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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

心頭滅却すれば火もまた涼し、とはいきません

 従事者による虐待をテーマに研修を行うと、決まって「利用者からの暴言や暴力にどこまで対応すれば(耐えれば)よいのか」というご質問を受けます。第一線の従事者にすれば、「利用者から理不尽に酷い目に遭わされることだってあるのに、研修では自分たちが気をつけることばかり言われる。これでは救われない」といった思いがあるのかもしれません。

 私は、どうしても答えが長くなるため、日本精神科救急学会様の『精神科救急医療ガイドライン2015』の「第3章 興奮・攻撃性への対応」をご紹介のうえ、おもに4つのことをお伝えするようにしています。

 1つは、興奮・攻撃性・暴力についてキチンと「アセスメント」しているか、です。アセスメントを端折って短絡的な対応に終始し問題を長期化させている例は少なくありません。興奮・攻撃性・暴力の背景にまで踏み込んで見立てておきたいところです。

 たとえば、被虐待者であれば、急性ストレス障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)である可能性がありますから、むやみに刺激をすれば、興奮・攻撃性・暴力につながりかねません。それも、言葉遣いや表情や腕組みなどの態度はむろん、性別だけでも十分に引き金になるくらいですから、慎重さも必要です。

 2つは、自己防衛策を講じているか、です。従事者である以上、どのような被害を被っても仕方ない、というわけではありません。噛みつきや殴打や足蹴りなど、被害を受ける可能性があるなら、策は講じておかねばなりません。

 手をつけやすいのは物理的な備えです。怪我等の危険のあるスポーツや仕事ではいずれも、さまざまな工夫がなされています。プロテクターの着用や相手に背を向けないとか逃げ道の確保など、すぐにでも実行できそうなことは結構あります。

 3つは、トレーニングの必要性です。1と2に述べたことは比較的容易に行えますが、興奮・攻撃性・暴力の予測や、怒りや衝動を緩和する心理的介入や、護身術や合気道的な緊急離脱技法は、日頃からトレーニングを積んでおかねばなりません。相手にも自分にも、ダメージを最小限にとどめる方法の体得は一日にしてならず、です。

 4つは、事後対策の対象は、当事者に加え目撃者など間接的にかかわった人々も含める、という点です。間接的にでもかかわった人々への手当をぬかると、影響を最小にとどめることや再発防止に差し障ります。下手をすると、従事者の「救われない」感は強まり、短絡的な対応をしやすくなって、悪循環を生じます。

 望ましくは、冒頭でご紹介したガイドラインなどを参考に、勉強会を行ったり業務マニュアルを改訂したりして、緊急時の対応手順の妥当性と信頼性を向上させ、当事者への応援が速やかになされる体制を整備していきたいものですが、統制されているなら、理不尽な目に遭った体験を語り合うだけであっても、効果は決して小さくありません。

「これなら、刺激しないし、安全だし!」
「ちゃんと介護はできるの?」