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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第70回 地域食支援の担い手育てる新たな取り組み 
新宿食支援研究会の「マイスター制度」始動!

はじめに

 「新宿を『最期まで口から食べられる街』にする」として活動する新宿食支援研究会(以下、新食研)が去る11月14日、新たな取り組みである「マイスター制度」をスタートし、初の食支援サポーター養成講座を開催しました。
 新制度について、新食研を主宰するふれあい歯科ごとう代表・五島朋幸先生にうかがったお話と合わせて、初回の食支援サポーター養成講座の模様をお伝えします。

要食支援の兆し、マンパワーで見つける!
2016年から一般区民サポーター誕生も

 新食研は、2009年より食支援を必要とする人を「見つける、つなぐ、結果を出す」というテーマを掲げ、80名を超える多職種が参加して地域食支援を進展させてきたパワフルなチームです。その活動については、本連載第53回54回でもご紹介しました。
 従来から、食支援を実施する技能の向上と標準化、地域内の介護現場等で働く専門職への教育に力を注いでいて、ワーキンググループ(以下、WG)が独自の食形態判定表やピラミッドモデルの公開、ヘルパー研修の開催なども行い、地域の食支援力の底上げを担ってきました。
 設立から7年目を迎えた今年、活動の新たなテーマとして「広げる」を加え、専門職に限らず、一般も含めより多くの人が「食支援を必要とする人を見つける、つなぐ、結果を出す」に関わる仕組みづくりとして新事業を始動。それが「マイスター制度」とのことです。

 「新テーマ『広げる』とは、食支援の意味と必要性を理解してもらう機会を増やし、食支援に関わる人を育てるということです。
 新宿で、食支援を必要とする人は1万人を超えていますから、区民の方々を巻き込み、“街づくり”の発想で見つける、つなぐ、結果を出す人を無限に輩出していくことこそ新食研のミッションだと考えています!
 食支援が必要になった人には必ずその『前』があるので、その段階を能動的に見つける人を街に増やすことが『最期まで口から食べられる街』になるために不可欠なこと。痩せた、買い物に行っていない、出歩かなくなった。身近な人の変化、要支援の兆しを能動的に見つけてもらえるように、新食研が食支援サポーターを育成します。
 サポーターには口から食べることの意味を知り、『痩せた』→『食支援が必要かも!?』の発想から、専門職の存在を伝え、つなぐことを担っていただきたい」(五島先生)。

 マイスター制度は、2016年度本格稼働予定で、食支援サポーターのほか食支援リーダー、食支援マイスターの育成が準備されています。
 食支援サポーターは、食や食支援に興味をもつ人なら誰でもなれ、新食研が設定する10講座のうち2講座を修了することが条件です。基本的には、新食研が設ける「サポーター養成講座」に参加するか、今後、新宿区内の医療・介護・福祉関係の事業所や、市民活動の場で開催される「出前サポーター養成講座」に参加、修了すれば認定されます。
 食支援リーダーは医療・介護・福祉関係のいずれかの専門職で、新食研が設ける10講座を修了し、地域で食支援を実践する役割を担います。1日講習の機会と、出前講座が準備されています。
 食支援マイスターは食形態のこと、口腔ケアのこと、食姿勢のことなど、何か1つ地域でサポーター、リーダー育成の講義を提供できる人で、当面は新食研メンバーの食支援スペシャリストがこれに当たるとのことです。
 なお、新食研が月例開催している勉強会参加がサポーター及びリーダー養成講座修了とみなされる場合もあり、新食研のホームヘルパーWGが開催している「ヘルパー研修」参加がサポーター及びリーダー養成講座修了とみなされるケースもある、とのこと。食支援の広がりをめざし、フレキシブルに学べる体制で、多くのサポーター、リーダーが誕生するよう準備がなされています。
 新たな制度のスタートは、11月度の勉強会が「第1回食支援サポーター養成講座」として開催され、受講した72名が食支援サポーターとなり、修了の証のリング(写真)を手にしました(講師3名も含め、計75名の食支援サポーターが誕生)。

 講座は、新食研の活動とマイスター制度のあらましを解説する概論と、JCHO東京新宿メディカルセンター・医師の溝尾朗先生による「医療編」講義、五島先生による「歯科編」講義の構成でした。

 溝尾先生の講義は、
  • ・ 在宅療養に関わる疾患とその予後予測
  • ・ 介護に至る原因の基礎知識

を主として、根拠に基づいて食支援の必要性について理解を深める内容でした。
「フレイル」や「ユマニチュード」など、比較的新しい専門用語を平易に、他の症状や病気、医療とケアの連携に関連づけた解説もありました。
 また、誤嚥性肺炎について正しく理解し、現場で患者(利用者)の異常を見つけるポイントや多職種との連携がスムーズになる連絡・報告の術、緊急時の対応などにも及びました。

 五島先生の講義は、
  • ・ 口から食べることの大切さ
  • ・ 「咀嚼」と「嚥下」障害の違い、ケアの違い

を主として、人の生理的機能から「口から食べる意味」を見直し、患者(利用者)ごと、障害の状態ごとの食支援を見極める必要、食支援の多様性、意義を考えさせる内容でした。
 また、ヘルパー並びにケアマネジャーの調査で上がった「むせる」「飲み込めない」「口に溜まる」という食事時の問題点別に、食形態を判定する具体策として先述の食形態判定表とピラミッドモデルも紹介されました。

 両講座共、受講者の医療・歯科医療・介護に携わる専門職の食支援実践のベースとして、翌日からすぐに仕事に役立つ内容で構成されていました。
 なお、リーダー養成講座は「概論」「医療編」「歯科編」のほか看護師、歯科衛生士、管理栄養士、福祉用具専門相談員、言語聴覚士や理学療法士などセラピスト、介護職、相談援助職達による全10講座を受けることになりますが、サポーター養成講座は「概論」「医療編」「歯科編」に限らず、概論+いずれか2講座の受講となるとのことです。
 次回の講座開催などについては、新食研のウェブサイトに告知が掲載される他、地域内で広報活動が展開されます。

 新食研のマイスター制度はマイスターWGが運営するものの、他のWGが広報やツールづくり、市民活動とのコラボレーションのコーディネート、ケア技能・技術開発、専門職研修などを行って、事業展開を支える制度です。17のWGの活動がベースにあってこその事業で、単に食支援に関する講座が開かれる、受講者がサポーターに認定される、というのではありません。
 これまで新食研が6年の活動で育んできた「人・ネットワーク・食支援力」の幹から多方向へ食支援の枝を広げていく“街づくり”は、新食研誕生の際から変わらない、ブレない理念。かつて五島先生は「食支援にホームランはない」という言葉で地道な取り組みの積み重ねの大切さを話してくださいましたが、その言葉通り、蓄積が新しい取り組みを誕生させたということです。
 そのため一朝一夕に成ることではないと思いますが、全国に同様の取り組みが広がることを期待します。「第1回食支援サポーター養成講座」に同席して目にしたのは、多くの専門職が「食べることを支える必要がある!」という熱を発し、真剣に、嬉々として学ぶ姿でした。この熱が新宿に留まらず、全国の同じ思いの専門職へ伝わることを願います。
 我が職域・地域でも食支援力を上げたい、多職種の連携を強めたいなど、「食べることを支える必要がある!」との思いを抱く専門職の方は、月例勉強会の機会に新食研方式を体験されてはいかがでしょうか。懐が広く、熱い五島先生や新食研メンバーと交流から学び得るものは、ご自身の職域・地域での食支援に必ず役立つものと思います。

 次回は、さいたま赤十字病院の「退院後、自宅に帰った摂食嚥下障害患者の食を中心とした環境について追跡調査」を担当した言語聴覚士・安西利恵さん、管理栄養士・井原佐知子さん、摂食嚥下障害看護認定看護師・矢野聡子さんにうかがったお話を掲載予定です。