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介護漫画家・國廣幸亜は見た! 愉快な利用者と家族たち

最後の言葉

おじいちゃんが亡くなりました。

「マザー」の回でお話した気に入らないヘルパーがいれば杖を振り回し、厳しい言葉で追い出すおじいちゃんです。

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私が最後に会ったのは年も押し迫った12月の末でした。
おじいちゃんはいつもと全く変わらず部屋に入った時から不機嫌で、お気に入りのヘルパーAさんが来なかったことに納得がいかず毒舌が冴え渡っていました。
それは毎回のことで、機嫌が悪いおじいちゃんをなだめすかしてオムツを替え、洗濯をし、買い物をし…そうやって先輩から4年間ずっと訪問し続けてきたおじいちゃんです。
私もいつも通り何を言われてもはい、はい。と聞き流すはずが…その日は何故かおじいちゃんの言葉がいちいち心にささり、おまけに一緒に行った先輩に杖を突きつけて脅しのような事を言ったので…私もぷちんときてしまいました。

おじ「もうええ!ケアマネに言ってなあ、お前なんかクビにしてもらうわ!」
クニ「……わかりました。じゃあ言っておいてください」

manga110118.jpg

しーん。
私があまりに冷静に言ったのでおじいちゃんも目を丸くして一瞬二人の間の空気が止まりました。
やってしまった…。
こちらも人間だから本音が出てしまう事はあります。
でももっと温かみのある言い方をするべきでした。
反省しても後のまつり…。
その後もおじいちゃんの機嫌は直らずなんとかかんとかやる事をやって退室する時

おじ「お前はもうこんでいいからな!…またな!」

おじいちゃん…言うことが矛盾してますけど。

クニ「じゃあね。また来ます!」

思いがけず笑わされて笑顔で挨拶をして部屋を出ました。

先輩「そういう日もあるよ〜私なんかも我慢できない時はつい本音が出ちゃうよ」

一緒に行った先輩が励ましてくれました。

クニ「本当に大人げなくてすいません…次行った時は笑顔で聞き流します!」

おじいちゃんの家には毎日交替でヘルパーが入っており私もしょっちゅう訪問しています。
だからまた次の時に反省して優しくしてあげよう、私はそう思っていたのでした。

しかし…

予想に反して年内はシフトがおじいちゃんの家以外で組まれており、私はなかなかおじいちゃんの家に行けませんでした。

そうしているうちに大晦日前日に先輩が訪問したらおじいちゃんの意識が時々無くなったりして様子がおかしい、と聞きました。
大丈夫かな…でも夏も一度おじいちゃんは危ない状態になったけど驚異の生命力で秋にはすっかり元気になっていた。
だからまた元気になってくれるだろう。
そう思っていたのです。

そして年が明けて3日。
おじいちゃんの天敵ともいえる先輩ヘルパーBさんが訪問することになりました。
おじいちゃんは以前そのヘルパーさんに自分が倒れてるところを助けてもらい、それ以来弱みをみられたのが嫌だったのかB先輩のやることなすことに文句をつけて、「お前を山に捨てて熊に食わせてやる!」とまで言い放ったことがあるほど敵視しているのです。
でも、先輩が部屋に入るとそこにはおだやかな顔をしたおじいちゃんがいました。
いつもの敵意むきだしの表情とは正反対の顔です。
先輩が近寄ってもオムツを替えても

おじ「ありがとう」

ととても素直です。いつもならそこらにあるものを投げようとかまえているのに…
プリンを差し出すと

おじ「おしいしい」

と喜んで食べたそうです。
前日まではいつも通り何をしても怒っていたのに明らかに様子が違います。
そしてずっと

おじ「さみしい…さみしい…」

と先輩たちが部屋を出るまで言っていたそうです。

先輩「顔が仏様みたいに穏やかで…もしかしたら危ないのかも」

そう心配していました。
そしてその心配はすぐに本当のものになりました。

翌4日。
C先輩が訪問するといつもよりさらに小さくなったおじいちゃんが布団にうもれて丸くなっていました。
手を触ると固くて冷たい。
ああ、遂に…。先輩はすぐ各所に連絡し警察が家にやってきました。

身寄りのなかったおじいちゃん。
ハワイに母親と息子たちがいるといつも言っていましたが本当は大阪にお姉さんが一人。音信不通だったようで私たちも知りませんでした。
しかしお姉さんも高齢で引き取りができないとのことでおじいちゃんの亡がらは大学病院へ運ばれることになりました。

おじいちゃんは80歳でした。
私は結局、もう二度と優しくしてあげることはできないまま、お別れをすることになりました。

この仕事をしているとこういうお別れは度々経験します。
でもそのたびに思うことがあります。

助産婦さんや保育園の先生が人の一生の最初に関わる仕事ならば、介護はその人の人生の最後、まさにエンディングに関わる仕事なんだなあと。

赤の他人の私が80年とか90年とか長い長い人生を生きてきた人の最後に少しだけ登場する。

そう思うとこの仕事の不思議さと難しさと奥深さを身体の芯で感じるのです。
そしてそれが大きな魅力だとも思うのです。

ああすればよかった、こうすればよかった、思うことはたくさんありますがあれが今の私の精一杯、実力だったのでしょう。
後悔しても仕方ないしそれは言い訳のような気がしました。
私が出来る事はこの気持ちを忘れないことだとおじいちゃんが教えてくれたような気がしました。

いつもヘルパーに当たりちらしていたおじいちゃん。
すぐに作り話をして威張っていたおじいちゃん。
動物が大好きだったおじいちゃん。
お気に入りのヘルパーにだけいじらしいくらい従順だったおじいちゃん。
普通の人ができないような奇想天外な発想でいつも笑わせてくれたおじいちゃん。

おじいちゃんは最後に言ってくれました。

『またな!』

そんなおじいちゃんのちょっと不満気なくしゃっとした笑顔が鮮明に私の心の中に蘇ってきました。


コメント


・・思わず泣いてしまいました。
会った事のないおじいちゃんだったけれど、國廣さんのブログにたびたび登場していたので親近感を覚えていました。「さみしい…さみしい…」という言葉が心に突き刺さります。

最後に言い合ってしまったのは残念だけど、『またな!』の言葉で救われましたね。人間、いつ何があるか分からないので、後悔しないように日々一生懸命生きようと思いました。

私にも88歳の祖父母が居ます。遠くに住んでいるのでなかなか会いに行けないけれど、マメに電話したり定期的にひ孫の写真を送ったりしています。でも、今回のブログを読んで『会いたくても会えなくなるかもしれない!』と思い、田舎の祖父母に早く会いに行こうと思いました。

『介護はその人の人生の最後、まさにエンディングに関わる仕事』まさにその通りだと思います。素敵な仕事だと思います。私も頑張ってヘルパーさんの資格をとりたいと思います!


投稿者: なっち~♪ | 2011年01月20日 22:29

なっち〜♪さま

このおじいちゃんのことに関しては私を含め先輩のヘルパーさんも深く感じるものがありました。
大切なことを教えてもらったと思っています。
なっち〜♪さんはおじいさまおばあさまにとても優しく接していらっしゃるんですね。
家族のいない、いても連絡すら取れないという利用者さんをたくさん見ているのでおじいさまおばあさまはなっち〜♪さんがしてくれる事にどんなに喜ばれているだろうと思いました。


投稿者: くにひろ | 2011年02月06日 06:44

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
國廣幸亜
(くにひろ ゆきえ)
1976年5月9日大分県生まれ、愛知県育ち、現在は九州女子。
幼少の頃より漫画家を志す。
1995年上京。会社員をしながら相変わらず漫画家を志し投稿の日々。
1998年講談社 BE・LOVE誌上にて「ささら」でデビュー。
現在ホームヘルパー、介護福祉士などに従事しながら創作活動を続ける。漫画『介護のオシゴト』で介護の世界をユーモアに描く。
著書に『介護のオシゴト』1・2巻『ユキ先生お元気ですか!?』『42.19GO!!~運痴女のフルマラソン挑戦記~』(以上秋田書店刊)、『晴太郎日記~いっしょに歩こう~』(講談社刊)がある。
國廣幸亜の公式ホームページ http://www.geocities.jp/ mitsutamahouse/
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