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「そんなこと」でも、俺には「大事なこと」なんだ!
 ~がんになってわかった「介護される人」の気持ち~

松崎 匡(まつざき ただし)

現場経験を活かして専門学校で教鞭をとっていた最中に「がん宣告」を受けた松崎さん。
「利用者のため」をモットーに介護にあたってきたつもりが、利用者の立場になってはじめて気付くいろんなこと…。
がんと絶賛同居中(?)の松崎さんのアツい思いをお届けします。

プロフィール松崎 匡(まつざき ただし)

2014年4月より「合同会社M&Yファクトリー」代表社員。
元アルファ医療福祉専門学校教務主任。福祉関連事業所の開業、業務改善などのコンサルティング、研修講師、市民向けの介護講座などのほか、青少年の更生、フリーター、ニートの就職支援などを手掛ける新たな福祉への関わりを中心に活動中!

第9回 安心させてくれる人に必要な要素って?

 入院生活も長期になり、住民票を病院に移そうかと考える今日この頃です。
 たまに外出許可が出て外で人に会ったりしていても「そろそろ病院に帰るわ」とついつい言ってしまう松崎でございます。

 病院生活も長くなると顔なじみの看護師さんも増えて、くだらない僕の冗談に付き合ってくれます。そのおかげで楽しく生活させてもらっています。
 そんな看護師さんのなかに「ツボネちゃん(仮名)」はいます(決して「局」とは書きません)。

 楽しく生活するために必要なものってなんだろう?
 僕がツボネちゃんに心を許して安心できるようになった経緯を振り返って、いろいろ考えてみました。

◆安心させてくれる人の振る舞いの特徴
  • ・目線の合わせ方、外し方のタイミングを理解している人
  • ・きちんと手を止めて、利用者の話を聞ける人
  • ・周囲に気配り、目配りができる人

(1)目線の合わせ方、外し方のタイミングとは

 「利用者と目線を合わせる」というのは、みなさんも学校や職場などで教わっているはずなので、ちゃんと意識すればできることだと思います。
 でも僕は、そこに「目線を外す」という技術が備わってこそ、利用者が安心できるのだと思います。

 簡単なところで言えば、みなさんも食事のときに誰かに「ガン見」されたらどう感じるでしょうか? と言えば想像できるのではないでしょうか。

 目線を合わせてばかりでいると、利用者側は何だか「監視」されているようなプレッシャーを感じたりもします。しかし、タイミングが合っていないと、目線を外したことで利用者に「無視されている」ように感じさせてしまったりもします。
 それ故に「目線を外す」ことが難しかったりするのですが、ツボネちゃんは意識してかどうかはわかりませんが、目線を外すタイミングが非常に適切だったので、僕は安心感を得られました。

(2)きちんと手を止めて利用者の話を聞ける人とは

 これについては、介護者・援助者側に聞くと、「そんなことできているに決まっている」「基本中の基本」という方が多いのですが・・・。
 確かに僕も介護者側にいたときにはそう思っていましたが、いざ利用者側の立場で見てみると「なんだか『ながら仕事』で話しているな」と感じることが多々あります。もう一度自分の振る舞いを点検してみて欲しいと思います。

(3)周囲に気配り、目配りができる人とは

 ツボネちゃんのすごいところは、病室で僕とバカ話をしているときでも、大部屋の他の患者さんの気配などをさりげなく気にしているところです。
 まあ本当にくだらない話をしているので、他の患者さんからしたら「うるさい!」と言われても仕方がない話をしながらも、周囲に配慮して、さりげなく声のトーンを落としたりできるところが「さすが」と思わされるところなのです。

 そういう視点で退院時にいろいろな施設を訪問したりすると、今まで見えていなかったことに気付かされます。
 声のトーンが一つだけの介護者と、複数の抑揚を意識的に使っている介護者がよくわかるようになりました。どちらの介護者さんが「安心できる存在」になれるのか、わかりますよね?

 カラオケの得点を競うテレビ番組がありますが、この得点要素にも「声の抑揚」というものがあります。
 歌に感情を込める要素に抑揚があるように、介護者が利用者に安心を提供できるスキルの要素にも、この「抑揚」というのがあるのではないでしょうか?

 小さなことかもしれませんが・・・抑揚のない生活は「退屈」なんです。
 抑揚もなく必要以上に大きな声で指示言語しか言われない利用者の生活ってどんなものなんだろう? と考えてみてはくれませんか?

 入院生活というのは退屈との戦いで「あ~、俺が働いていた施設の利用者さんもこんなに退屈と戦っていたのか~」と、改めて自分は利用者の生活についてずいぶん浅はかな理解しかしてこなかったんだなぁ、と反省しています。

ツボネちゃんは、今日も元気