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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。
さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

「落石注意」の類

 4月24日、政府の地震調査研究推進本部は関東とその隣接地域を6区域に分けて活断層を評価し、マグニチュード(M)6.8以上の地震が30年以内に起こる確率を公表しました。

 この報道をできる限り集めて眼を通してみたのですが、素人の私には理解できません。果たして地震が起きるのか、起きないのか? 地震の確率を言われても、天気予報の降水確率のように日常的教訓が積み重ねられてある程度イメージできるようなものではないから、結局、さっぱり分からないのです。

 この推進本部は阪神淡路大震災を教訓として、M7以上の地震を起こす長さ20キロ以上の主要な活断層について確率を個別に計算してきたところですが、想定外の場所で直下型地震が近年相次ぎました。

 そこで、今回の確率については、評価対象を長さ20キロ未満の活断層や、活動度が低い断層にも拡大し、沿岸部や地下に隠れている断層も考慮した上で、地域単位で確率を計算する手法を導入したと発表されています。

 地域別の確率は次の通りです。関東北部4~5%、関東中央部1~3%、関東南部15~20%、北西部2~3%、糸魚川-静岡構造線周辺30~40%。そして、関東全域のどこかで活断層地震が発生するトータルの確率は、50~60%だと公表しました。

 ところが、地震調査委員会の本蔵義守委員長の発言要旨がさまざまに報道されています。

「評価はあくまでも現在の知見に基づくもので不十分な点もあるうえ、海溝型の地震のリスクは評価の対象としていない。関東の地震の発生確率は『非常に高い』という印象を持っており、確率が低い場所も安全が担保されているわけではなく、十分に注意してほしい」(4月24日 NHK

「どこで地震が起きてもおかしくない。結果を各地域の防災対策に反映させてもらいたい」(4月25日 日本経済新聞朝刊)

 さまざまな科学的知見と手法をぎりぎり駆使した上で公表された数字であり、それを受けての委員長発言なのでしょうね。しかし、「どこで地震が起きてもおかしくない」と最後に付け加えるのは、責任が問われない保険をかけているかのように思えてならないのです。今回公表された確率を受けて、「各地域の防災対策に反映させる」具体的な内容を委員長は少しでも考えているのでしょうか。そこは自分の持ち場ではないと言うだけなのでしょうか。

「あくまでも黎明期の研究結果としてはじき出された地震の発生確率はこのようなものであるが、実際の地震が起きる地域や確率は不明である」と公表するのが、世間にもっとも誤解を与えないと考えます。研究成果が社会現実に対して責任を果たすことのできる段階にないのであれば、そのことを率直に公表することに学者としての責任はないのでしょうか。

 そもそも地震予知が可能かどうかについてさえ、議論の分かれるところだといいます(島村英紀著『「地震予知」はウソだらけ』、2008年、講談社文庫)。東海地震の予知の必要性からはじまった地震予知の研究にはすでに巨額の研究費が投入されていますが、地震予知に成功した事例は一つもありません。

 2009年4月に300人以上が死亡したイタリア中部ラクイラの地震予知をめぐっては、地震学者や政府の担当者7人が過失致死罪に問われました。前代未聞の裁判ですが、一審判決は全員に禁固6年の有罪判決が下り、二審は「証拠不十分」として逆転無罪となり、現在最高裁で裁判が続いています。

 このイタリアの裁判には、二つの大きな問題提起があったと言われています。一つは、世界の科学者から「学者に結果責任を求めるのか」という疑問が提起されたことです。

 もう一つは、「人心の不安をあおらない」方針を当初から堅持したいと考えていた政府に、地震学者が「お墨付きを与える」形になっていた点です。政府の方針に「その道の権威である学者がお墨付きを与える」という「御用学者」の無責任性が、自然科学の領域で、刑事事件というかたちで問われることになったという問題です。

 とりわけわが国では、東日本大震災、福島第一原発重大事故、そして理研の小保方事件を通して、さまざま研究領域の「社会的権威」と研究費獲得・使途の問題や、短期的な研究成果を求める政府の科学技術研究政策等のそれぞれに対して、疑惑と不信が拡大してきたことは間違いありません。

 このようにみてくると、地震や火山の領域の学者は、最終的な責任を絶対問われることのないように「保険をかける」ようになったように思えてならないのです。いうなら「落石注意」の道路標識だけはしっかりとだしましたからね、と。

咲きほこるレンゲソウ

 さて、近くの田んぼで今では珍しくなったレンゲソウ(ゲンゲ)の花を見つけました。科学肥料を使う以前はどこにでも見られた光景ですし、日本の蜂蜜を代表する花でもありました。根粒菌がしっかり窒素肥料の成分を作り出すため、レンゲソウはそのまま田畑に耕されていました。このような光景がめったに見られなくなったのも、何かの「研究成果」のおかげなのでしょう。