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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

都市政策と福祉政策の統合

 都市政策は、都市の自然発生的なプロセスに公的な介入を加え、いろいろな問題の一次・二次・三次予防を図るものです。そして、人間の生活領域(心・身・社会(役割、関係)・生活資源(経済、物資、情報))のあらゆる側面と関連しています。

 したがって、私は、福祉政策は都市政策と統合されるのが当然であり、虐待への取組みもそこに含まれる、と考えています。

 たとえば、虐待の発見しやすさや、相談・通報のしやすさには、地域による特徴があります。戸建てが多く、向こう三軒両隣、互いに数世代にわたる事情まで知っている地域なら、発見はしやすいですが、誰が相談・通報したかがバレやすいので相談・通報はしにくく、集合住宅が多く、隣は何をする人ぞという地域なら、発見も相談・通報もしにくいなど、です。

 つまり、発見から事後評価まで、全国一律に「こうしましょう」というだけでは、実効性は自ずと限界的になります。そこで、細分化すると130~40に及ぶ虐待への取組みの項目ごとに、地域の特徴を踏まえるくらいの木目細やかさが必要になると思います。つまり、移り変わりも含め地域の特徴を正確に把握しないといけないわけです。

 しかし、地域の特徴の移り変わりの先読みなどは、そう容易なことではありません。しかも、最近は、都市政策により住民の生活が大きく変わる例が増えました。

 駅遠くの戸建てには子育て世代、駅近くのマンションには高齢者という、住み替えを進める自治体もありますし、公共施設を新たに作らず、公共施設の一部を賃貸して維持費の足しにする自治体もあります。外国には市街地に車の乗り入れを禁止した自治体すらあります。

 むろん、地域の特徴の移り変わりの先読みに役立つ、法則性やパターンに関する学術的な知見はあると思いますが、私は、政策に限って言うと、「手続き重視」と「結果重視」という2つの視点を踏まえることが肝要だと思います。

 というのも、適切な治療(手続き)がされたなら、病気は治らずとも問題にならないのと同様の事物もありますし、先端技術(手続き)が用いられ作られても、欠陥品なら問題になるのと同様の事物もあるからです。

 虐待への取組みを例にとるなら、以下のようなことが考えられます。

 取組みの130~40項目それぞれを、「手続き重視」と「結果重視」を両極とした段階評価の基準を作ります。たとえば、発見や相談・通報に関する項目は「結果重視」になるでしょうし、対応に関する項目なら、「手続き重視」に傾く、といった具合です。

 あとは、この基準に基づき生活圏域を評価して地図に示すと、地域ごとの特徴が視覚的に捉えられます。いわば、政策の影響図とでも言えるものです。そして、インターバルをおいて作成すれば、変化も視覚化できます。

 この方法は、いろいろな問題に適用できますから、政策を考えるうえでとても役立つと思います。

「今年の虐待防止マップ下さい」
「はい、こちらになります」