼーション条例の策定過程から施行後の実質化に尽力されている方の一人です。事務局を担う大牟田市議の古庄和秀さんは、たとえば「ひろしま菓子博2013」で実行委員会が「電動車いすは暴走すると危ない」として「入場拒否」した問題で、いち早く現地に駆けつけて抗議した当事者のお一人です。

 今回は、足立区や越谷市の先進的な子どもの貧困対策を視察することと、虐待防止における市町村の課題を検討することを中心とした大会が開催されました。

 今日では、マスコミの報道に加えて、インターネット空間にさまざまな情報が溢れてはいるのですが、これらから真実に迫り切ることはそう簡単なことではありません。リテラシー教育の重要性はそれとしてあるでしょうが、間接情報につきまとう不透明さはどうしても拭い去ることが難しい。

でんださん(左)と古庄さん(右)

 その点、現地に足を運んで生の現実を見聞きして得られる情報には、間違いのないリアリティがあります。現地に足を運んで見聞きした情報であれば、その内容を裏打ちしたり相対化するための情報も直に探ることができます。

 このような営みは、地方自治体の施策を形成・立案する作業の出発点に据えられるべきです。このような営みを障害のある議員が率先して実行している事実は、障害のある人たちの政治参加にとどまらず、すべての市民の政治参加の内実を深めていく営みであるということができるでしょう。

 虐待の報告事例の中では、市町村の障害者虐待担当部署が、通報を受けても事実上なにもしない事例が、相も変わらず大きな問題として取り上げられていました。障害者虐待防止法は、虐待の事実確認を市町村職員が直接しなければならない義務を負っており、事実確認の作業を外部に委託することはできません。

 にもかかわらず、それを全くしないまま、外部の障害者生活支援センターやサポートセンター等に対応を丸投げしたうえで、「虐待であるとの判断はできません」とか「モニタリングをしています」と市町村職員が答える違法行為が、いまだに全国に蔓延しています。

 このような自治体行政の不作為の末に、虐待による死亡事件が相次ぐような最悪の事態に陥った時にはじめて、事態の是正に向かう動きをはじめるというのが、わが国の「お家芸」ではないでしょうか。電通の高橋まつりさん過労自死の事案も、残念ながらそのような性格を持つのではと感じるのは私だけではないでしょう。速やかな事態の正常化が必要であると考えます。