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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第50回 2年目のはじまりに
「食べる」に向き合う人の広がりを願う(後編)

医療や介護の職にあり、摂食嚥下障害&ケアについて知りたい方、
これから「食べる」を支える勉強・仕事をしたい方へ

 食べることを支える取り組みの中で「摂食嚥下障害」について情報や学びの機会は増えているようです。また、病気や障害にある人の栄養管理の意義が見直され、NSTを導入する病院は全国で約1600か所となり、施設等でも個別栄養ケアを重要視するケースが増えました。「栄養アセスメント&ケア」についても情報や学びの機会は多く、求める声はより高まっているようです。
 そして医療や介護に携わる人がそれらの学びや実務経験から、食べることを支えるというのは機能障害のケア、また、栄養管理だけの問題ではないことを認識し、より深い学びと多職種との連携、他業種とのコミュニケーションの必要性を実感することが少なくないと聞いています。

 そんな中、先駆的に食べることを支える取り組みを行なってきて、情報や学びの機会を提供している人々を取材して、いくつか共通の特長があることに気がつきました。
 一つは、当然のことながら専門職能が高く、さらに工夫や学びを重ね、ケア技術を磨いていること。知識や技術の更新にどん欲で、チャレンジを続け、どんどん現場に還元していく姿勢です。自分に厳しく、言葉はそれぞれですが「自尊心・慢心は患者(利用者)さんの役に立たない」などと言い、患者をよく診て、生命力や治癒力を讃える。謙虚さに頭が下がります。自分より年齢が下の人でも立派だな、素敵だなと思う人が多いので、私はこの取材がとても楽しみになっているのです。
 こう書くと、これからの人に敷居を上げてしまう恐れがあるので蛇足ながら書き添えれば、皆さん明るく元気で、個人として趣味の活動や友人との交際、家事、育児、介護、地域活動も活発に、楽しんでいる一般の“生活者”でもあります。取材では余談も多いので、それを感じます。いろんな人がいて、食支援の先駆者だからそうということではないけれど、自分自身の日常生活を大切にしている人だから、患者や利用者、家族の暮らしに目を向け、病気や障害ではなく人を診て、プロのケアをしているのではないかと感じます。
 また同職種、他職種に関わらず人脈が豊富で、つながっている人も同様に専門性が高く、切磋琢磨を続けている人だということも特長です。積極的な学びやチャレンジの中で生まれた交流は、日常の仕事では関わることがない遠方の人とも多く、協働するとは限らないようですが、それぞれが、それぞれの仕事に向き合う中で不可欠な関係が築かれているようです。学会やワーキンググループ、SNSなどを利用して、情報交換が活発です。
 このような学びの場や交流は必ずしも全ての職業にあるわけではないでしょう。少なくとも、私の仕事ではありません。ちょっとうらやましくもあります。部外者ながら参加して、私なら自分の仕事を壊し・立て直すためにこういった機会を利用したい、などと感じることがあります。
 一方、食支援に関わる学びの場は増えたものの、具体的な取り組みをしている人ほど、求める情報や意見を交える場がまだ少ないということもあるようなので、今後はそうしたことにも対応している例を取材していきたいと考えています。
 そして、健康づくりや介護予防の段階、病気の予後での食の支援を重く見て、地域における啓発やケアを重視していることも特長です。つまり広い意味での「在宅」での食の支援と、多職種連携の仕組みづくりに手を打っています。
 さらに食の支援が広がるために、食べることを支える取り組みが生み出す医学的効果や経済的効果を具体的に開示し、医療・介護関係者へ周知することにも積極的。その一方で、食の支援が、人が「幸せに生きること」を支えるものだという極めてヒューマンな感覚を失っていません。実利的なものだけにとらわれず、後進育成に努めているのも特長だと感じています。

 これから食を支える取り組みに関わる可能性がある方には、そのような先駆者に続いて、情熱をもち続け、行動し続けていただきたいと願います。職場や、場合によっては職域の枠を超えた学びや人脈をもつことで、働く人自身が豊かになり、それぞれが、それぞれの地域で患者や利用者、家族に向き合い続けることは、社会の希望ではないでしょうか。今後ともそのような取り組みを取材し続けたいです。
 なお、「食べられない」ということは患者や家族には分かりにくい事態です。食事は毎日のことで、なんとなく食べられる範囲で済ませてしまうようになり、栄養不良等を起こすまで気づきづらいのです。取材を通じて、軽度の摂食嚥下障害のときにケアを受け、食生活を見直すことができると、患者や家族のその後の生活の質が大きく変わる可能性を感じています。
 そこで食べることに関わらない医療職にある方にも早期に障害に気づく目をもち、ケアにつなげていただけることが望まれます。医療・介護の職にあり、食支援の大切さに気づいた方から、食べることに関わらない医療職にある方に「食事がちゃんととれているか」を診る意義を今後より一層伝えていただきたいと願います。

想定読者推奨回準推奨回
「食べる」が難しくなってきたと感じている人、またその家族323741353942
入院中の人、またその家族(介護に関わる人)313340373944
在宅で闘病中の人、またその家族(介護に関わる人)333941384448
家庭介護を受けている人、またその家族(介護に関わる人)363839334244
4648
自分や家族に、加齢によって起こりやすいことを知りたい人353742324143
45
医療や介護の職にあり、摂食嚥下障害&ケアについて知りたい人3134454748333637
404344
46
これから「食べる」を支える勉強・仕事をしたい人3134434647323538
404548

 次回から2回に亘り、藤田保健衛生大学が入院患者の治癒力を高める目的で開発した食事提供システム「藤田食」についてご紹介します。