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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

引き裂かれる思い

 養護者による高齢者虐待は、その多くが同居していることもあって、支援方針を大別すすると、長期に分離するか、否か、に分かれます。

 概ね6割くらいの事例は、長期にわたって分離されているのですが、すんなりことが運んでいると限りません。

 それは、上手に社会適応できずにいる息子や娘、あるいはDV夫は、老親や妻を虐待しているにもかかわらず、精神的には依存しているため、分離に反対することが少なくないからです。

 しかも、被虐待者であっても、虐待者と精神的に離れがたい気持ちを持ち、虐待者を庇うことも多いため、支援者の心は千々に乱れます。

 もちろん、命に関わるような事態なら、支援者として分離の方向で腹をくくりようもありますが、そこまでひどいとは言えないことも多く、悩ましいことこのうえありません。

 それでは、こんな時、支援者はどう考えれば良いのでしょうか。

 私は、以下のようなことを検討するようにしています。

 まずは、被虐待者のパーマネンシーです。当事者が安心・安全な暮らしを継続できる方法を考えるのですが、ときには、養護者の安定した暮らしも考えねばならず、「急がば回れ」を実感します。

 つぎに、自分たちが行う支援の効果、つまり、問題ないし問題状況を、いつまでに、どれくらい改善できるか見積ります。

 自分の描く「望ましい家族像」に囚われていると、「丸く収める」ことばかり考えたりしますが、ここは冷静に、被虐待者のダメージを最少限に止めることを第一に考えます。いくら理想的な解決像を描いたとしても、それが実現できないのでは話にならないからです。

 最終的には、これらを勘案して分離の要否判断をするのですが、いったん分離した後に、家族の再統合を検討することもあります。

 しかし、家族の再統合の意味合いは、高齢者虐待と児童虐待では、相当に異なるように思います。それは、高齢者の親子関係が、成人同士の関係だからです。

 児童虐待の場合、親が未成年の子に対して持つ権利や義務は、成人子に対するより遥かに大きいですし、親権の停止や喪失の審判があると、元の親子関係に戻るのがとても困難になるといった事情もあります。

 高齢者虐待の親子関係では、こうしたことがありませんから、分離には積極的に、再統合には消極的になっても不思議ではない、というわけです。

 もっとも、支援者も人の子ですから、心情的にはそう簡単に割り切れません。とくに、夫婦間の高齢者虐待では、長期にわたる分離は、離婚を迫るようなものですから、快刀乱麻を断つがごとく、とはいきません。

 「心情として、一緒にいたいという本人たちの希望を叶えてあげたいのはやまやまだが、それを認めると、虐待が起こってしまうので、専門家としては、認めるわけにはいかない。」

 こうなると、まさに、身を引き裂かれるような思いになり、気持ちをそのまま、当事者に伝えたくなりますし、一日も早く、虐待しなくても済むように支援する方法を編み出したいという思いも、いっそう強まります。

ときに、支援者の心は、こうなります。

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