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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、昭和女子大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

支援ネットの番人とその資質

 フィンランドは、約8割の女性がフルタイムで働いているのに、合計特殊出生率は約1.8の水準を維持しており、子育て支援の先進国として有名です。痒いところに手の届く支援の象徴として、無料で配られる、お役立ちグッズ満載の「育児パッケージ」は、テレビ等で一時さかんに紹介されました。

 しかし、ここでは、育児パッケージ同様、活目に値する「ネウボラ(neuvola)」を取り上げます。「アドバイスの場」を意味するネウボラは、どの自治体にもあって、皆、妊娠の予兆がある時点で、まずはここに行くそうです。

 ネウボラでは、妊娠期間中10回程度の無料健診を受けられ、出産入院の医療機関や専門家を紹介して貰え、出産後子どもが小学校に入学するまで定期的に通い、保健師や助産師に育児や家庭に関する相談もできます。

 同じ担当者が継続的に支援する担当制であり、親の精神的な支援や父親の育児参加推進の役割、児童虐待やDVの発生予防の役割も担い、50年間保存される記録は、子どもと家族に対する保健・医療・福祉の支援連携に役立っています。

 これに倣った活動は、わが国の市町村にも広がりはじめ、厚生労働省もこれを推奨しています。もっとも、高福祉高負担の国では無料で全国展開できても、中福祉中負担の日本でも同様にできるのかは不透明です。しかし、「それを必要とするなら、誰でも、同じ担当者により継続的に支援される」点はとても良い感じです。

 ところで、「人が何を必要としているか」を網羅的に捉えるために、たとえば、縦糸をライフステージ、横糸を分野横断的な支援などと、「網(ネット)」をイメージして考えることがあります。

 この考え方でいくと、ネウボラは、縦糸を健診と担当制による一定期間の継続した相談、横糸を他機関への紹介とよろず相談とする網目であり、これが、フィンランドの「親と子の痒いところに届く手」なのだ、と言えそうです。

 そして、私は、「紹介(レファー)するなら、先方が受入可能なのか、受け入れて何をしてくれるのか、事前に問い合わせするなりして、クライエントが先方に行って困らないようにする」という、スーパーバイザーの教えを思い出します。

 対人援助職は、いわば網目の番人ですが、自分の守備範囲をしっかり守るだけではなく、守備範囲外のことであっても、クライエントが道に迷わぬようにする程度の配慮は必要不可欠だ、というわけです。

 このブログ「私たちは皆、誰かに愛され、誰かの役に立っている」でも、ブロック遊びのブロックの凸凹の結合によって開かれる創造性について書きましたが、いくら網目を小さくしても、連携(凸凹の結合)が不足していたのでは、精緻な実践はできません。

 このことは、対人援助職は、守備範囲を守る「強靭さ」と、守備範囲外のことにも配慮する「伸縮性」を身につける必要があることを意味します。地味のようでいて実は、とても重要な資質なのではないでしょうか。

 バイオミメティクス(生物模倣)ではありませんが、鋼鉄より強靭でナイロンより伸縮性に優れた糸で網(巣)をつくる蜘蛛から学ぶくらいのことをしたほうが良いのかもしれません。

師匠(クモ)「張り方は背中を見て覚えろ!」
弟子(人間)「はい、頑張ります!!」