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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

養護者による高齢者虐待のタイポロジー(その1)

 事例の実態解明の一助になればと思い、高齢者虐待事例のタイポロジー(類型論)を、何回かに分けて述べますが、私のタイポロジーは、高齢者福祉に携わって30数年にわたるエスノグラフィー調査の成果物のようなものです。関係者をつぶさに観察して詳細に記録し、そこから関係者の行動様式のパターンや法則を明らかにしようとしてきたからです。

 まず、養護者による虐待から。事例の特徴を示すキーワードは、「依存」と「養介護破綻」と「不正」です。全体像は、虐待者は被虐待者に心理的、経済的に依存し、養介護は破綻し、経済的搾取と性的搾取という不正行為を伴うイメージです。

 現状に至るまでを理解するキーワードもあります。子ども時代の親の「養育態度」、当事者の「主体性」、当事者への「支援性と阻害性」の3つです。アセスメントでは、むしろこちらの方が重要になります。なお、ここでいう当事者は、虐待者と被虐待者、支援性と阻害性は、老親の同胞や子の同胞からのものを意味します。

 厚生労働省の対応状況調査において多くみられる続柄の順にみていきます。母・父、父・母のような表記は、より起きやすいと思うものを先に記述します。

 第一は、全虐待事例の約4割を占める「息子→母・父」について。

依存 息子の主体性は、母の干渉(溺愛)的ないし父の干渉(支配)的養育態度により発達を阻害され自立できず、成人後も心理的、経済的に老親に依存しています。息子の心身の障害は、これを助長するように作用し、結果的に、就職や結婚による他出ができない場合と、他出しても失敗して出戻る場合に分かれます。

養介護破綻と不正 息子は、発達を阻害された内圧からの暴言・暴力や、自活力の低さゆえの経済的搾取への走りやすいようです。そして、老親が養介護を必要とするようになり、親子の力関係が逆転したにせよ、養介護者としての役割も全うできません。

支援性と阻害性 息子の妻や同胞が、母・父に同情的なら虐待の解決に役立ちます。しかし、息子に同調するようなら、より深刻な事態を招きます。このあたりは、キチンとみておきたいのです。また、息子夫婦の子育てに問題があると、孫の健全育成も考慮する必要があり、よく「多問題家族」と言われます。

 少数派ですが、放任孤独型や葛藤型の養育態度のもとに育った息子は、自立的にはなるものの暴言・暴力も経済的搾取も厭わなくなる危険性があります。なかには、息子の同胞が、老親に同情的ではあるものの、子ども時代より乱暴者だった息子を恐れて、実質的にネグレクトになっている例もあります。

支援 息子と老親は古くからの関係であるため、心理社会的な発達に関する知識があると見立て易くなります。そして、本来なら、息子の主体性を回復すべく、かなり踏み込まねばなりません。

 もっとも、息子の介入拒否が強く、老親の息子への態度も、養育態度とさほど変わらないことが多いため、洞察促進よりはエンパワーや解決構築の支援スタイルになり易いと言えます。また、限られた接触回数や経済的搾取には、具体的な提案のできる認知行動変容的な働きかけが向いていると思います(支援スタイルについては「心のコップと支援のシナリオ」をご参照ください)。

「君は何タイプの虐待者だ?」
「その質問、今でないとダメですか?」