メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。
さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

諸問題の根源に

 6月12日の朝日新聞朝刊は、保育所の新設予定の地域住民との調整が折り合わないため、開設を中止した保育所が4か所、延期が9か所となっている事態を報じました。保育所待機児童問題の深刻さを示す新たな問題の指摘です。

 東京都調布市では、「静かな地区なのに子どもの声でうるさくなるのでは」「調理室から匂いが出るのでは」などの声が住民から出たために、住民説明会を4回開いたが着工のめどはたっていないといいます。

 大阪府豊中市でも、住宅地への建設を予定していたが、「通学路で子どもがたくさん通るのに、保育園の送迎で車や自転車の通行量が増えては危険だ」という声があがり、説明会を2回開いたが折り合わずに、事業者は撤退したと言います。

 これまでも、障害のある人のグループホームや施設の設置をめぐり、さまざまな理由を口実にした住民からの反対運動は全国各地で見受けられ、多くの社会資源開発が断念に追い込まれてきました。

 障害のある人のグループホームでは、開設にあたり「入居者が窓から近隣を見ないよう、すべての窓に遮蔽板取り付けること」という条件をのまされたところさえ実際に存在します。

グループホームに取り付けられた遮蔽板

 このような事実を正視すると、地域住民が力を合わせて子どもたち・障害のある人・お年寄り等のニーズにこたえていくための社会資源開発とネットワーク改善を期待する日本型福祉社会とそのための基盤法である社会福祉法は、実態に合わないどころか、地域の支え合いに軋みをもたらす逆の機能を強めているのではないかとさえ思うのです。

 4月11日のブログで「待機児童問題」を論じたとき、女性の労働力率の推移との関連で保育ニーズを検討することを怠ってきたのではないかと指摘しました。基礎的なデータ把握と分析によって、ニーズを捕捉することさえしていない「プランニング」。この杜撰な施策形成を、多くの自治体は「計画行政」と称して進めてきたのでしょう。

 国家責任を脇に置いた地方分権による福祉行政の推進と、その手法としての計画行政は社会福祉法の真骨頂のはずです。ここでも事態はむしろ悪い方向に転がり、施策形成の形骸化が進んできたのではないでしょうか。

 そして、もっとも深刻な問題は、福祉領域で働く職員の劣悪な待遇問題です。

「保育士バンク!」を運営する株式会社ネクストビートは、保育所に勤めた経験のある保育士がいったん勤めを辞めた後に復職していない「潜在保育士」を対象に、「復職しない理由」を訊ねた調査の結果を明らかにしています。

 これによると、潜在保育士の91%は保育の仕事にやりがいを感じている一方で、現役時代の給与は、15万円以下が48.4%、15~20万円が48.4%と、全産業の平均給与29万5700円よりも10~15万円も低く、このような低い給与水準を復職しない第一の理由に挙げていること明らかにしています。第2位は残業の多さだといいます。

 そこで、この4月末に安倍首相が発表した来年度から保育士の給与を2%上げるとの発表に対しても、同社の保育士バンクに登録する740名の緊急調査に、95%が「足りない」と回答しているのです。

 4月11日のブログでは、かつての社会福祉事業法の下での保育所は自治体直営が過半数であったことを指摘しました。この時代までは、保育士の多くが地方公務員の待遇だったのです。しかし、社会福祉法によって自治体が直接サービスを提供する根拠をなくしたために、自治体直営の保育所は次々と民間に売りに出され、保育士の待遇も民間ベースの水準になっていきました。

 社会福祉法の下で、保育所は株式会社を含めて多様なセクターの参入をはかり、地域のニーズに速やかで柔軟な対応を促進するというのが謳い文句であったはずであるのに、蓋を開けてみれば、保育士の残業と劣悪な給与水準によって、保育所を開設しようとしても保育士の深刻な不足が出来しているのです。この辺の事情は、ホームヘルパーも同様です。

 杓子定規な「お役所仕事としての福祉サービス」から、「多元的なサービス供給主体からなる、お客様の選択とニーズに迅速で柔軟に対応する福祉サービスへ」というイメージがいかに嘘八百であったかを一度真摯に受け止めるべきではないでしょうか。

 保育所の待機児童問題と保育士の待遇問題が深刻化に向かう時代の出発点では、保育士の資格取得が、都道府県による試験から国による試験へと格上げされ、難しくなった経緯があります。我が国における福祉領域の資格のすべては、福祉国家が解体される過程で構想され法制度化されてきました。

 OECD諸国のソーシャルワーカー資格の多くが福祉国家の枠組みの下で成立してきた一方で、わが国においては日本型福祉社会論を基盤とする社会福祉法の実施体制に向けた法整備の中で資格制度が作られてきました。資格の法制度化が進む中で、待遇の劣悪化と非正規雇用化が進められてきた問題を真正面から問うべきであると考えます。