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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、昭和女子大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

賞賛と示唆

 虐待対応への情報通信技術の活用に関心を持つ私には、少し気になるニュースがあります。それは、ランサムウェア(身代金要求型コンピュータウイルス)が世界各国で被害をもたらしたことです。

 外国では、機能が麻痺した病院もあったそうですが、医療のビッグデータを治療に役立てようという動きの活発化に伴い、ネットワーク化も進んでいるため、被害も拡大しやすいのでしょう。それにしても、ある日突然、病院全体の機能が全てストップする、というのは何とも恐ろしく感じます。

 ランサムウェアは、標的のPCにウイルスを感染させ、「復旧させたいなら身代金を払え」と要求するものですから、犯人の目的は主に金銭なのでしょう。あるいは、世界的有名企業の開発したOSをやっつけて、自らの能力の高さを示し、優越感に浸りたいのでしょうか。

 しかし、疑問もわいてきます。「そんなに高度な知識や技術を持つのなら、それを世のため人のために使ったほうがはるかに儲かるのではないか。警察から追われることもなく、世間から賞賛されて自尊心も大いに満たされそうなのに、何故そうしないのか」です。
 「果報は寝て待て」と言いますが、犯人は「待つ」ことが苦手で、目先のことに囚われているのかもしれません。

 待つことが苦手といえば、虐待事例のスーパーバイジーにも少なくありません。自分ではあまり考えようとせず、手っ取り早くどうすれば良いのか回答を欲しがります。「待つ」というのは、「宙ぶらりん」な状態ですから、心が落ち着かないのかもしれません。

 結果、ランサムウェアを仕掛けた犯人と同じく、目先のことだけ考えてしまいます。ですから、過去の損得を過大評価し、将来の損得を過小評価して、損得勘定がおかしくなります。たとえば、アセスメントは言わばこれまでの損得ですから、当事者の処遇可能性と自分たちの力量を過大評価し、将来の損得である計画立案では、得られるであろうメリットや悪化・再発のリスクを過小評価します。

 いずれにせよ、「宙ぶらりん」な状態を苦手にするのは主体性が弱いゆえですから、鍛えてもらわなくてはなりません。もっとも、「飴と鞭」で鍛えるのはいただけません。そこで私は、飴ではなく賞賛を、鞭ではなく示唆をするようにしていますし、スーパーバイザーの方にもそうおすすめしています。

 賞賛のメリットは、スーパーバイジーに対し、飴のように「もっと欲しい」ではなく、「もっとしよう」という主体性の発揮を促すからです。また、鞭が感心しないのは、暴力は論外であるうえに、頭ごなしに否定しては、卑屈になったり逆切れしたりするからです。そこで、主体的に考えられるように、「アセスメントなら矛盾のあることを、計画立案なら計画の実効性の低さを示唆する」ほうが良い、というわけです。

 それに、飴や鞭のように即物的なものより、賞賛と示唆のように内面に響くメッセージのほうが、ずっと伝わりやすいようにも思います。

「始発は寝て待て…ZZZ」
「果報だってば」