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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

児童虐待防止法改正案

 今国会には、児童福祉法と児童虐待防止法の改正案が上程されています。児童相談所を東京23区でも設置できるようにすること、強制的に家庭内に立ち入る「臨検」を実施する手続きを簡素化してやりやすくすることなどが盛り込まれています。

 その他改正案の主な内容は、市町村に子どもと家庭への支援拠点を整備する努力義務を課すこと、虐待の内容に応じて児相から市町村に引き継げる仕組みをつくること、ベテラン児童福祉司・児童心理司の配置強化策、弁護士配置の義務づけ、里親委託と養子縁組に関する相談支援の強化、自立援助ホームの利用年齢上限を22歳に引き上げる(現在20歳未満)等となっています。

 この改正案については、激増する虐待対応件数を前に「今さら」の感も拭えませんが、まずは関係者の粘り強い検討と努力の成果と受け止めたいと思います。このことを前提したうえで、深刻化する一方の虐待発生の現実に、はたして虐待防止法の枠組みで議論を進めるだけでいいのかという強い疑問を抱くのです。

 児童相談所の設置について東京23区と中核市で進め、市町村に引き継げる仕組みをつくることは、都道府県の児相の負担軽減にはなるにしても、基礎自治体にとっては負担増大にしか帰結しないのではありませんか。

 とりわけ、虐待対応に必要不可欠な専門性や職員配置体制について、市町村の実態は「月とスッポン」と言っていいでしょう。この問題点は、高齢者虐待や障害者虐待に関する市町村のとんでもない格差にリンクしてきました。

 児童福祉司の研修強化も盛り込まれているようですが、もっとも肝心なことは、虐待防止に関する十分な専門性を持った正規雇用の職員をどれだけ増やせるかにあります。わが国の児童福祉司の人数を人口比でみると、ヨーロッパの同職種に比べて1/8とか1/10しか配置されていない現実を放置したまま、虐待防止策を強化したと果たしていうことができるのでしょうか。

 NHKの「時論公論」(5月5日)は、今回の改正案は「踏み込みが足らない」として、警察との連携強化と里親の充実を指摘しています。「臨検」実施のための手続きの簡素化や警察との連携強化は、公権力による強い介入によって子どもを守る手立てに該当します。

 そのような強力な手立てに頼らなければもはや子どもを守ることができない場合、やむを得ないけれども、有効な手立てだと考えることができます。しかし、親子の日常生活世界の情報収集と子育てに公権力が関与することは、真に「やむを得ない」場合に限られるべきものです。

 もう少し突っ込んでいえば、このような手立てに頼らざるを得ない虐待が発生する前段階における家族や子育ての実態を放置したまま、「臨検」や「警察との連携強化」をあたかも有効な虐待防止策と考えるのは本末転倒です。不適切な養育の発生段階において、家族または親子を丸ごと支援することのできる仕組みづくりによって、虐待発生そのものを予防する対策の強化こそが何よりもまず提案されるべきだと考えます。

 5月8日の朝日新聞朝刊は、「子どもと貧困-頼れない親」を特集して、「親は借金返済」「3人の子残され」、3歳児が空腹を満たすためにスーパーマーケットで万引きする現実を報じています。

 両親は借金返済のために働きづめで、貧困によるネグレクトが日常化してしまっている。ここでもし、子どもたちだけを世帯分離して生活保護を活用するとなると、親子関係を断ち切ってしまうことになりかねない。生活の基礎ユニットである家族を丸ごと支援対象に据える制度サービス欠如は、半世紀前から指摘されてきた根本問題に過ぎません。

 母子生活自立支援施設も「母子」に限定しており、「支援を必要とする世帯の一部にすぎない」利用にとどまっていると指摘しています(同新聞)。

 6人に1人の子どもは貧困状態にあり、いつまでたっても保育所の待機児童問題は克服できない、親の雇用と収入の不安定化が進行するとなると、子ども虐待防止策という枠組みの議論だけから虐待防止にまでたどり着くことは、未来永劫、あり得ない話でしょう。ましてや、「臨検」に「警察との連携強化」を虐待防止策の「前進」や「強化」だと解説している向きには愚の骨頂だと言いたいのです。

 子育てを営む家族の健康で文化的な生活標準の再建が、激増する虐待対応の現実から問われていると考えます。

柚子の花に蜜を求めるクマバチ

 さて、わが家の庭では柚子の花が満開です。たくさんのセイヨウミツバチに交じって、クマバチが訪れました。大きさと羽音の存在感は別格ですね。