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張先生の受験対策講座

張 百々代(はり ももよ)

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。

プロフィール張 百々代(はり ももよ)

精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。

第4回 精神保健の課題と支援

 皆さんこんにちは。新年度を迎え早くも1か月が過ぎましたね。毎日忙しい日々を送っておられるのではないでしょうか。なかなか学習には手がつけられないという方も多いかと思います。本試験まで9か月あまりありますが、長いようで、あっというまに過ぎてしまいます。毎日少しずつでも学習する習慣を身につけましょう。

 今回は、「精神保健の課題と支援」を取り上げていきたいと思います。現代社会は多くの精神保健福祉の課題が山積しています。この科目は、精神保健に関する社会生活のあらゆる分野の課題を対象とするため、範囲が広く対応に苦慮するかもしれませんが、近年の出題傾向をみると、常識の範囲内で解答を導き出せるものが多くみられます。出題範囲を着実に学習し、基本的な知識をしっかりと身につけておけば合格圏の得点は十分可能です。
 社会生活の報道などにアンテナをはりめぐらせて、精神保健に関する情報に気をつけておくとよいでしょう。
 では最初に、前回の課題の解説をしておきたいと思います。

第20回 精神保健福祉士国家試験 「精神疾患とその治療」

問題4 患者の訴えと精神症状に関する次の記述のうち、正しいもの2つ選びなさい。

  • 1 「ある時点から後のことを思い出せない」との訴えは、前向健忘である。
  • 2 「壁に掛けた着物が人間に見える」との訴えは、幻覚である。
  • 3 「頭の中に他人の考えを吹き込まれる」との訴えは、考想伝播である。
  • 4 「不合理とは考えるが、否定すると不安になる」との訴えは、強迫観念である。
  • 5 「人前では手が震えて字が書けなくなる」との訴えは、精神運動制止である。

正答 1、4

解答解説

  • 1 正しい。健忘とは記憶障害のことで、前向性健忘と逆向性健忘がある。前向性健忘は、意識障害以降の、新しい経験や情報を記憶できなくなる健忘で、何らかの理由で脳に損傷を受けた場合、それ以降の新しい体験が記憶中枢に組み込まれないために起こる記憶障害である。逆向性健忘は、意識障害以前に学習した記憶や情報が想起できない健忘のことで、交通事故に遭って脳損傷などを起こした場合、事故以前の記憶が抜け落ちてしまうといった記憶障害である。
  • 2 誤り。壁に掛けた着物が人間に見えるという訴えは、幻覚ではなく、錯覚である。錯覚は、現実に存在するものを、誤って、異なるものとして知覚することである。幻覚とは、実在しない対象を存在するかのように知覚することで、幻視、幻聴、幻味、幻嗅、幻触、体感幻覚、思考化声等がある。
  • 3 誤り。頭の中に他人の考えが吹き込まれるという訴えは、思考吹入である。思考伝播とは、自分の考えが他人に直接知られていると感じることである。思考吹入、思考伝播とも、自分自身の考えや行動が自分自身のものであるという能動性が失われる、自我意識障害による症状で、このほか、思考奪取、作為体験(させられ体験)、離人感等があり、これらの自我意識障害は、統合失調症で多くみられる。
  • 4 正しい。強迫観念は、それが無意味で合理的ではないとわかっているのに、反復して生じる考えのことで、細菌が手についていると思い込んだり、家の鍵を閉めたかどうかが心配でしかたがなくなったりすることである。この強迫観念が行動となったのが強迫行為で、細菌が手についていると思い込み、長時間手を洗い続けることをやめられないようなことである。
  • 5 誤り。人前では手が震えて字が書けなくなるというのは、書痙といい、社交不安障害の一種である。社交不安障害は社交恐怖ともいい、人の前や他人がいる場面で、過剰に緊張し、激しい動悸が起こったり緊張して声が震える等の、対人恐怖、発汗恐怖、場面恐怖、赤面恐怖、書痙等がある。精神運動制止とは、精神活動が停滞してしまうことで、話し方や動作が遅くなってしまう症状を呈し、うつ病でみられる。

 いかがでしたか。では、今回の「精神保健の課題と支援」に入っていきましょう。過去の出題の傾向を分析しながら、出題率の高い分野を中心に取り上げて、対策を立てていきたいと思います。

精神の健康と、精神の健康に関連する要因及び精神保健の概要

 「社会構造の変化の新しい健康観」の分野からは、「健康の定義」として、第20回でICFの概念についての出題がありました。心身機能、身体構造、活動、参加、環境因子、個人因子のそれぞれの意味を理解しておくとよいでしょう。このほか、アルマ・アタ宣言のプライマリ・ヘルスケアやオタワ憲章のヘルスプロモーションの概念、公衆衛生の定義、WHOのメンタルヘルスアクションプラン2013-2020のメンタルヘルスの定義等が出題されていますので気をつけておきましょう。

 「ライフサイクルと精神の健康」の分野からは、「発達課題」として、注意欠陥多動性障害、エリクソンの発達理論、ピアジェの発生的認識論、ゲゼルの成熟優位説、ボウルビィの愛着(アタッチメント)理論等が出題されています。共通科目の「心理学理論と心理的支援」と重なる内容ですから、並行して学習しておくとよいでしょう。

 「生活習慣と精神の健康」の分野からは、第15回で日本の平均睡眠時間が出題されて以降は、出題実績はありません。データ関連の出題対策としては、細かいデータを覚えるというより、日ごろからの報道内容に注意している程度で十分対応できるでしょう。

 「ストレスと精神の健康」では、燃え尽き症候群(バーンアウト)の出題実績があります。ストレスとコーピング、急性ストレス障害、外傷後ストレス障害等についても学習しておきましょう。

 「自殺予防」の分野では、自殺の実態、自殺総合対策大綱等が出題されています。自殺対策基本法、自殺予防などとともに、自殺の実態等を把握しておきましょう。自殺の実態は、内閣府による「自殺対策白書」で確認することができます。

 また、2016(平成28)年4月から改正自殺対策基本法が施行され、従来の「自殺予防総合対策センター」が「自殺総合対策推進センター」に改組され、関係者が連携して自殺対策の PDCA サイクルに取り組むためのエビデンスの提供、民間団体を含めた地域の自殺対策を支援することになりました。また、都道府県、市町村ともに、自殺対策計画の策定が義務づけられました。

 2017(平成29)年7月には、新たな「自殺対策大綱~誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指して~」が閣議決定され、地域レベルの実践的な取り組みのさらなる推進、若者の自殺対策、勤務問題による自殺対策のさらなる推進、自殺死亡率を先進諸国の現在の水準まで減少することを目指し、平成38年までに、平成27年に比べて30%以上減少させることを目標とすることを掲げています

 「精神保健活動の三つの対象」の分野では、第20回で積極的精神保健活動が出題されました。この分野からは初出問題でしたので、支持的精神保健活動、総合的精神保健活動も含めてよく学習しておくとよいでしょう。

精神保健の視点から見た家族の課題とアプローチ

 この分野からは、家族の課題として、ドメスティック・バイオレンス、マタニティブルーズと産後うつ、子育て不安と児童虐待等が、繰り返し出題されています。介護負担と高齢者虐待、ひきこもり、がん患者支援、グリーフケア等も含めてよく学習しておきましょう。

 またこれらの諸課題を支援する機関として、要保護児童対策地域協議会、配偶者暴力相談支援センター、ひきこもり地域支援センター、地域包括支援センター、児童家庭支援センター、発達障害者支援センター等の関連機関が出題されています。それぞれの機関の法的位置づけと役割を把握しておきましょう。

精神保健の視点から見た学校教育の課題とアプローチ

 「現代日本の学校教育と生徒児童の特徴」の分野からは、第20回でいじめ防止対策推進法が出題されています。いじめや不登校、校内暴力、自殺、非行等について、文部科学省が実施している「児童生徒の問題行動等指導上の諸問題に関する調査」の結果等を、文部科学省のホームページで確認しておきましょう。また、いじめや不登校については、それぞれの定義も正確に理解しておきましょう。今回は後ほど、いじめ防止対策推進法について取り上げていきたいと思います。

 「教員の精神保健」の分野では、教師のバーンアウトや精神疾患による休職の実態、学校保健安全法等も出題範囲になっています。「関与する専門職と関係法規」の分野は、学校保健安全法に目を通しておくとよいでしょう。

 いじめや不登校、貧困などが複雑に絡み合っている、学校現場における児童の諸課題に対して、スクールソーシャルワーカーの役割の重要性が増してきていますので、スクールソーシャルワーカー活用事業実施要領(平成25 年4 月1 日付:初等中等教育局長決定:平成29年一部改正)等にも目を通して、スクールソーシャルワーカーの位置づけ、役割等について、具体的な事例問題にも対応ができるようにしておきましょう。

精神保健の視点から見た勤労者の課題とアプローチ

 この分野は極めて出題率が高く、第20回では労働者の精神保健の現状、職場のメンタルヘルスの2問が出題されています。労働安全衛生法やストレスチェック制度、過労死等防止対策推進法、労働者の職場復帰支援としてのリワークプログラム、男女雇用機会均等法等の関連法規の内容を、よく理解しておきましょう。

 非正規職員の増加と正規職員の過重労働、また、職場におけるうつ病の増加や過労死など、長期休業や自殺との関連において、職場でのメンタルヘルス対策が急務となっていますので、今後も出題の可能性は高いと思われます。

 「心理的負荷による精神障害の認定基準(精神障害者の労災認定基準)」「事業場における労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)」「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」等にも目を通しておきましょう。

精神保健の視点から見た現代社会の課題とアプローチ

 災害関係では、災害対策基本法における施策と、被災者の精神的な外傷への対応を押さえておきましょう。
 犯罪被害者への支援については、犯罪被害者等基本法等の被害者への支援体制施策をよく理解しておきましょう。「犯罪被害者に対する急性期心理社会支援ガイドライン」にも目を通しておくとよいでしょう。

 現代社会の課題としてのニートや貧困問題、フリーター、ホームレスの実態については、全国調査の結果等を確認しておきましょう。また、ホームレス自立支援法におけるホームレスの定義やホームレス対策、ホームレスの実態についても理解しておきましょう。

 性同一性障害については、それほど出題率が高い分野ではありませんので、「性同一性障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律」「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」に目を通しておく程度でよいでしょう。

精神保健に関する対策と精神保健福祉士の役割

 アルコール対策は、頻出分野です。アルコール患者の実態と特徴、うつ病や自殺との関連、WHO(世界保健機構)によるアルコール対策、健康日本21(第2次)などのわが国のアルコール施策について学習しておきましょう。
 アルコール健康障害対策基本法における、アルコール健康障害の定義や基本計画策定等についての規定を整理しておきましょう。

 薬物依存対策としては、第四次薬物乱用防止5か年戦略の要点やダルク等の薬物依存症当事者活動について、理解を深めておきましょう。認知症高齢者施策については、制度的な面として、認知症疾患医療センター、認知症地域支援推進員、認知症サポーターキャラバン、認知症サポート医、認知症地域支援施策推進事業等について整理しておくとよいでしょう。

 ひきこもり対策としては、「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」が厚生労働省から出されています。ひきこもりの定義や実態、地域若者サポートステーション等についても整理しておきましょう。

 精神保健福祉士の役割として、第20回では、依存症対策における精神保健福祉士の支援のあり方が出題されています。依存症患者の特質の理解と、ソーシャルワーカーの視点に立った支援のあり方を習得しておきましょう。