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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。
さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

大学授業料負担-特殊詐欺-高齢者虐待

 この2月4日、警視庁特殊詐欺対策本部が「平成26年度における特殊詐欺の状況について」を発表しました。以前「振り込め詐欺」と称していたものの手口の多様化が進んだため、「オレオレ詐欺」「架空請求詐欺」「融資保証金詐欺」「還付金等詐欺」「振り込め類似詐欺」の5類型をまとめて「特殊詐欺」と称するようになっています。

巣鴨とげぬき地蔵にも親子連れが多い-洗い観音で

 この報告書によると、特殊詐欺全体の状況は、認知件数で13,371件(前年比+11%)、被害額は約559億円(前年比+約70億6増、+14%)と増加し、依然として深刻な事態の続いていることが明らかにされています。

 とくに、東京都における被害が認知件数・被害額ともに全国最多です。東京に周辺3県の千葉県・埼玉県・神奈川県を加えての全国に占める被害の割合は、認知件数で半数近く、被害額で40%にも及びます。とりわけ、「オレオレ詐欺」では、東京と周辺3県の全国に占める被害の割合が、認知件数で71%、被害額で67%に達しています。

 被害者は70歳代~80歳代の女性に集中する一方で、検挙被疑者の年代は10歳代~30歳代の若年層が86.1%を占めています。警視庁の資料は検挙被疑者の性別を明らかにしてはいませんが、さまざまな報道から受ける印象としては、圧倒的に男性ではないかと推測します。「オレオレ詐欺」という名称から始まった事案ですから、「俺=男」主体の犯罪組織であることはまず間違いないと考えます。

 特殊詐欺の構図について富の世代間不平等を問題視し、お金を貯め込んだ高齢者世代に対する、正規雇用に恵まれず生活に困窮する若年世代の犯行だという指摘があります。そのような面もあるのかもしれませんが、女性の高齢者と男性の若年者という、あたかも高齢者虐待の発生する母子関係のような構成である点が気になって仕方がありません。

 「オレオレ詐欺」で最も用いられる「だまし文句」は、「小切手の入ったカバンを置き忘れた」(65%)と「会社の金を横領した」(13%)だと警視庁の報告書は指摘します。もし私がそのような「だまし文句」の電話を受けた場合、「自分で最寄りの警察署に届けるか、自首しなさい」と言い放って終わりではないかと思うのです。

 社会人である大人の不始末を親が尻拭いするのは、親が息子・娘をいつまでも「子ども扱い」している証拠だと思うのです。アルコール依存症の夫の不始末の尻拭いをし続ける妻と何ら変わるところはありません。共依存そのものです。アルコール依存症の夫を本当に大切にしたいのであれば、妻は夫が自身のアルコール問題を直視して向き合うための支援をすべきであり、夫がアルコールに埋没し続けるための尻拭いをするべきではありません。これと同様に、成人した子どもが犯した不始末の尻拭いを親がすることは、子どもが自立する契機を剥奪するような行為です。

 「親はいつまでもわが子のことが心配なのだ」という人をときどき見かけることがあります。しかし、いつになったら自分の育てた子どもと「大人同士の会話」をするのだろう、イエ制度はとっくになくなって現在の家族は一過的な性格を帯びているのに「ずっと親をやり続けよう」とする空虚さは何に由来するのだろうと、私は不思議でなりません。

 前回ご紹介した湯沢雍彦著『データで読む平成期の家族問題』(朝日新聞出版、2014年)は、「『オレオレ詐欺』は、残念ながら日本の特産品である」(167頁、以下の引用も同ページ)と分析しています。

 「この詐欺が可能なのは老親が別居の息子に愛情を持ち、日頃も金銭援助をよくしていること、そして老親がかなりの額の貯金をもっていることが前提条件としてある。」

 「18歳の成人以降は、親元を離れ、経済的にも自立する(子はアルバイトのほか政府の生活援助金や奨学金で暮らす)、親は一切金銭的援助をしないことの慣習が定着しているヨーロッパの社会では起こりえないことである。私はこのことを知り合いのデンマーク人夫婦やフィンランドの女性から確認をとった。」

 それでは、なぜ日本では、子が成人しても金銭的援助を含めた親子関係が継続してしまうのでしょうか。この諸悪の根源は、高等教育にかかる学費負担とその世代の若者に対する奨学金制度や生活支援制度の圧倒的な貧しさにあるでしょう。

 成人した子どもたちを金銭的援助に絡めて子ども期のままの親子関係に縛ることによって、一方では子どもたちの自立の機会を阻み、他方では、「子どもたちのための自己犠牲や努力をし続ける」ことによって親の方もいつまでも「子離れできない親」となってしまう。ここに、日本の母子関係を基軸とする「甘えの構造」とそれに起因する共依存をテコとした「応益負担」論があるのです。日本の家族文化をテコにした収奪の仕組みです。

 大学授業料と学生時代の生活費を親の多大な経済的負担によって賄うことが当たり前の自己責任とする考え方は、「人間的自立を阻む自己責任論」があることにも思いはせてみる必要がありはしないでしょうか。

 特殊詐欺をめぐる構図を単純化すれば、次のようです。

 まず、子どもが成人しても金銭的援助を続けなければならない高等教育制度の下で、「子ども期」(未成年の子の期間)のままの親子関係が延長する。こうして、「子育てに親の自己犠牲をいとわない母親」と息子の「甘えの構造」を下地とする親子関係が継続する。

 若者の雇用の不安定化が政策的・構造的に進められてきたため、高額な授業料を親は払ってきたにも拘らず、子どもの生活自立をいつまでも心配し続けなければならない傾向が強められてきた。

 子どもの就職によって、親子が別居することになるのが一般化することによって、地域社会や親族とのつながりの希薄な親ほど、別居すなわち社会的孤立に帰結する。

 ここで、「親はいつまでも子を心配し続ける」という「美意識」を保持している一方で、子どもとの関係は疎遠となり、社会的に孤立している寂しさにたたずんでいる最中に、「息子」と称する若年男性から「お母さん、お金のことで助けて!」と切迫した電話がかかってくる。

 特殊詐欺とは、被害者に考えるための時間的なゆとりを与えず、息子の社会的な立場や雇用の継続が危うくなるような人生の危機を口実にして、切迫した時間内に「子を思う親からの金銭的援助」を実行させるものです。だから、金融機関の職員や警察官が「振り込め詐欺ではありませんか」「息子さんに一度連絡をしてからにしましょう」と考える間をつくっても、その制止を振り切ってまでお金を渡そうとする人が少なくないのです。

 そして、このような経済的略取を赤の他人の犯罪集団が実行する場合が「特殊詐欺」であるのに対して、実の子どもが「いつまでも子のための自己犠牲に耐えて金銭的援助をして当然だ」と経済的略取を実行する場合は「経済的虐待」となるのではないでしょうか。これらいずれの場合も、わが国の「特産品」としての「親子関係」文化が介在している気がしてなりません。

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