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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

予想どおりに不合理

 「高齢者の社会的排除を減らすには、健康寿命をどう過ごすかを追求すれば良い」とか「幸福な形を、きちんと描けないことこそ、最も大きな不幸」とか、このところ、分かるような、分からないような記事を書いてきました。

 それは、以前読んだ「予想どおりに不合理」(ダン・アリエリー著、熊谷淳子訳、早川書房、2008)の著者の講義を、NHKの「お金と感情と意思決定の白熱教室~楽しい行動経済学の世界~」で視聴した影響です。

 「自分は、物事を本当に合理的に考えているのか?」と、根本的なところに揺らぎを覚えたからです。高齢者虐待の従事者研修では、偉そうに「発見を遅らせるのは、思い込みと勉強不足」などと言っているのに。

 私にとって、特にインパクトがあったのは、2003年に「サイエンス」誌に掲載された、臓器提供の国民の意思表示について欧州11か国を比較した論文(Eric Johnson and Daniel Goldstein “Do Defaults Save Lives” Science,Vol. 302、November 23、pp. 1338-1339.)に関する、行動経済学的な見方です。

 大雑把に言えば、臓器提供の同意率が低いのは、デンマーク(4.25%)、ドイツ(12.00%)、イギリス(17.17%)、オランダ(27.50%)で、高いのは、ハンガリー(99.97%)、フランス(99.91%)、オーストリア(99.80%)、ポルトガル(99.64%)ベルギー(98.00%)、ポーランド(99.50%)、スウェーデン(85.90%)であり、高低差が著しいのですが、これは「聞き方の違い」によるものだ、という見方です。

 つまり、「臓器提供する」形で意思表示を求めると「臓器提供しない」が多くなり、「臓器提供しない」形で意思表示を求めると「臓器提供する」が多くなる傾向がある、というのです。ちなみに、前者は、参加や加入するという意味で「オプトイン;Opt-in」、後者は、不参加とか脱退するという意味で「オプトアウト;Opt-out」と呼ばれる聞き方で、わが国では、臓器提供についてはオプトインが採用されています。

 もし、こうした傾向が本当なら、多くの人は、合理的に判断しているように思っていても、実は、聞き方に左右されていることになります。行動経済学の分野には、こうしたトピックスが多いため、あらためて「判断の判断が必要だ」と思ったわけです。

 これまで、虐待問題の分野横断的活動や「担当者の異動によって積み上げてきたものがリセットされる」ことに触れてきたのも、虐待問題への取り組みのマネジメント・サイクルが「予想どおりに不合理」な方に向かってしまう不安ゆえだったのかもしれません。