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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。
さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

内閣府モデル事業中間報告会

 今年度、さいたま市は障害者差別解消支援地域協議会体制整備事業という、漢字20文字で表記される長い名称のモデル事業を実施しています。この中間報告会が、1月20日に浦和で開催されました。

中間報告会パネルディスカッション

 この会の内容は、内閣府のホームページに近日中に掲載されますので、ぜひそちらをご覧いただければと思います。障害者政策委員会委員長の石川准さん(静岡県立大学教授)から障害者差別解消法の「基本方針」について基調講演をいただき、さいたま市のこれまでの成果発表があり、最後に石川さんをコーディネーターとするパネルディスカッションを石井透さん(さいたま市精神障がい者当事者会ウィーズ)、平野方紹さん(立教大学教授)そして私の3人で行いました。

 この法律は「差別解消法」となっていますが、障害者の権利条約の核心をなす第12条を行政と社会が協働で実現することに本旨があります。つまり、障害のあるなしにかかわらず、すべての人が法的権利を行使できる社会を実現するためのものです。

 合理的配慮の一つである意思決定支援のあり方については、今後の検討課題が山のようにあるとしても、障害者の差別解消に資する取り組みは、特定の機関や新しいサービス給付によるものではなく、国・自治体とすべての事業者・個人による差別解消に向けた協働によるものです。そして、このような協働を地域社会の現実に根ざして実効的なものにつくりあげていく責任は国・自治体にあります。

 このモデル事業の中で、さいたま市における条例の取り組みにもとづき、障害者差別解消法の施行に向けて改めて課題を明らかにしてきました。この成果の概要についても内閣府のホームページに掲載されるかと思いますし、また雑誌「ノーマライゼーション」2014年12月号(日本障害者リハビリテーション協会)にはこの概要をまとめた拙稿が掲載されていますので、お目通りいただければと思います。

 ここでは、私が最も重視する課題について言及します。それは、地域社会のさまざまなところに存在する差別を協働によって乗り越えていくためには、地域における「顔の見える」関係と多元的な差別解消支援システムの実現が必要だという点です。

 パネラーを務められた石井透さんは、当事者の立場から「差別を受けたとして、それを他者に向かって口に出すのはすごく難しい」とおっしゃいます。それは障害のある人に限った話ではなく、学校や職場で何らかのハラスメントにあい、差別と抑圧を体験した人たちが共有して直面する難しさです。抑圧されて気持ちが萎えてしまっているところを自分の力だけで跳ね返していくというのは、やはり至難のわざでしょう。

 しかし、「差別したい」とつねづね考える人たちから現代社会が構成されているわけではありません。「差別をなくしたい」気持ちをしっかり抱きながらも、そのための手立てや協働の方法が明確でないことから差別解消に資する協働が生まれない、したがってまた、差別を生み出す社会的構造に抗する協働も組織されない現実があるのです。

 そこで、障害のある人が孤立することなく、地域社会の「顔の見える関係」の一員であり、さまざまな立場・領域の人たちによる差別解消のための協働が働く地域社会を本当に実現する取り組みが求められます。

 さいたま市で条例が成立した直後に、学校教育分野の研修がありました。その中で「学習障害のある生徒に対する試験は、ペーパーテストであると差別になるのか」という質問がある参加者から寄せられました。もちろん、私は即座に、「合理的配慮の否定であり、差別に該当する」と指摘しました。

 この研修以来、学校教育の分野では、障害者権利条約に基づく差別の解消、児童生徒の学習権の保障に資する新しい取り組みの協働が実際に発展しつつあります。このような営みが、行政と事業者のすべての事業活動に、浸透し広がることによって、市民の日常に人権を尊重し合う互酬的な間柄と所作を実現していくのです。

 このような地域のあり方の一端は、たとえば、北欧の研究をしている方に伺った話からイメージできるでしょう。グループホームに暮らす知的障害のある若者が、ふらっと外出して百貨店に入り、普段から欲しいなと思っている商品をあれこれ見て回っているとします。

 すると、それぞれの売り場の店員は、決して専門的な支援ではありませんが、自分の持ち場である商品の説明をできる限り分かりやすく伝え、この若者の質問に対しても、さまざまな店員が寄ってきては、いろんな形で伝えようと努力しているのが、北欧における当たり前の日常だそうです。

 これに対して、わが国の現実はどうでしょう。中間報告会のパネルディスカッションを受けてフロアから差別事案と思われる問題の提起がありました。ある民間事業所に勤めている知的障害のある女性が、その会社の社員旅行で「あなたが来ると他の社員がゆっくりできないから、来ないでください」と言われたというのです。この旅行が有志のグループによるのでなく、会社の福利厚生の一環として実施されるものであるとすれば、明白な直接差別に該当します。

 このような差別の現実を、障害のある人の自己責任で乗り越えるのではなく、政府と社会の側の協働の努力によって一歩一歩乗り越える営みが、地域における差別解消支援にほかならないといえるでしょう。

 さて、この1週間は多忙を極めました。さいたま市の事例検討にもとづく第3回虐待防止実務者研修会があり、大学入試センター試験もありました。センター試験のリスニングテストはとくに気を遣いますが、このテストだけは試験監督の意思や努力を超えて、リスニング機器に不具合があれば、それだけで「再開テスト」という試験のやり直しをしなければなりません。

 「再開テスト」になると、受験生も試験監督も帰る時間が遅くなって大変です。そこで、ある主任監督が「私の担当試験室のリスニング機器には、私の“目力”で不具合を起こさせない」と宣言したので、周囲はどっと大笑い。「目力」のおかげかどうか分かりませんが、不具合の発生はなく、無事にセンター入試が終了しました。やれやれ…