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臼井二美男の 伴走者こころえ
――義肢装具士がめざす好循環――

臼井二美男(うすい・ふみお)

事故や病気で足を失った人たちのために義足を作り続けて30年。義肢装具士として義足ユーザーたちの声に耳を傾け、「装う」「学ぶ」「遊ぶ」「表現する」「働く」「走る」など、生きる喜びや自信を取り戻せるように試行錯誤を重ねている。臼井流の「支える」ための努力、気遣いを伝えます。

プロフィール臼井二美男(うすい・ふみお)

公益財団法人鉄道弘済会 義肢装具サポートセンター 義肢装具研究室長・義肢装具士。
1955年群馬県生まれ。義肢装具士として義足製作に取り組む。89年からスポーツ義足の製作を開始。91年に、義足の人のための陸上クラブ「ヘルスエンジェルス」を創設。2000年のシドニー大会以降、パラリンピックの日本代表選手のメカニックとして同行する。他にも、義足アート、ファッション、大学との共同研究など、活躍の幅を広げている。

関連サイト
鉄道弘済会義肢装具サポートセンターHP
ヘルスエンジェルスHP

関連書籍
・『カーボンアスリート』山中俊治著 白水社 2012
・『義足ランナー』佐藤次郎著 東京書籍 2013
・『切断ヴィーナス』 越智貴雄 撮影 白順社 2014

第7回 障害の受容について(2) ―家族や周囲の理解―

 子どもや若い人が事故や病気で手足を失った場合、親御さんへの情報提供やサポートをして、意識を変えていくことも重要な仕事です。障害についてマイナスイメージを持っている方も多く、子どもが障害を負ったことを近所に隠して「出歩かないで家でおとなしくしていてほしい」となってしまうことがあるのです。保守的な地域では、「びっこ」とか「かたわ」などと差別的なことを言う人もまだまだいて、周囲の偏見があるので、「親戚には内緒にしている」などということもあります。家族や周囲の人の「受容」をどう支援していけばいいのかは、本当に重大な問題です。

 周囲への理解を広めるにも、まず親御さんがちゃんと理解して周囲に説明できることが大切ですから、親御さんへは大人の利用者に対して行うのと同じように、現在の日本の義肢製作のレベル、動きや機能について情報を提供し、同じような症例の人を紹介したりして、義足でできることを理解してもらうようにします。センター退所後も、本人や親御さんと個人的にメールや電話をすることが多いので、携帯電話の登録件数がとうとう1000件を超えました。子どもと一緒に来所するのがたいていお母さんなので、ついお母さんにばかりメールすることになります。そうなるとお父さんからヘンに思われるし、おもしろくないだろうから(笑)、なるべく来所のときはお父さんにも一緒に来てもらうように声をかけるなど、そういうことにもすごく気を遣っています。

 子どもが学校へ復帰するときには、親御さんに「学校側へはこんなふうに説明をしたほうがいいよ」というアドバイスをしています。黙っていたら、学校側もどう対応したら良いかわからないし、体育の教師にも義足について知ってもらう必要があります。学校で理解のない言葉をかけられたことがきっかけで、本人がその後、障害を隠すようになることもありますので、教師が理解してくれて、ちゃんとフォローをしてくれるようにしておくことがやはり必要だと思います。

 職場に復帰したり、新たに就職し直すときには、基本的には義足であることを報告しておいたほうが、いざというときのために良いと思いますが、人によっては障害者枠ではなく一般枠で就職して、障害のことや義足のことを全く会社に言わずに過ごしているという人もいます。生活や仕事の上で、とくに配慮が必要ないということならばいいかもしれませんが、急に義足が壊れて修理に行かなければならないこともあるでしょうから、ある程度自分から開示して、周りの理解を得ておいた方が楽だとは思います。中には、仕事中に義足をはき続けるのが苦しいといって、デスク脇に義足を転がしておいたりする人もまれにいます。まわりも最初は驚くだろうけど、だんだん慣れる、というか慣れさせる(笑)。

 このセンターを利用している義足の女性たちが被写体になって作った『切断ヴィーナス』(白順社発行)という写真集があります。この中に出ているイラストレーターの須川まきこさんも、義足姿の写真を載せることについて、当初は両親から猛反対を受けていましたが、何か月もかけて説得し、ようやく掲載にこぎつけました。親としては、娘の障害は誰にも見せたくない、ましてや足を切断した部分や義足をあらわにした姿をわざわざ世間にさらさなくてもいいじゃないかということだったのです。

 須川さん自身も、数年前までは義足を見せて人前に出ることはできなかったのですが、同じような仲間と交流を続けるうちに、自分の姿に自信をもてるようになり、「私を見てほしい」と思えるように変わっていきました。そんな自分を表現したいという思いを、写真集作りを通してやっと両親にわかってもらえたのだと思います。

 義足の子どもにスポーツにチャレンジしてもらう場合にも、親御さんの理解がとても大切です。体を動かすことには効能がたくさんあり、とくに子どもにとっては計り知れません。同じような障害のある仲間もできるし、全身のバランスや体幹を鍛えれば、きれいに歩く力もつきます。身体能力がどんどん発達する時期ですし、適応力が高いので、子どもにこそ機能のよい義足をはかせてあげるとよいと思います。

 アートでもスポーツでも、何でもいいから外へ出て行くことが大切です。そこで自信を得て、いずれ社会人になるときには、足のことがとくに「障害」ではなくなっていく。そして社会に参加して、社会を作っていく側になっていく。親もいろいろな場所へ出て、さまざまなことにチャレンジしている義足の人を見れば、昔の「障害者」観から脱していきます。

義足の女性11人による写真集『切断ヴィーナス』(白順社)。撮影は写真家の越智貴雄氏。登場する義足はすべて臼井氏製作。中の扉頁イラストは須川まきこさんによるもの。

イベントのお知らせ:
日本科学未来館「だれでもアスリート-障害者週間2014-」

12月3日(水)~14日(日)まで(12月9日は休館)、東京・お台場の日本科学未来館にて、イベント「だれでもアスリート-障害者週間2014-」が開かれます。期間中、越智貴雄氏の撮影した障害者アスリートや、写真集『切断ヴィーナス』に登場した女性たちの写真展が行われます。6日(土)には為末大氏のトークショー、7日(日)には臼井二美男氏製作の義足を着用したアスリートたちによるファッションショーなども行われます。