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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

虐待のスイスチーズモデル

 日本子ども家庭総合研究所の調査により、親からの虐待を理由に、児童相談所の一時保護所に入所した子どもの、半数近くは過去にも保護されていることが明らかになりました。こうした調査は本邦初だと思いますが、虐待の再発防止は不十分だ、というのですから残念です。

 ところで、児童虐待防止法は2000(平成12)年に制定された、とお考えの方も多いようですが、旧児童虐待防止法は、早くも1933(昭和8)年に制定されており、1947(昭和22)年の児童福祉法の制定を期に廃止された経緯があります。ですから、児童虐待防止法は、新旧合わせると81年の歴史を有するのだとも言えます。

 それにも関わらず、再発が防ぎきれないのですから、いささかショックです。

 私なりに、この問題について考えてみたいと思いますが、ここでは、「事故」が発生する仕組みを説明するのに用いられる「スイスチーズモデル」に沿ってみましょう。

 スイスチーズモデルでは、沢山の穴があいたチーズのスライスを何枚も並べて光をあて、反対側から見ると、全ての穴が重なっている部分だけ、光が通って見えますが、事故とは、まさにこの状態と同じだと考えます。(ちなみに、スイスチーズの実物はこちらでご覧下さい。)

 虐待にあてはめると、被虐待者の条件、虐待者の条件、密室性の条件をそれぞれ1枚のチーズに見立てられそうです(私が「虐待好発の構図」と呼ぶ考えに基づいています。詳しくは、ブログ「施設内虐待の4層構造」をご覧下さい。)

 そして、チーズの穴の位置や大きさは、それぞれに影響する要素だと考えられます。

 被虐待者と虐待者(以下、当事者)については、心・身・社会(役割や人間関係)・生活資源(経済、物資、情報)の側面の要素です。

 密室性については、家族であることや経済状況や養介護など、当事者を結びつける要素と、人的隠蔽性と物理的隠蔽性を高める要素です(詳細は、いずれも「施設内虐待の4層構造」をご参照下さい)。

 こちらは、刻々と変化しますし、文化や風土や県民性などで、傾向が異なるのかもしれません。

 このように考えると、チーズの穴の大きさや位置とその穴の重なり方を、ある程度一貫して説明できるように思います。

 虐待の再発防止について、さらなる実効性の向上を目指さねばならないのですから、チーズの枚数を増やすことに相当する方法と、チーズの穴を塞ぐことに相当する方法を、組み合せていくことになります。

 しかし、児童相談所は、多くの場合、対立的に介入して親子を分離した後で、家族の再統合に向けて親に働きかけますから、信頼関係構築のハードルは高そうで気がかりです。信頼関係を欠いたのでは、対応の効果は半減してしまいます。ここは一つ工夫のしどころだと思います。