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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。
さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

BONSAI

 このゴールデンウィークは、娘と第32回大盆栽祭りに行ってきました。さいたま市大宮盆栽美術館のある大宮盆栽村を会場に、毎年3日間の日程で開催されています。盆栽祭りの会場には、世界各国からの参加者も大勢お見えになっていました。

山もみじの株立ち-林を表現する

 さいたま市大宮盆栽美術館の中では、英語をはじめ、フランス語やドイツ語もそこかしこから聞こえてきます。盆栽に対する国際的な関心の高さの表れなのでしょう。日本の文化としての盆栽が世界に広まるようになったきっかけは、1970年の大阪万国博覧会だと言いますから、昨今のクールジャパンブームよりもはるかに長い歴史を積み重ねています。

ぼんサイくん
-盆栽村のゆるキャラらしい

 今や“BONSAI”は、国際的に通用する単語となっています。実際、研究社の新英和中辞典にも掲載されています。世界盆栽友好連盟(World Bonsai Friendship Federation)の第1回世界盆栽大会(1989年)はさいたま市の大宮で開かれ、2017年には「第8回世界盆栽大会inさいたま」の開催も決定されています(http://omiyabonsai.jp/ja/)。

 盆栽への私の関心と傾倒は、中学生の時代にさかのぼります。確か大阪城公園で開催されたサツキ展に遭遇して、数々の盆栽に魅了されたことが始まりだったと思います。一つの鉢を延々と愛でる文化に、とても好ましさを感じました。

 このような盆栽とは性格を異にする、消費文化としての園芸や造園があります。公共事業の一環としての街路樹や多年草を絶対に用いない公園の花壇などがその典型です。とりわけ、主要国道や高速道路の中央分離帯の部分に植樹されている樹木などは、不合理の権化ではないかとさえ考えてきました。

 山と平地の森林は荒れ放題にしたままで、道路整備には「緑を増やす必要がある」というのはいかにもご都合主義ですし、対向車のライトを遮る目的であれば、遮蔽板など植樹以外の手立てもあるはずです。

 街路や中央分離帯にあくまでも植樹を続けることによって、最初の植樹だけでなく、伸びたら剪定するという公共事業が延々と継続することになります。そして、剪定作業のたびに車線規制が行われて渋滞が発生する無駄を含めた税金と社会経済的なロスには、はかり知れないものがあるでしょう。

 大宮盆栽村の「清香園」五代目で、NHKの「趣味の園芸」でもキャスターをされていた山田香織さんは、盆栽について次のように語ります(山田香織著『山田香織の盆栽づくりとっておきの“いろは”』2頁、2013年、大泉書店)。

「私は盆栽園に生まれ育ち、
よいことがあったときも悪いことがあったときも、
いつも盆栽に囲まれてきました。
励まされたり、厳しい目で見られたり、
笑い飛ばしてくれたり、
私が生まれた昭和53年からずっと、
私を見ている木もあります。」

「盆栽の楽しさは、育てる人と盆栽の間で愛着が生まれ、愛情形成され、
一緒に年を重ねていく相棒のような存在になること。
もちろん、小さな鉢に植えた植物の姿を通して、
背景にある風景を見立てる緑の美術品ではありますが、
命ある相手であることが温かい。」

 盆栽は、大きな風景を小さな鉢で表す点で鉢植えとは異なります(同書8頁)。つまり、小さな鉢に植えた植物を通して大自然の光景を表現する作品づくりの営みの中に、人間-自然-社会-文化の繋がるエロス的な間柄を表現しようとする文化なのでしょう。実際、大宮盆栽美術館の展示鉢をじっと眺めていると、大自然と向き合っているような心境になるのです。

白い花のサツキ-懸崖の樹形パターン

 私の娘が盆栽祭りで購入した小さな鉢は、「懸崖」という樹形パターンのサツキです。懸崖とは、枝や幹が鉢の縁よりも下に向かって伸びている形をいい、「断崖絶壁で生きる樹木の姿を表現し、環境に負けずに生きる生命力を感じ」させるものです(同書17頁)。

 この小さな鉢に「環境に負けずに生きる生命力」を表現するというのは、まことに奥が深い。一鉢を「相棒」のように長く愛でる中で、自然の風景と自らの生き方を重ねる営みに、わが国ならではの奥ゆかしい文化を感じます。

 現代の盆栽は、単に伝統を守るだけでなく、それを基本に現代的なアレンジをも楽しむようになってきましたから、多様な楽しみ方も広がっています。先にご紹介した山本香織さんの書は、盆栽づくりにおける多彩な楽しみ方を示す格好の書です。

 盆栽の見どころについては、さいたま市大宮盆栽美術館のホームページから入ることのできるニュースレター『ジンシャリ』がおすすめです。PDFファイルでダウンロードも可能です(http://www.bonsai-art-museum.jp/)。ちなみに「ジンシャリ」とは、枯れた枝(ジン=神)や幹(シャリ=舎利)を鉢の中に残す作り込みで、長い歳月の流れを風合いにとどめる見どころの一つです。