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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。
さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

隔靴掻痒(かっかそうよう)

 この11月25日、「津久井やまゆり園事件検証報告書」が神奈川県から公表されました。
(次を参照のこと http://www.pref.kanagawa.jp/prs/p1089670.html)。

 本報告書の「はじめに」(報告書1頁)の冒頭です。

「本委員会は、津久井やまゆり園事件の事実を確認し、神奈川県や社会福祉法人かながわ共同会などの関係機関等の対応を中心に検証し、再発防止策を検討することを目的に設置された」とあります。

 そして、この委員会の検証目的を次のように述べます。

「被疑者の行為自体がなんらかの対応をしていれば防げたものであるかどうかについて、確定的な判断をもって本委員会として対応策を検討し、報告するものではない、また、誰かがこれをしていれば防げたのではないかというような関係者の責任を追求することを目的とするのではなく、起こった事実から多くを学び取り、今後の再発防止に活かすことを目的として事件の検証を行った」と。

 さらに、この事件の性格への指摘が続きます。

「津久井やまゆり園事件は、多くの人々に大変な衝撃を与えたことで、障害福祉のあり方を改めて問うことになったが、被疑者のような考えに対してどのように対応するべきか、障がい者の地域での暮らしをどのように実現するべきか、こうした憎むべき犯罪行為を防ぐにはどうすればよいかなど、いずれも深い考察が必要なことばかりである。」

 ここまでについては、私は何ら異論ありません。しかし、「はじめに」の最後にある次の一文に目が留まったところで、「んっ?」と首をかしげたのです。

「今回の検証では、県や共同会などの関係機関の対応についての検証が中心であり、今回の事件が呈したこうした課題への検討は他に譲ることとしたいが、この報告書が、社会福祉施設の安全管理体制の整備の一助になることを願っている」とあります。

 今回の事案について、危機管理や犯罪防止の観点から「社会福祉施設の安全管理体制のあり方」に課題を収れんさせた「検証委員会報告書」としているようです。

 そして、委員会によって確認された事実経過を踏まえ、4つの課題から「II対応として考えられる取組み」をまとめるのですが、この冒頭でも、いささか釈然としない、次のような但し書きがついています(同書24頁)。

「なお、これらは必ずしも本事件における問題点として指摘する趣旨ではなく、今後の安全対策、再発防止策の検討に向けて、考えられる事項を挙げるものであることを念のため付言する」と。

 それでは、何を「検証」したというのでしょうか。本事件の検証委員会であるにもかかわらず、事件の問題点を指摘することなく教訓を明らかにするというのは欺瞞ではないでしょうか。

 この報告書が「安全対策、再発防止策の検討に向けて考えられる事項」を提示する「4つの課題」は次の通りです(同書24-36頁)。

  • 1 危機対応に当たっての考え方
  • 2 関係機関の情報共有のあり方
  • 3 社会福祉施設における安全管理体制のあり方
  • 4 障がい者への偏見や差別的思考の排除

 これら4点については、11月25日付朝日新聞夕刊に必要十分な要約があるため、そこから抜粋しておきます。

  • ・ 津久井やまゆり園を運営する「かながわ共同会」は神奈川県警から提供された情報に対する評価を適切に行わず、事件発生や被害拡大を防止できなかった
  • ・ 園の幹部は「植松聖容疑者が大量殺人を行うために園に来る」という危険情報を認識しながら県に報告せず、指定管理者として不適切
  • ・ 共同会が県に報告していれば、警備体制の拡充などで被害の発生や拡大を防止できた可能性があった
  • ・ 県警は園に必要な情報提供をしていたが、「入所者を抹殺する」などと書いた植松容疑者の手紙を園に示した方が、園の危機意識はより大きなものとなった
  • ・ 県は防犯カメラの設置理由を園に確認せず、県警との情報共有もなかった

 このように、神奈川県、かながわ共同会および神奈川県警に対する「痛み分け」のような指摘を行うのですが、その後に続く「3 社会福祉施設における安全管理体制」では、なぜか通り一遍の、一般的な「防犯環境設計に基づいた安全管理体制」を提示するのです。

 そして、「4 障がい者への偏見や差別的思考の排除」については、「はじめに」で「こうした課題については他に譲る」と自ら釘をさしている通り、見るべき内容は何もありません。

 この報告書については、率直にいえば、本事件の肝心なところが何も検証されていない疑問を払拭することができません。危機管理、安全管理および防犯システムの徹底という観点で「検証」するというならば、あくまでも防犯に関する専門家を柱に据えた委員会構成にするべきだったはずです。

 多様な業種・業態の事業所一般に共通する危機管理・安全対策・防犯システムの諸事項として、関係機関との連携や、ハード・ソフト両面における事業所の条件整備の指摘に、この特異な事件の課題を収れんさせているといっていいでしょう。

 事業所が適任者として正規採用した元職員が、反支援的な仕事ぶりのまま改善されることがなかったのはなぜか?

 容疑者の手紙そのものは提示されはしなかったとしても、警察からは重大な情報がかながわ共同会に入っているのに、防犯カメラの設置を「抑止力」と捉えるだけで実効的な運用に至らなかったのはなぜか? それが報告書の指摘するようにかながわ共同会の「当事者意識」の欠如にあるというのであれば、重大事案に係る責任の所在とガバナンスが日常的に不明確な組織運営の問題はなかったのか?…

 この事案の問題の本質にかかわる疑問については、「隔靴掻痒」(靴の上から足のかゆいところを搔くようにもどかしいこと。ものごとの徹底しない様。)のままです。

 このような限られた内容の「検証委員会報告書」となった原因は、国の「相模原市の障害者支援施設における事件の検証および再発防止策検討チーム」が危機管理・安全対策強化の観点から「措置入院」をめぐる課題に絞っていることと併せて、今回の事案をあくまでも「危機管理」「安全管理体制」「防犯体制」等の課題に限定する問題の取り上げ方が、議論の出発点に据えられていることにあるのではないでしょうか。

銀杏の絨毯

 関東では、1962年以来となる54年ぶりの雪となり、埼玉県では数センチの積雪となりました。この雪で多くの紅葉が落葉になったようです。陽に照らされた銀杏の落葉は黄金色に輝いて見えます。