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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第12回 未来の食卓を創造する
キユーピー株式会社の取り組み(後編)

おいしく食べやすく、味づくりの技術結集

「やさしい献立」シリーズは噛み、飲み込むことが困難な人が食べやすい「嚥下調整食」シリーズです。
 4つの区分は「区分1 容易にかめる」「区分2 歯ぐきでつぶせる」「区分3 舌でつぶせる」「区分4 かまなくてよい」となっていますが、嚥下しやすい食べ物というと「口の中でのまとまりやすさ」や「べたつかない」「離水しない」等も必要になります。こうしたさまざまな機能を備えた上で、控えめな味つけで、おいしくする工夫とはどのようなものでしょうか。

「味づくりの根底を支えているのは『だし』です。塩分を控えても、おいしいと感じていただくには、だしを合わせ、素材によって下処理や調理時間を変え、旨味を壊さないようにしています。
 もちろんレシピや製法は異なりますが、塩分や調味液を加えずにベビーフードを作ってきた技術もあり、味づくりは丁寧に行っている自負があります」と、同社広報部メディアコミュニケーションチームの菅原隆史さん。

「素材をカットする大きさも、食感の楽しみと食べやすさの兼ね合いを考えて工夫しています。高齢の方が不足しがちなたんぱく質(肉や魚)は、水分を抱き込む『やわらか仕上げ』加工などで食べやすくなっているんですよ」(師田さん)。

「肉とともにマッシュポテトなど水分を含む食品を加えて加工肉を作っています。ちょうど豆腐ハンバーグを作るようなイメージです」(菅原さん)。

 このほか、区分1の料理もスプーンなどでつぶすなどして、摂食嚥下機能が他の区分に当てはまる人も併用できるよう配慮されています。

「摂食嚥下の状態は体調によって日々変化しますし、2つの区分をまたいでおられる方も少なくありません。また、好みのメニューで選びたいということもあり、いくつかの区分を併用される方が多いようです。いずれにせよ介助される場合は、摂食嚥下の状態を見ながら安全第一にご活用いただきたいです。

 なるべく多くの方に使っていただきやすいように、専門家の意見、モニタリングの結果、ネット上のお客様の声を集めて、製品改良・開発に反映しています。
 昨今はインターネットのおかげでユーザーの声をダイレクトにうかがえる機会が増えました。この秋にはそうしたご意見を集約し、区分1で、少々ボリューム感を増した主食を増やします。
 単身の高齢者世帯が増えていますし、また、ご夫婦とも高齢で在宅介護をされているケースも増えてきました。そういった方々が、『今日はちょっとごはんの支度がしんどいな』というときなど、手軽に食べていただける品を拡充します。お客様からはお叱りを受けることもありますが、できることを模索して、まだまだ大事に育てていきたいシリーズです。

 一方、機能性をもつ商品というのは発売した以上、必要とされているうちは、作り続けるメーカーの責任があります。製造を止める商品もありますが、止めるときにも、そのことでお客様にご迷惑をかけないよう最大の配慮が必要になるので、一般品以上に商品開発には慎重になっています」(師田さん)。

 商品の形態(現在は主にレトルト)を増やしてほしい、冷凍食品も…といった要望もあるそうで、

「例えば、冷凍食品ならもっと味や食材の工夫ができるという利点があるのは分かっています。とはいえレトルトは保存性が高く、場所をとらず買い置きしやすいという利点があり、それぞれ一長一短の面があるので、グループ全体で販売の方法も含め前向きな商品展開を考えていきたいですね」(師田さん)。

 また、家族がそろって食卓を囲めるように支援する取り組みの一環で、皆さんよくご存知の料理番組「キユーピー3分クッキング」のウェブとレシピ本では、定期的に「やさしい献立」を用いた献立レシピが紹介されています。
 レシピには摂食嚥下機能が低下している人が食べやすい調理の工夫(例えば、お漬物や野菜を食べやすくカットする方法)なども紹介されています。


 次回は、「在宅介護を思い出しながら、『やさしい献立』を食べてみました」と題して、私が在宅介護で感じた食事の問題を思い出し、困っていたことの「対応になること」を考えつつ、「キユーピー やさしい献立」シリーズのいくつかの商品を食べてみたレポートを掲載予定です。