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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

国の対応状況調査結果から:従事者による高齢者虐待(その1)

 何回かに分けて、国の対応状況調査結果を読み解いていきたいと思います。まずは、従事者による虐待からです。なお、以下の数値は、すべて小数点以下を四捨五入しています。

 第1は、虐待の発生する「場」をどうカバーするか、です。高齢者虐待防止法は、養介護施設従事者等の定義によって、間接的に「場」を定義しているため、実態施設、サ高住、宿泊デイなど、新たに出現してくる「場」をカバーしきれません。

 学校や保育所といった「場」もカバーする障害者虐待防止法のように、高齢者虐待防止法を改正するとか条例を作るとか、あるいは独自のマニュアルに盛り込むとか、いずれにせよ何らかの明文化が必要だと思います。

 第2は、件数の増加をどうみるかです。虐待判断件数は、平成23年度に急増して151件となって以来漸増し、平成25年度は221件でした。市区町村の相談・通報受理件数も年々上昇して平成25年度は962件になりましたが、対虐待判断件数比が拡大しつつあります。

 希望的観測としては、先行した養護者による虐待への取組みが一段落して、今度は、不当な身体拘束を含む、従事者による虐待の「掘り起こし」に目が向いてきた、とみたいところです。

 しかし、施設より密室性の高い環境にある、高齢者の在宅生活のことは気がかりです。要介護者はむろん自立していても、独居や高齢者だけで暮らしているなら、たとえ虐待が発生していても、闇から闇に葬られかねないからです。事実、行為自体は経済的虐待そのものだと言える詐欺の被害は急増していますから、早期発見・見守り上の重要課題だと言えるのではないでしょうか。

 第3は、相談・通報と受理及び事実確認にまつわる課題です。

 調査結果によると、通報受理から事実確認まで時間のかかる事例のあることや、事実確認調査を行った3分の1が判断に至っていないことが分かります。問題なのは、これらの背景に、対応する側に、知識や技術・技能の不足、あるいは「ためらい」があると推察される点です。

 というのも、相談・通報の45%は当該施設職員、20%は家族・親族、5%はケアマネジャーであり、受理及び事実確認するのは市区町村や都道府県ですが、いずれも、それまでの信頼関係から一転し、従事者に虐待の「疑いをかける」ことに馴染みにくい立場にあるからです。

 そして、この「ためらい」は、証拠保全の技術的な難しさによって、さらに強化されます。しかも、虐待の判断には、直接証拠や間接証拠や補助証拠を、論理的に組み立てる必要があります。つまり、それなりに経験を積まねばならないのですが、事例は少ないのですから、担当者は、経験に裏打ちされた自己効力感を持ちにくい状況にあると言えます。

 こうなると、ある程度まとまった数の事例を把握できる国や都道府県、ないし政令指定都市の出番なのではないでしょうか。せめて、手順書レベルの対応マニュアルくらいは、欲しいと思います。

 もっとも、いきなり実効性のある対応マニュアルは作れませんから、手始めに、詳細な事例検討を行うとともに、その結果を公表していただきたいと思います。

「課題の大漁だ!」「鯛じゃないのネ」