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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第96回 食支援・排泄支援の相談窓口設置 
京都府医師会の取り組み(前編)

はじめに

 2016年4月、京都府医師会が在宅医療・地域包括ケアサポートセンター内に食支援・排泄支援の相談窓口を設置し、電話番号を公開しました。
 平日午前10時から午後4時まで、一般からの相談を受け付けています。
 これは、多様な場で療養する人に「生活を支える医療」を届ける1つの具体策として、京都府の医療・介護の多職種が連携し、今後広げていく食支援・排泄支援のベースとなる窓口開設で、始まったばかりとのこと。その背景と、展望をうかがいました。全2回でお伝えします。

支援につなぐ相談業務開始
背景に職域越え勢ぞろいの協議

 京都府医師会は2015年4月、従来組織「在宅医療サポートセンター」を発展的に「在宅医療・地域包括ケアサポートセンター」(以下、センター)に改めました。

「全国各地と違わず京都府も高齢者人口が増え、要介護度3以上の方が急激に増える2025年問題が現実味をもって迫っています。
 そうした中、医療に対して高齢の方やご家族からは『支える』『癒す』『見送る』という役割を望む比重が高まっていて、病院で受ける治療とは異なる医療が日常生活に身近な、多様な場で提供されることが期待されています。
 そこで我々医者が、その“場”となる家庭や高齢者住宅などがある“地域”で療養される方を『支える』『癒す』『見送る』技能、つまり在宅対応力を高める必要が依然としてあるわけですが、一方で地域医療は、医療・介護の多職種や団体、異業種、そして市民とも機能的な連携をしなければ実現できないと考えています。
 そのチームケアの中で医師は果たすべき役割を自覚し、しっかりと果たしていかなくてはなりません。そして『支える』『癒す』『見送る』備えはまだまだ不十分ですので、多職種等みなで考え、乗り切っていこうという共感と、対等な関係、信頼構築が“地域包括ケア”の第1歩になります。
 そこでセンターの名称も“地域包括ケア”を加え、地域のチームケアに関わる方々への情報提供、研修、職種の垣根を越えた会議などが可能な新体制になりました」(京都府医師会副会長・北川靖先生)。

 センターの定例会議や京都在宅医療戦略会議とは別に、食支援・排泄支援の相談窓口の背景として重要な機能を担っているのが、2015年7月から始まったブレーントラスト会議です。
 食支援Partと排泄支援Partに分かれ、それぞれ当初2ヶ月に1度(現在は3、4ヶ月に1度)、以下の団体の代表委員が集まり、研修会の開催や相談事業の運営について話し合いをもっています。

食支援Part ブレーントラスト会議参加団体
京都府栄養士会、京都府介護支援専門員会、京都府看護協会、京都府言語聴覚士会、京都府作業療法士会、京都府歯科医師会、京都府歯科衛生士会、京都府訪問看護ステーション協議会、京都府薬剤師会、京都府理学療法士会、京滋摂食・嚥下を考える会、京都府医師会

排泄支援Part ブレーントラスト会議参加団体
京都府介護支援専門員会、京都府介護福祉士会、京都府看護協会、京都府作業療法士会、京都社会福祉士会、京都泌尿器科医会、京都府薬剤師会、京都府理学療法士会、NPO快適な排尿をめざす全国ネットの会、はいせつ総合研究所 むつき庵、中京西部医師会、京都府医師会

 ブレーントラスト会議は、多職種が連携して行う支援を府内各地域に広げる司令塔の役割を果たします。

 食支援Partのブレーントラスト会議では、入院中の摂食・嚥下ケアや栄養指導が在宅療養においても継続できるよう、在宅療養に関わる多職種が食支援について理解を深め、技能を学ぶ研修会を開催すること、ブレーントラスト会議参加団体が協力して相談事業に当たることについて協議が重ねられました。
 そして2016年1月9日、研修会「生活機能向上研修食支援Part」(南部会場)を開催。
「高齢者の嚥下障害について」(浜松リハビリテーション病院院長、藤島一郎先生)、「嚥下調整食とは?」(広島県立広島大学人間文化学部健康科学科教授、栢下 淳先生)、「多職種との連携」(京都大学大学院医学研究科神経内科特定研究員、言語聴覚士 永見 慎輔先生)の講演がありました。
 さらに京滋摂食・嚥下を考える会の活動紹介と講演(演題:誰かにつながる<専門家にたどり着く>システムづくり)と、食支援について受講者も交えた質疑応答、嚥下調整食や介護食器の企業展示も併せて行われ、多職種206名が受講しました。
 また、2016年2月27日には「生活機能向上研修食支援Part」(北部会場)が開催され、多職種53名が受講しました。
 病院勤務の言語聴覚士、作業療法士からは嚥下評価と食支援について、病院勤務の管理栄養士からは嚥下調整食の紹介と訪問栄養食事指導について、綾部市社会福祉協議会の介護支援専門員からは地域の食支援の現状と展望について講演があり、受講者一同、入院から在宅への継続的な食支援が必要であることを再確認し、各専門職が職域内で「療養者の食をどのように支えるか」を研鑽する機会を設けると共に、府内各地域での多職種合同の研修会の開催について協議したということです。

 次回に続きます。