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村田くみの「シングル介護のホントのところ」 2010年06月

母の介護 2年間を振り返って~最終回

 介護が始まってから早くも2年が過ぎました。「まだ2年」と思われる方もいらっしゃると思います。“パラサイトシングル”という言葉がぴったり当てはまるように、両親に依存して生きてきた私にとって、人生が180度変わった出来事でした。
 母には昨年からケアハウスに入ってもらったので、介護のゴールも見えてきたと思い込んでいましたが、まったくの見当違いでした。母との口ゲンカが絶えなくなり、イライラしてしまう日が続き、不眠から「介護うつ」の現実も思い知りました。
 介護者になって感じたことは、負担を減らして少しでも楽しく暮らすために、情報を得る努力が必要だと思いました。
 私の場合、インターネットをよく活用しました。例えば自分の具合が悪い時、人と話をするのもおっくうになり、「どこに相談したらいいのか」、問い合わせ先を確認する際にネットがとても役に立ちました。
 金銭的な面では「世帯分離」を早い段階から知ったため、本当に助かりました。
 このコラムは同じ立場の皆さんに少しでも役に立つ情報を提供したいという気持ちでスタートしました。一方で、皆さんからの書き込んで下さった情報は、大変参考になりました。コラムをスタートした後に、“母との口ゲンカ”が始まってしまったため、途中で挫折しそうになった時もありましたが、書き込みのメッセージに救われたこともありました。この場をお借りして、お礼を申し上げます。
 コラムは今週で終了しますが、現在は介護の問題に限らず、「老後の住まい」や地域の福祉について取材を進めています。
 医療介護コラム「おひとりさま介護の部屋」を始めましたので遊びにきてください。

一年間ご愛読ありがとうございました。

村田さんの本ができました!
アラフォーおひとりさま週刊誌記者を突然襲った母親の介護……。切実な実体験+介護施設の選び方、仕事との両立方法など介護情報満載。
おひとりさま介護』河出書房新社
定価1,575円(本体1,500円)ISBN 978-4-309-01989-5
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ボランティアで交流の輪を

 最近、母のもとを訪ねると、気持ちが悪いくらい機嫌が良いので、「どうしたことか」と首をかしげています。ほんの少し前まではグチばかりこぼしていたのですが……。
 新年度になって、施設にはたくさんのボランティアの方や、研修と称して企業や中央省庁の公務員が訪れるようになりました。先日は、ある中央省庁の公務員の方が話し相手になってくれたと、喜んでいました。
「新入社員は仕事に慣れるまで大変ね」
 孫と話している気分のようです。
 また、ボランティアの方は、アロマテラピーのオイルを用いて、肩や首、腕などを丁寧にマッサージしてくれました。
 日常生活でないと困るほどではないけれど、アメやビスケットなど、ちょっとしたお菓子がほしいと思った時も、お金を渡せばボランティアさんがコンビニまで代わりに買い物に行ってくれる制度もできました。
 「本当にありがたいわね」
 三度の食事と、おやつの時間以外、ほとんど自室で過ごしている母にとって、生活に変化が出てきたことは、気持ち的に少しプラスになりました。
 一方のボランティアも、おいしい思いを受けられる“一石二鳥”な取り組みが、各自治体で広がっています。
 東京都稲城市では2008年から「稲城市介護支援ボランティア制度」がスタート。
 ボランティアに登録して、活動が終わったら、スタンプを押してもらいます。スタンプは、年間上限5000円まで現金化されます。有償にするとボランティアの意味がなくなるという意見もありますが、市民への参加を呼びけるのには効果的だと思いました。
 1000ポイント以上たまったら、地元のサッカーチーム「東京ヴェルディ」のチケットが数名もらえるプレゼントもありました。サッカー選手とサッカーファン、地元で介護にたずさわる人たちの、交流できる場ができたことは、とても素晴らしいと思いました。


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口撃から一歩前進

 私の母がケアハウスに入所してから、早くも1年が過ぎました。私も自分の時間が増えることで仕事にも打ち込める。介護のゴールが見えてきたと思っていましたが、実際はそう甘くありませんでした。
 個室が割れ充てられるとはいえ、一日三食と、おやつの時間には、フロアーごとに設けられているダイニングで食事を取ります。また、入所者同士でのリクレーションも不定期にありますが、母は集団生活に慣れていないため、私が予想していた以上にストレスを感じていたようです。私と顔を合わせると、「ひとりに放っておいてくれればいいのに」などと、出てくるのは「グチ」しかありません。
 このご時世、施設に入所することは本当に困難です。申し込みから半年程度で、しかも施設は開設したばかりで素晴らしい設備が整い、私自身はこの上ない環境だと思っているので「わがままばかり言って」と、口論が絶えない日々が続きました。
 1年経ってもその時の気分によって、グチは相変わらずです。でも、私が1年経ってようやく慣れてきたのか、軽く受け流すようになったのは、介護者として一歩前進したことなのでしょうか。
 女優の小山明子さんと、野坂暘子さんの共著『笑顔の介護力』(かまくら春秋社)を読んだ時、小山さんの対応力に思わず「なるほど」と関心しました。長年ご主人の大島渚監督の介護に従事。大島監督が「死にたい」とこぼすと、「大好きなビールも飲めなくなるわよ」と切り返すと、監督は冷静さを取り戻したそうです。私はグチをこぼされるとすぐに頭に血が上って、必要以上の口(こう)撃を繰り返していました。それで、口撃の応酬でした。今はグチを聞いたとしても真に受けない、その対応力の効果があったのか、母も以前のようにひどいヒステリーは起こさなくなりました。私も一進一退でも少しずつ進んでいると思えるようになりました。

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バリアフリーの良し悪し

 介護施設の見学に行くと、思わぬ発見があります。例えば、バリアフリー化の際、手すりをつけますが、種類によって“凶器”になることもあったのです。
 ある施設におじゃました時、その施設には手すりが一つもありませんでした。その代わり、厚さ1センチ強の板状のものが付けられていました。(写真参照)

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 施設には様々な容体の方がいます。杖をつきながら歩ける人。車椅子でなければ移動ができない人。一般的な手すりは車椅子の人がぶつかった時、肩や腕のあたりを打撲してしまうのだそうです。後にバリアフリー化をした狭いエレベーター内などは、ぶつかる確率が高くなってしまいます。
 その話をうかがい、体調によって必要な物も、必要でなくなってくる、「介護」と言えどもひとくくりにはできないと思いました。
 高齢者住宅などは、火事を防ぐために台所のガス台をIHの調理器に交換する場合があります。ところが、少し認知症が進んだある女性が「ガス台がなくなった」と勘違いをしてしまい、台所に立たなくなってしまった話もありました。
 トイレも人によって使い勝手が違ってきます。要介護4の女性は冬場、体調が優れず、自室から出て来れない日が続きました。
 自室内にあるトイレの戸がいつも開けっ放し。なぜいつも開いているのか、スタッフがたずねると、「自分でトイレに行く時、戸が開いていたほうが便利だから」。郊外の介護付き有料老人ホームで居室を覗くと、おむつ交換など介助する時に便利との理由で、居室内のトイレはカーテンで仕切られていました。
 思わず「へぇー」と声を挙げたのは、別の有料老人ホームでは、トイレに手すりではなく、棒状のものが天井まで伸びていました。(写真参照)
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 「このほうが使い勝手がいい」、と言われ、私もさっそくチャレンジしましたが、かがむ時に頭がぶつかってしまい、あまり上手に使えませんでした。介護を受ける側の視点に立つと、便利だと思っていた物が、意外と不便だったりするのです。



ワーカーズ・コレクティブ

 最近は「老後の住まい」について取材をすることが多く、首都圏を中心に高齢者施設を訪ねる機会が増えました。
 そこでは、「ワーカーズ・コレクティブ」という働き方が、導入されている施設が増えて、施設と地域とを結びつける接着剤の役割を果たしていることを発見しました。
 「ワーカーズ・コレクティブ」とは地域に暮らす人たちが、生活者の視点から地域に必要な「もの」や「サービス」を市民事業として事業化し、自分たちで出資し、経営し、労働を担う新しい働き方の組織をいいます。
 介護の仕事を複数の働き手で分散し、現場を運営しているのです。施設側がワーカーズに業務委託し、ワーカーズに登録された働き手が介護施設に派遣されるシステムが一般です。しかし、通常の派遣とは違い、勤務地は1か所で、勤務時間は1日2時間程度から最大8時間まで。ヘルパー2級の資格を持っていても、家庭の事情で夜勤が伴う正社員やフルタイムでは働けないという、子育て中の女性や60代のシニア世代が、自分の都合に見合った勤務時間を選べるというメリットがあります。施設側も人員削減しなくても人件費抑制につながり、2人程度の入居者に対して1人のヘルパーが対応することも可能になっています。
 施設は入居者の家族と関係者ぐらいしか立ち入ることはないため、地域から孤立してしまいがちです。地域の住民に働き口を提供すれば、これまで介護とは結びつかない世代の人も、気軽に足を運べるようになります。
 一方で、介護の質が下がるのではないかといった懸念の声も上がっています。働く時に資格がなくても、取得目標が条件になっていたり、職種に応じてのレベルアップを図れるので、懸念の声を払拭できるのではないでしょうか。また、ワーカーズの働き方が定着すると、介護職がパート化すると不安視する声もあります。今、介護の現場は慢性的な人手不足ですが、財政面を考えると、人手不足を緊急に解消できるベストな方法だと思います。

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プロフィール
村田くみ
(むらた くみ)
1969年東京生まれ。会社員を経て1995年毎日新聞社入社、週刊誌「サンデー毎日」所属。主に経済、環境、介護の問題に携わる。現在、母親の介護に従事しながら、介護の体験記、介護者に役立つ情報を適宜発信中。
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