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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第115回 食支援につなげる 
「栄養・食べる力」ケアの視点3

はじめに

 113回より管理栄養士の安田淑子さん(地域食支援グループ・ハッピーリーブス副代表)に食支援が必要な人を早期発見し、適切なケアにつなぐために、ベースとして必要になるケアの視点について、参考となるお話をうかがっています(全4回)。
 前回までは「低栄養とその健康被害」「低栄養の兆しの見つけ方」「なぜ低栄養が起こるのか」をうかがいました。
 今回は、地域での食支援の実践に参考となるお話をまとめます。

食支援で効果を上げるには?
“オール地域”で、ケアを文化に

 前回の記事の最後に、安田淑子さんが所属している新宿食支援研究会(新食研)のワーキンググループ「エイヨ新宿♡」が貴重な取り組みをしていることをご紹介しました。
 エイヨ新宿♡は、新宿区で働く栄養士・管理栄養士がより効果的な栄養指導を実施するために自主的に学びや研究の機会をつくっているもの。参加している人は勤務先(病院や施設、フリーランスなど)もキャリアもさまざまだということです。

 これまでに新食研に所属しているケアマネジャーの協力を得て、改めて在宅での食生活事情を学び、栄養指導に必要な利用者の情報を得るためのシートを開発したほか、外来栄養指導用に独自の問診票を開発した、とのこと。
 また、前回紹介した「口腔環境から食支援を考える会」のほかに、「地域食支援を勉強する若手栄養士の会」という分科会もあり、これから地域に出ていく人材育成にも取り組んでいるそうです。
 さらに、新食研のその他のワーキンググループとのコラボレーションも活発で、そのネットワークでの人・情報・技術・物の交流によって、栄養も含めた利用者の食の多様な問題を解決するために「多様なケア」とつなぎ合う環境づくり、「多様なケア」を実践するスキルを高めています。

 「地域で『管理栄養士はどこにいるの?』という声が上がらないように、『ここにいます!』と自ら方々で声を上げています。
 在宅ではとくに利用者さんの生活背景を知らずに栄養指導を行っても意味がありません。生活背景を知るには、多職種からの情報、連携が欠かせず、双方負担にならない連携を実現するために、他の職種の仕事を理解することも大切で、学ぶ機会をつくる必要があるのです」(安田さん)

 安田さんは、毎月開催されている新食研主催の勉強会(新宿以外の専門職、一般介護者も参加可能 詳細は新食研ウェブサイト「食支援を学ぶ」内)の運営にも携わっています。

 安田さんはじめ新食研に所属している専門職の皆さんは、“参加する”というより“主体的に活動する”、“主催者、運営者になる”中で、それぞれの仕事のスキルを高め、豊富な人脈を築き、情報を得て、食支援を広げています。

 「食支援で結果を出すには、専門職の連携だけでは及びません。
 新食研の五島代表がよく話すのは『食支援を必要とする人が1万人を超える新宿では、食の問題がある人を『見つける』、支援者に『つなぐ』人、『結果を出す』人を無限に増やす必要があり、さらに全国に『広める』ことが新食研のミッション』ということです。
 この『見つける・つなぐ』には、介護をされているご家族も含め、一般市民のマンパワーが必要です。
 普段、私は自宅で療養している方が介護保険で利用する居宅療養管理指導の訪問栄養指導を担当していますが、その多くは大変重症な栄養障害で、訪問の度、これほどになる前に予防・改善に取り組むことができていたら、これほど生活の質が低下することはなかったと思い、大変残念に感じます。
 ですから『隣のおじいさん、痩せたのではないか』『毎日買い物に来ていたおばあさんが、1日おきになった』『前のおじさん、この頃、義歯を入れていない』といった身近な人の気づきから、支援につながる文化をつくっていかなくてはいけません。
 そして私たち管理栄養士に誰もが気軽に食べることが相談できる環境づくり、人づくりも急務と思っています」(安田さん)

 次回に続きます。

プロフィール
●安田淑子(やすだとしこ) 管理栄養士。地域食支援グループ・ハッピーリーブス(東京都新宿区)副代表。1993年より高齢者の栄養管理・食支援に携わる。ハッピーリーブスは、歯科衛生士・管理栄養士・理学療法士が協働で、在宅で療養する高齢者の食支援を行う任意団体。安田さんは主治医の指示書にもとづいて介護保険で行う「居宅療養管理指導」の訪問栄養ケアを担当。ほかに新宿ヒロクリニック外来での栄養相談などのほか、デイサービスでの昼食の栄養ケア、専門職向け食支援教育の講演、執筆など。著書に「介護スタッフのための 安心『食』のケア 口腔・嚥下・栄養」(共著、秀和システム刊)。

食支援最前線の人・実践法・情報・ケア製品が集まる
「新宿」と「京都」から学べる!
この記事でお話をうかがっている安田淑子さんも所属している新宿食支援研究会主催のイベントのご案内です。
第1回 最期まで口から食べられる街づくりフォーラム全国大会
<タベマチフォーラム>
日時:9月3日(日)
   (開場)9:15、(開演)10:00

会場:東京富士大学 二上講堂
  • プログラム:基調講演 京滋摂食・嚥下を考える会 代表 荒金英樹先生
    講演   新宿食支援研究会 代表 五島朋幸先生
    多職種フォーラム
    パネルディスカッション など
定員:500名 申し込み受付中!
詳細:http://shinnshokukenn.org/mysite2/forum.html
主催:新宿食支援研究会