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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、昭和女子大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

使用者による虐待は自己肯定感の低さから

 私が外出するとき、20代後半の知的障害者と思しき青年とよく出会います。買い出しが彼の「仕事」であるらしく、自宅と店を行き来しているときに私と出会うようです。

 あるとき私は、彼が、買い出しに行くときはおどおどして頼りなさ気なのに、レジ袋を持っての帰り道は、何やら誇らしげなことに気づきました。

 この違いについて、私は「仕事をやり遂げる」前後の自己肯定感の違いなのではないか、と思いました。帰り道は、無事に買い物を終え、任務完了目前ですから、誇らしくて顔もほころぼうというものです。

 ところで、障害者と仕事と虐待というと、真っ先に思い浮ぶのは、厚生労働省が毎年度、障害者虐待防止法基づいて公表している「使用者による障害者虐待の状況等」の結果です。

 公表されるのは、障害者を雇用する事業主や職場の上司などの「使用者」による障害者虐待の状況や、使用者に対して講じられた措置などについてあり、直近のものは平成26年度分です。

 それによれると、使用者による障害者虐待が認められた事業所は299事業所(前年度比18.2%増)であり、被虐待者は483人(前年度比22.9%増)、虐待者は311人です。

 そして、被虐待者の障害区別(重複あり)は、知的障害362人(73.6%)、身体障害67人(13.6%)、精神障害52人(10.6%)、発達障害11人(2.2%)であり、虐待者の内訳は、事業主258人、所属の上司43人、所属以外の上司1人、その他9人です。

 また、虐待の行為類型(重複あり)は、経済的虐待419人(83.6%)、心理的虐待39人(7.8%)、身体的虐待23人(4.6%)、放置等による虐待12人(2.4%)、性的虐待8人(1.6%)となっています。

 他にも、「知的障害者に対する経済的虐待が最多」、業種別トップ3は「製造業116件(38.8%)、医療、福祉業45件(15.1%)、卸売業、小売業32件(10.7%)」であるとか、「小規模事業所の経済的虐待が多い」とか、「パート等で就労する知的障害者への経済的虐待が最多」など、興味深い記述が並んでいます。

 詳しい分析は別稿に譲るとして、私はこの結果をみたとき、冒頭でご紹介した青年のことを思い出しました。そして、虐待者たちは青年とは違い「自己肯定感を持って働けていない」のではないか、と考えました。

 おそらく青年は、「任務完了を誇りに感じる」など、絶対評価に基づいて自己肯定しているのに対して、虐待者たちは、「20代後半にして仕事が家の買い出しでは誇れまい」という相対評価しか下さないのではないか、と思うからです。

 相対評価しかしないと、必ずや誰かを見下し、「半人前を雇ってやっている」などの意識につながります。また、無自覚のうちに「誰か」のなかに「自分」を含める羽目にもなります。劣等感などはその最たるものでしょう。これで事業運営に良い筈はありません。

 私はいつも出会う青年から、「使用者も従事者も、長所と短所を踏まえたうえでなお、『自分はこれで良い』と肯定できる大切さ」について、教えを受けた気がします。

「やっぱり、僕って完璧!!」
「ナルシスト!?」