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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。
さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

発展する意思決定支援の取り組み

 この11月24日、神戸の兵庫県民会館において、ひょうごかぞくねっと(兵庫県知的障害者施設家族会連合会)主催の中央研修会が意思決定支援をテーマに開催されました。

ひょうごかぞくねっと中央研修会で

 この研修会の特徴は、意思決定支援について、その基本的な考え方、タブレットPCやスマートフォンのアプリと活用のあれこれ、そして障害のある子どもを育てるお母さんの試行錯誤と到達点の実際と、理念から実際までの全体像を分かりやすく学べるように企画された点にあります。

 まず、合理的配慮としての意思決定支援について、障害者権利条約、日本弁護士連合会編『成年後見制度から意思決定支援制度へ』(2015年10月)を踏まえて基本的な考え方と進め方の指針を明らかにした上で、この数年間に特別支援教育の中で進められてきたコミュニケーション支援・意思決定支援の実際を私がお話しました。

 次に、田代洋章さん(日本技術支援倶楽部)が、AACやコミュニケーションツールの開発・研究に携わってこられたお立場からコミュニケーションツールのあれこれについて、お話しされました。ここでは、何かのアプリを活用するだけでなく、タブレットPCやスマートフォンにそもそも備わっている機能もかなり活用できることが、それらの実際を含めて分かりやすく学べました。

 少し気になった点があります。田代さんによると、タブレットPCやスマートフォンの持つ機能そのものをAACに活用できる可能性は、現状では、iPhoneとiPadの方がAndroidのものよりも進んでいるとのことでした。Android製品は、障害のある人の利用をあまり考慮していないのでしょうか? すべてのIT機器において、意思決定支援の発展に資する機能や無料アプリを充実させていく課題があることを確認しておきます。

 最後に、松井潤子さんが、現在21歳になる知的障害・自閉症(ともに重度で言葉の表出のない方です)のある息子さんを育ててきた中で、これまでの意思疎通・意思決定支援の試行錯誤と到達点を豊富な画像資料を用いて具体的にお話しされました。

 意思決定支援は合理的配慮の一つですから、それぞれの人にふさわしいツールや係わり方の工夫が求められます。松井さんは、例えば、神戸の中心的繁華街である三宮と元町でそれぞれ外食することのできるメニューの画像を用意し、最初は紙媒体のメニュー画像集を使って、息子さんの意思決定を支援していたそうです。ところが、どうもうまく行かない。

 そこで、これらの画像をスマホに取り込んで、〈僕〉は⇒〈○○○〉を⇒〈食べたい〉というコーナーを画面上に設定し、〈○○○〉の部分をメニュー画像から選択するという形にしたところ、息子さんはスムーズに選択するようになっただけでなく、メニューを選択した後には満足感にあふれた表情を見せるようになったことを、その表情の画像を含めて報告されました。

 つまり、松井さんのお子さんにふさわしいツールは、スマホの中でメニュー画像を選択するだけでなく、主人公である〈僕〉と〈選択したメニュー〉と〈食べたい〉の関係を明確にする「助詞」をつけたものだったことが分かります。言葉の表出のない人ですが、このようなアプローチが今のところもっとも有効だったのです。

 これまで、支援現場や市町村の対応において、「ここは、さまざまな人が利用するところですから、あなただけを特別扱いすることはできません」というような「決まり文句」が、合理的配慮の提供を拒否するという差別の正当化に用いられてきました。合理的配慮の一環としての意思決定支援は、それぞれの人の持つ特別のニーズに個別具体的に配慮する行為であることを改めて理解する必要があるでしょう。

 これまでなら「この人はことば出ないよね」と安易に判断され、すぐに代行意思決定に振り向けられてきた人が大勢いました。成年後見制度の類型で、これまでは8割ほどが後見類型になっている点は、明らかに障害者権利条約に違反する事態です。しかし、言葉の表出が全くない松井さんのお子さんのように、AACを活用すれば意思疎通と意思決定が実用的に成立する例もたくさん報告されるようになっています。

 意思決定支援の取り組みでは、それぞれの人に最適なコミュニケーション・意思決定支援の方法を探る試行錯誤のプロセスをうんと大切にすることが何よりも求められます。回り道を惜しまない係わりをつくること、アプリやコミュニケーション・意思決定の方法に障害のある人をあてはめるのではなく、それぞれの人にふさわしい手立て・アプリ・方法を探りながら支援すること等、個別支援計画の真価が問われる課題の一つだと考えます。

角の坊の金泉

 さて、神戸には名湯有馬温泉があります。研修会の後、有馬の金泉(含鉄ナトリウム塩化物強塩泉)で心身をほぐしました。この湯に、僧行基が入り、黒田官兵衛、豊臣秀吉とその妻オネが好んで入ったと言い伝えられているだけあって、いまでも有馬温泉は気品と風格にあふれた名湯です。宿は、有馬12坊の灯を今も灯し続ける「角の坊」(金泉の掛け流しをしている数少ない宿です)がおすすめです!!

有馬温泉最後の紅葉

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