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張先生の受験対策講座

張 百々代(はり ももよ)

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。

プロフィール張 百々代(はり ももよ)

精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。

第14回 地域福祉の理論と方法

 皆さん、こんにちは。忙しさのなかで体調を崩さないよう、健康管理に留意しながら学習を進めていきましょう。

 今回は「地域福祉の理論と方法」を取り上げていきます。近年難易度が高くなっている傾向にありますので、しっかりと対策を立てていきたいと思います。

 まず前回の課題の解説をしておきたいと思います。

第19回 精神保健福祉士国家試験 「現代社会と福祉」

問題24 社会福祉事業法制定時における社会福祉法人創設の趣旨に関する次の記述のうち、正しいもの1つ選びなさい。

  • 1 社会福祉法人の公設民営の原則を徹底させるため。
  • 2 公の指導監督を受けない民間組織として社会福祉法人を普及させるため。
  • 3 社会福祉法人が社会福祉事業以外の公益事業を行うことを禁止するため。
  • 4 社会福祉事業における収益性を強化するため。
  • 5 社会福祉事業の公共性を高め社会的信頼を得るために、民法の公益法人とは別個の特別法人を創設するため。

正答5

解答解説

  • 1 誤り。社会福祉事業法が制定されて社会福祉法人が創設された目的は、公設民営の原則を徹底させるためではなく、公私分離の原則を徹底させるためです。公私分離の原則とは、GHQが出した、公の資金を民間の施設や事業に支出してはならないという原則です。この考え方に基づいて、憲法第89条に、「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」と規定されました。この結果、国からの資金によって運営されていた民間の施設は、資金不足に陥り、事業の継続の困難に直面しました。この問題を解決するために、社会福祉事業法によって社会福祉法人が創設されました。
  • 2 誤り。社会福祉法人制度を創設したのは、公の監督を受ける民間組織を普及させるためでした。社会福祉法人は、社会福祉事業を行うことを目的として設立される法人で、公の監督と指導、支配の下に置くという、強い公的規制を条件に、社会福祉法人が行う社会福祉事業に対する公費の支出を可能としました。具体的には、社会福祉法人を、行政の権限で行う措置の委託先とし、その委託の費用として、措置委託費を支出するという形が取られることになりました。
  • 3 誤り。社会福祉法人は、社会福祉事業を行うことを目的として創設された法人ですが、社会福祉事業に支障のない限り、公益事業を実施することができます。
  • 4 誤り。社会福祉法人創設の趣旨は、社会福祉事業の収益性を強化するためではありません。社会福祉法人は、本来、社会福祉事業を行うための法人として創設されましたが、公益事業及び収益事業を行うことが認められています。ただし、収益事業の収益は、社会福祉事業と公益事業に充てられなければならないとされています。
  • 5 正しい。社会福祉法人は、民法上の公益法人である社団法人や財団法人とは異なる性格をもつ特別な法人として創設されました。法人設立のためには、基本的人権に深くかかわる、重い責任を伴う公共性が求められる社会福祉事業を実施するする法人として、社会的信頼を得るために、所轄庁の認可を受けることを要件としました。

 いかがでしたか。「現代社会と福祉」の科目では、福祉の原理論やニード論、福祉政策などについてもよく学習しておきましょう。

 では、「地域福祉の理論と方法」について、出題基準に沿って過去問題を分析しながら、対策を立てていきたいと思います。

地域福祉の基本的考え方

 「概念と範囲」の分野では、コミュニティの概念や定義、地域福祉に関する代表的な理論を整理しておきましょう。ロス、ロスマン、岡村重夫、右田紀久恵、三浦文夫、マッキーヴァー、ヒラリー、ウェルマン、パットナム、ニューステッター、グラノヴェッター等の理論を学習しておきましょう。

 第18回では、マッキーヴァーのコミュニティとアソシエーションの違い、ペストフの福祉トライアングル、サンデルらのコミュニタリアニズム、トクヴィルの中間組織の重要性、ウェルマンのコミュニティ解放論が、第19回では、岡村重夫、永田幹夫、真田是、三浦文夫、右田紀久恵が出題されています。

 小項目にはこのほか、地域包括ケアと地域福祉の関係があげられていますので、地域包括ケアの考え方と実施体制には注意しておきましょう。

 「地域福祉の理念」の分野からは、第18回では、ローカルガバナンス、ソーシャル・インクルージョン、住民主体の原則、脱施設化、社会的起業が出題されています。

 人権尊重、権利擁護、自立支援、地域生活支援などについても学習しておきましょう。

 障害者の地域移行については、障害者総合支援法による障害者自立支援制度の地域移行や地域定着支援について、よく学習しておきましょう。

 「地域福祉の発展過程」の分野からは、第16回で地域福祉にかかわる諸外国の動向や学説として、ロスのコミュニティオーガニゼーション理論、ヨーロッパにおける社会的排除、イギリスのコミュニティケアに関する報告書、コミュニティビルディングの概念、グラノヴェッターの弱い紐帯の強さが出題されています。

 第17回では、地域福祉にかかわるイギリスの歴史が出題されました。チャルマーズの隣友運動や慈善組織協会活動ベヴァリッジ報告等、「現代社会と福祉」の科目と重なる内容でしたから、並行して学習しておくとよいでしょう。

 第18回では、わが国のセツルメント運動が出題されています。アダムスにはじまったセツルメント運動が、どのように展開していったか歴史的な発展の経緯を確認しておきましょう。

 第19回では、イギリスの各種の報告書として、シーボーム報告、エイブス報告、ウォルフェンデン報告、バークレイ報告、グリフィス報告が出題されました。今回は後ほど、この分野を取り上げて解説していきたいと思います。

 「地域福祉における住民参加の意義」の分野からは、第14回で、地域住民の参加のあり方が出題されています。この分野は「福祉行財政と福祉計画」の科目とも関連しますから、福祉関係の各分野において、地域住民の参加がどのように規定されているかを、各法律にあたって整理しておきましょう。

地域福祉の主体と対象

 「地域福祉の主体」の分野からは、第18回で「市民後見推進事業」が出題されました。老人福祉法における、市町村の後見等に係る体制整備の努力義務規定、市民後見推進事業の目的や役割等を押さえておきましょう。

 「地域福祉の対象」の分野では、地域の特性、時代による地域の変化、地域社会を支えている仕組みなども押さえておきましょう

 「社会福祉法」の分野では、第16回で、社会福祉法における地域住民の役割、福祉サービスの苦情申し立て先、地域福祉計画策定時の意見反映措置、市町村社会福祉協議会の業務、共同募金の区域、社会福祉法における地域福祉に関する規定と、多岐にわたって出題されています。

 社会福祉法第4条「地域福祉の推進」における地域住民の役割や、福祉サービス第三者評価事業等についての理解も深めておきましょう。

地域福祉に係る組織、団体及び専門職や地域住民

 「行政組織と民間組織の役割と実際」の分野は大変出題率が高く、ほとんど毎回の出題がみられます。特定非営利活動法人、社会福祉協議会、民生委員、児童委員、共同募金については、基礎的な知識ですので、十分学習しておきましょう。

 さらに、ボランティア組織や企業の社会貢献活動、文化活動、また、生活協同組合、農業協同組合、住民参加型の在宅福祉サービス、現在注目されている社会的企業とソーシャルビジネス等の出題も見られますので、これらについても理解を深めておきましょう。

 第17回試験では、町内会、老人クラブ、社会福祉法人、消費生活協同組合が、第18回試験では、生活困窮者自立支援法における、自立相談支援事業が出題されました。

 生活困窮者自立支援制度は、今後も出題が予想されます。「低所得者に対する支援と生活保護制度」の科目とも重なる内容ですから、並行して良く学習しておいてください。

 第19回試験では、介護保険制度と地域福祉として、生活支援コーディネーター、包括的支援事業、介護予防・生活支援サービス事業、地域ケア会議等についての出題がありました。介護予防・日常生活支援総合事業や包括的支援事業の組織と業務内容、配置される人材とその役割についての出題率が大変高くなっていますので、丁寧に学習しておきましょう。

 このほか第19回では、民生委員・児童委員、地域福祉に係る専門職及び組織として、介護支援専門員、地域包括支援センター運営協議会の構成員、福祉用具販売事業者の責務、生活困窮者自立支援制度における主任相談支援員の資格要件、基幹相談支援センターの設置についての出題がありました。

 地域で地域福祉を担う人材、組織について、各分野ごとにポイントを押さえておきましょう。

 なお、近年は災害時における支援に関する出題率が高くなっています。第19回では、災害救助法と生活福祉資金貸付制度の緊急小口資金特例貸与の関係、災害ボランティアセンター、共同募金による災害義援金の配布先、災害時における生活支援相談員の位置づけ、福祉避難所が出題されました。災害関係の施策について、法的根拠と施策内容を整理しておきましょう。

 「専門職や地域住民の役割と実際」の分野からは、社会福祉士や社会福祉協議会の福祉活動専門員について、事例問題での出題が多く見受けられます。日常生活自立支援事業の専門員、生活支援員のそれぞれの役割、介護相談員や認知症サポーターの役割、ボランティアコーディネーターの位置づけなども学習しておきましょう。

 第17回試験では、地域福祉活動計画への小学生の参加についての福祉活動専門員の対応の事例問題が出題されていました。また、ひきこもりについての地域包括支援センターの社会福祉士の対応についての出題がありました。

 第19回では、社会福祉協議会に配置されている地域福祉コーディネーターの貧困問題への対応に関する出題がありました。今後も、市町村社会福祉協議会の役割として、地域の複合的な諸問題への対応に関する出題が増えてくると思われます。諸制度も含めて実践に応用できる知識を養っておきましょう。

地域福祉の推進方法

 「ネットワーキング」については、地域のなかの社会資源をネットワーク化し、地域住民の生活課題を解決する手法を習得しておきましょう。

 第17回では、地域福祉コーディネーターの業務、地域包括ケアのコーディネート、「社協・生活支援活動強化方針」における生活支援員の役割等が出題されています。

 「地域における社会資源の活用・調整・開発」については、社会資源の意味、社会資源としての共同募金や町内会、市民後見人、住民主体の概念と専門職との関係等をよく押さえておきましょう。また、町内会やふれあいいきいきサロン、地域包括支援センター等の社会資源の活用方法等も学習しておくとよいでしょう。

 第18回では、地域福祉活動における情報の取り扱いについての出題がありました。個人情報保護法をはじめ、地域福祉に関連する法律における、個人情報の取り扱いに関する諸規定について注意しておきましょう。

 第19回では、ソーシャルアクションについて、源流、方面委員制度との関係、展開過程、専門職の役割が出題されました。社会資源の開発のための援助技法としてのソーシャルアクションについて、地域福祉における援助の場面も想定しながら学習しておくとよいでしょう。

 「地域における福祉ニーズの把握方法と実際」として、質的ニーズと量的ニーズの把握方法、ニーズ把握の具体的手法について、理解しておきましょう。

 第16回では、具体的な課題に関するニーズ把握方法が、第17回では、構造化面接、半構造化面接、インタビュー方法、住民懇談会のもち方が出題されています。「精神保健福祉の理論と相談援助の展開」の科目の社会調査の分野と重なりますので、並行して学習しておきましょう。

 「地域ケアシステムの構築方法と実際」の分野では、地域包括ケア研究会報告書の内容をよく読み込んでおきましょう。また現在、精神障害者にも対応した地域包括ケアシステムの構築推進事業が進められています。これは、モデル障害福祉圏域を設定し、市町村、保健所、精神科医療機関、指定一般相談支援事業者・指定特定相談支援事業者等、地域移行に関わる保健・医療・福祉関係者の連携による一体的取り組みを行う事業です。

 地域包括ケアシステムは、今後の地域における保健医療福祉を推進していくうえでの中心となる組織ですから、今後も出題が予想されます。注意深く学習しておきましょう。

 「地域における福祉サービスの評価方法と実際」としては、第16回で、第三者評価事業が出題されています。第三者評価事業については、評価項目も含めてガイドラインに目をとおしておきましょう。

 以上、全体を概観してきましたが、今回は、イギリスの各種の報告書について取り上げていきたいと思います。

シーボーム報告

 イギリスでは、1942年のベヴァリッジ報告を受けて、第二次世界大戦後、ナショナル・ミニマムの理念に基づいた福祉国家が形成されていきました。1960年代になると、さまざまな分野の福祉サービスが必要とされていき、それに伴って、各分野における福祉サービスがそれぞれの分野で独立して提供されるようになってきました。

 ただし、さまざまな分野の福祉サービスが分野別に縦割りで行われていたため、住民に身近な地方自治体において、包括的、一元的に提供される必要性が認識されていきました。

 このような社会的背景を受けて、1968年にシーボーム報告が提出されました。シーボーム報告の正式名称は、『地方自治体と対人社会サービスに関する報告』で、シーボームを委員長として作成されたので通称シーボーム報告と呼ばれています。

 この報告は、従来の地方自治体における社会福祉サービスが、分野別に縦割りで行われていたことに対して、住民にとって必要なサービスを、地方自治体のなかに、社会福祉事業担当という1つの部局を設置し、総合的に対応すべきであるということを提言したものです。この報告に基づいて、1970年に「地方自治体社会サービス法」が制定されました。

地方自治体社会サービス法

 「地方自治体社会サービス法」は、地方自治体にコミュニティを基盤とする「社会サービス部」の設置を規定しました。それまで各分野別に実施されていた、高齢者、精神障害者、身体障害者、児童などに対するパーソナル・ソーシャルサービス、すなわち対人援助サービスが一元化されて、地域で包括的に提供されるための体制が、この法律によって整備されました。

 またこの法律には、各自治体は、その義務と機能を果たすために必要なスタッフをもつべきことも盛り込まれており、この法律の施行により、従来の制度では満たされていなかった地域における福祉ニーズが掘り起こされていき、社会福祉サービスが飛躍的に拡大されていきました。

エイブス報告

 上記のシーボーム報告では、地方自治体における福祉サービスの一元化とともに、ボランティアの重要性も指摘されていました。社会福祉サービスは、行政と民間のボランティアセクターが協働して行うべきであるとの考え方が提示されています。

 シーボーム報告が出された翌年の1969年に、民間に設立された調査委員会であるエイブス委員会によって、ボランティアの役割についてエイブス報告が出されました。この報告では、社会サービスにおけるボランティアの役割は、専門家の補完的役割ではなく、専門家にはできない、新しい社会サービスを開発することにある、ということが強調されました。

ガルベンキアン報告

 同年の1969年、イギリスの民間のガルベンキアン財団から、「コミュニティワークと社会変革」という報告書が出されました。これは、コミュニティワークをソーシャルワークの一つとして捉えるべきであるという提言です。

 それまでイギリスにおいては、コミュニティワークという援助技術は、ソーシャルワークの一つとしては位置づけられていませんでした。イギリスにおけるコミュニティワークの源流をたどると、19世紀に進展したCOS(慈善組織協会活動)、セツルメント運動に遡ることができますが、それらはコミュニティワークの萌芽といえるものでした。

 1960年代になると、イギリスでは、アメリカにおけるコミュニティオーガニゼーション理論の発展等の影響を受け、コミュニティに対する関心の高まりがみられるようになり、従来のケースワークとは異なる、地域生活の課題に、地域として取り組んでいくコミュニティにおけるソーシャルワーク実践が進められていきました。

 このようなコミュニティワーク実践の積み重ねを経て、コミュニティワークをソーシャルワークの一つとして位置づけるべきであるという提言がなされました。

ウルフェンデン報告

 1978年には、『民間非営利団体の将来』と題するウルフェンデン報告が出されました。このウルフェンデン報告は、福祉供給体制を多元化すべきであるということを提唱しています。この報告では、福祉供給体制として供給主体を、公的部門、民間非営利部門、民間営利部門、インフォーマル部門の4種類に分類しました。

 この報告では、行政による硬直化しやすい公的部門と、組織化されていない民間のインフォーマル部門に対して、これらの中間的・媒介的役割として、民間非営利部門である、ボランタリーセクターの今後の役割と将来性に注目し、民間非営利部門の今後の役割の重要性について指摘しています。

 民間非営利部門を、行政では果たし得ない、個別の細かいニーズにも対応し得る柔軟性をもちつつ、インフォーマル部門の課題としての、組織化されていないがゆえのニーズとサービスの乖離という課題を克服し、要援護者とボランティアの仲介的役割を担いうる部門であると位置づけました。そして、民間非営利部門は、今後大きな役割を果たしていくことが期待されるとして、公的資金の投入などを含めて、その活動を育てていくべきであると提言しています。

バークレイ報告

 1982年に、『コミュニティソーシャルワーカーの役割と任務』として、政府に設置された委員会によってバークレイ報告が出されました。この報告は、ソーシャルワーカーの役割の重要性についてのもので、バークレイをはじめとする多数派報告とハドレイ少数派報告、ピンカーによる個人意見の3つにまとめられました。

 多数派報告は、ソーシャルワーカーの役割について、新たな視点を提示しました。従来のソーシャルワークは、個人や家族に対するケースワークを中心としたものでした。しかしコミュニティケアを進めていくためには、ソーシャルワーカーは、単に従来のケースワークにとどまることなく、コミュニティ基盤として、多元的な供給主体による社会資源を個別のニーズに適切に調整すること、ネットワークの開発、チームアプローチ、ソーシャルプランニング等を含めたコミュニティソーシャルワークという働きが求められるとしました。

 この多数派報告では、コミュニティソーシャルワークを「コミュニティを基盤としたカウンセリングと社会的ケア計画を統合した実践」と定義しています。ここで使用されているカウンセリングという言葉はケースワークを意味し、社会的ケア計画とは、社会資源やネットワークの活用を意味しています。

 他方、ハドレイらを中心としてまとめられた少数派報告は、小地域を基盤としたソーシャルワークを提唱しました。この小地域を基盤としたソーシャルワークはパッチシステムと呼ばれ、小地域でのインフォーマルなネットワークを活用した、近隣を基盤としたソーシャルワークを重視した概念を提唱しました。

 ピンカー個人の少数派意見は、コミュニティにおけるソーシャルワークという視点よりも、課題を抱える個人に焦点をあてるべきだとし、そこにおいてソーシャルワーカーは、スペシャリストとしてのアプローチを行うべきであるとしました。

グリフィス報告

 1988年に、福祉への支出削減、福祉サービスの効率化という立場に立つサッチャー政権から、今後のコミュニティケアをどのような方向性で行うべきか諮問を受けた、グリフィスを委員長とする委員会が『コミュニティケア:行動計画』というグリフィス報告を出しました。

 この報告書では、コミュニティケアが進展しない原因として、国の財源で施設入所を行っているためであるということをふまえて、コミュニティケアについては地方自治体が責任をもつべきこと、市場原理を導入し効率化を図るべきこと、ニーズと目標を明確にして計画に基づいた援助を行うべきこと、サービス購入者としての自治体の責任、利用者の権利を保障するための施設への監査指導や不服申立制度等が提言されました。この報告書を受けて制定されたのが、「国民保健サービスとコミュニティケア法」です。

国民保健サービスとコミュニティケア法

 上記のグリフィス報告を受けて、1990年に「国民保健サービスとコミュニティケア法」が制定されました。地方自治体は条件整備主体としてその責任を果たすべきこと、具体的なサービスは多様な供給主体から購入し継ぎ目のないサービスを提供すべきこと、経営の効率化、民間サービスの導入、アセスメントに基づいたケアマネジメントの実施、地方自治体に対するコミュニティケア計画策定の義務づけ、苦情処理システムの導入等が盛り込まれました。

 また、インフォーマルセクターや民間部門の活用と促進、関係機関のネットワーク化、中央と地方の政府における、財政責任と運営責任の明確化等も徹底されました。わが国の介護保険制度や障害者自立支援制度は、この報告書から大きな影響を受けています。

ワグナー報告

 最後に、施設内処遇に関する報告書である「ワグナー報告」を取り上げておきましょう。

 ワグナー報告は、1988年、当時劣悪だった施設内処遇の在り方に関してまとめられた『施設ケア:積極的選択』という報告書です。利用者が施設サービスを積極的に選択できるよう、施設内処遇の向上のためのサービスの質の確保、専門性の向上の重要性が指摘されています。

 具体的には、施設職員であるワーカーの有資格率の改善、スタッフ訓練計画の作成と登録、上級職員に対するソーシャルワーカー資格取得のための訓練等が提示されています。

 また、地方自治体の高齢者のための住宅環境づくり、サービスの提供における主導的役割を施設が担いうること、利用者が市民として諸権利を護られるべきこと等が提言されています。

 以上、イギリスにおける報告書についてみてきました。これらの内容を簡単に表にまとめておきましょう。

シーボーム報告(1968年)『地方自治体と対人社会サービスに関する報告』地方自治体における対人社会サービスの一元化を提案
『地方自治体社会サービス法』(1970年)地方自治体に、コミュニティの基盤としての機能をもつ「社会サービス部」を設置高齢者、精神障害者、身体障害者、児童に対するパーソナル・ソーシャルサービスを一元化
エイブス報告
(1969年)
ボランティアの役割についての提言社会サービスにおけるボランティアの役割は、専門家にできない新しい社会サービスを開発することにあることを強調
ガルベンキアン報告(1969年)『コミュニティワークと社会変革』コミュニティワークをソーシャルワークの一つとして捉えるべきであるという提言
ウルフェンデン報告(1978年)『民間非営利団体の将来』
福祉供給体制の多元化を提唱
(1)公的部門、(2)民間非営利部門、(3)民間営利部門、(4)インフォーマル部門による、多元的な供給
バークレイ報告(1983年)『コミュニティソーシャルワーカーの役割と任務』
ソーシャルワーカーの重要性を指摘
コミュニティを基盤としたカウンセリングと社会的ケア計画を統合した実践であるコミュニティソーシャルワークを提唱した
グリフィス報告(1988年)『コミュニティケア:行動計画』市場原理の導入と効率化と計画化、サービス購入者としての自治体の責任、利用者の権利保障等を提言
「国民保健サービスとコミュニティケア法」(1990年)グリフィス報告を受けて策定。経営の効率化、民間サービスの導入、ケアマネジメント、計画策定、苦情処理システムの導入地方自治体が必要なサービスを多様な供給主体から購入し、継ぎ目のないサービスを提供
ワグナー報告
(1988年)
『施設ケア:積極的選択』施設サービスの質の確保、専門性の向上の重要性を指摘

 いかがでしたか。「地域福祉の理論と方法」も10点科目で学習範囲が広いですが、出題率の高い範囲を丁寧に学習すれば得点に結びつきますから、着実に学習して力をつけていきましょう。次回は「福祉行財政と福祉計画」を取り上げます。

 では、第19回の精神保健福祉士国家試験から、今回の課題をあげておきますので、チャレンジしてみてください。

第19回 精神保健福祉国家試験 「地域福祉の理論と方法」

問題33 イギリスの各種の報告書における地域福祉に関する次の記述のうち、最も適切なもの1つ選びなさい。

  • 1 シーボーム報告(1968 年)は、社会サービスにおけるボランティアの役割は、専門家にできない新しい社会サービスを開発することにあることを強調した。
  • 2 エイブス報告(1969 年)は、地方自治体がソーシャルワークに関連した部門を統合すべきであることを勧告した。
  • 3 ウォルフェンデン報告(1978 年)は、地方自治体の役割について、サービス供給を重視した。
  • 4 バークレイ報告(1982 年)は、コミュニティを基盤としたカウンセリングと社会的ケア計画を統合した実践であるコミュニティソーシャルワークを提唱した。
  • 5 グリフィス報告(1988 年)は、コミュニティケアの基礎となるナショナル・ミニマムの概念を提唱した。