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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

ストレス・マネジメントのストレス!?

 先日、最高裁は、認知症者の列車事故で鉄道会社が損害賠償を求めた訴訟について判決を下しました。そして、民法714条でいう夫婦間の扶助義務は、生活状況や介護の実態などを総合的に判断すべきだと基準を示す一方、損害賠償に関する社会的制度の不備を指摘しました。

 しかし、社会的制度の不備は何時になったら解消されるか懸念されます。憲法違反とされた国会議員定数の是正は遅々と進まず、待機児童対策では「保育園落ちた。日本死ね!」と言われ、子どもの貧困対策にいたっては、寄付金を2千万円集めるのに税金を2億円投入するなど、知れば知るほどストレスが溜まる状況だからです。

 ところで、ストレスといえば、高齢者虐待の発生要因に関して、全300件の従事者による虐待では、職員のストレスや感情コントロールの問題が60件で20.4%を占め、全15,739件の養護者による虐待では、虐待者の介護疲れ・介護ストレス は、1,334件で23.4%を占めています。(詳しくは、厚生労働省による「平成26年度高齢者虐待対応状況調査結果」の添付資料をご参照下さい)

 つまり、「介護疲れ」「介護ストレス」「感情コントロール」は、虐待者理解のキーワードだと言えそうなのですが、私にはこの3つは、「自分の思い通りにならない」という点でつながっているように思えます。

 むろん、従事者の場合、疲れやストレスが溜まるにしても、「仕事である」ことが強く感情を制御するのに対し、養護者では制御力はずっと弱いという違いはありますが、いずれにせよ、自分の思い通りにならないと、感情を制御できなくなり「クールな心とホットな頭」になるからです(このブログ「私の世界、あなたの世界、そして私たちの世界」をご参照下さい)。

 そして、たとえば、「押しても駄目なら引いてみろ」なら良いのに、「押しても駄目なら叩いてみろ。叩いてだめならぶち破れ」的な感じとなり、少々教育を施してみても、少々のレスパイト・ケアを講じても、効果は限定的なため、虐待者を主語にした支援が必要になります。

 非対立的な虐待者支援では一般に、まず、積極的傾聴などによって、頭に血がのぼっている虐待者の「心のコップの水」を空け、冷静に考えられるよう心に余裕をつくります。
 つぎに、被虐待者に対して「押しても駄目なら叩いてみろ。叩いて駄目ならぶち破れ」的な振る舞いは、果たして功を奏したのか客観的に評価して貰います。いわゆる「気づき」を得るわけです。

 そして、「押しても駄目なら」の下の句について、「引いてみろ」という選択肢など、具体的な方法を一緒に考えます。よく、過去に上手くいった方法や、例外的に上手くいった方法などが検討されます。

 もっとも、「コントロールフリーク」も存在しますから、そう簡単ではないのでストレスが溜まりそうですが、この三段階は自分一人でも辿れますし、「制度化されたストレスチェック」の実効性をあげるための参考にはなると思います。

「ストレス溜まっていそうネ」
「ストレス・マネジメントの責任者になったストレス」