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張先生の受験対策講座

張 百々代(はり ももよ)

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。

プロフィール張 百々代(はり ももよ)

精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。

第12回 社会理論と社会システム

社会的行為論

 ドイツの社会学者ウェーバー(Weber, M.)は、社会現象を分析する際、行動という言葉と行為という言葉を区別して使用しました。行動とは、何らかの目的や意図などは特にもっていないものとし、行為とは、何らかの目的や意図をもった主観的な意味のあるものであるとしました。

 この、何らかの目的や意図をもった主観的な意味のある行為が、他者と関係をもつ行為となるものを「社会的行為」と名づけました。そして社会現象とは、一人ひとりの「社会的行為」の結果であると捉えて、この「社会的行為」を社会学の対象としました。

ウェーバーの社会的行為類型

 ウェーバーは社会的行為を、意識的に行っている「合理性行為」と、無意識に行っている「非合理性為」に分類し、さらに「合理性行為」を「目的合理的行為」と「価値合理的行為」に、「非合理性行為」を「感情的行為」と「伝統的行為」に分類しました。

 では、ウェーバーは、これらの行為をどのような概念として類型化しているのでしょうか。

目的合理的行為

 目的合理的行為とは、特定の目的のために「手段」として行われる行為です。例えば、経済的な利益を追求するための行為は、「経済的利益をあげる」という目的のために「手段」として行われる行為であって、その行為自体に絶対的な価値があるわけではありません。目的を追求するための行為です。

 経済的な利益を追求するホモ・エコノミクス(経済人)と呼ばれる行為が、目的合理的行為の代表的な例だといえるでしょう。

価値合理的行為

 価値合理的行為とは、ある固有の絶対的価値に基づいて行う行為です。「価値」自体が、行為の原動力であり行動の基準となるという行為ですから、行為の結果は問いません。結果とは無関係に、ただ絶対的価値だけを行為の基準とします。

 ウェーバーの、『プロテスタンティズムと倫理と資本主義の精神』で論じられた、神からの召命としての職業への献身と禁欲主義というプロテスタンティズムの倫理が、資本主義を生みだし発展させたという理論は、この価値合理的行為に該当するといえるでしょう。

感情的行為

 感情的行為とは、感情に駆られて無意識に行われる行為です。喜怒哀楽の感情や情動に動かされて行う行為で、意識的ではなく、無意識に行っている行為で、行為対象に対して、直接的な感情や気分によって行われる振る舞いを意味します。

伝統的行為

 伝統的行為とは、無意識に習慣的に反応する行為で、一日のはじまりに目が覚めて着替えをする、顔を洗う、食事をするなどの行為のように、あえて意識することなく反応的に行っている行為が、伝統的行為に該当します。

ウェーバーの社会的行為論
合理性行為意識的に行っている行為
目的合理的行為特定の目的のために、手段として行われる行為
価値合理的行為固有の価値に基づき、結果とは無関係に行う行為
非合理性行為無意識に行っている行為
感情的行為感情にかられて無意識に行われる行為
伝統的行為無意識に習慣的に反応する行為

パーソンズの主意主義的行為論

 次に、ウェーバー以外の、社会的行為論を取り上げていきたいと思います。まずアメリカの社会学者パーソンズ(Parsons, T.)の主意主義的行為論を見ていきましょう。

 パーソンズは、功利主義の立場に立つホッブズ(Hobbes, T.)が、この社会は、一人ひとりが自分の目的の達成のためには手段を選ばない行為を行うために「万人の万人のための闘争」という秩序なき状態になっていると指摘したことに対して、これを「ホッブズ問題」と名づけ、その解決のために「主意主義的行為論」を提唱しました。

 主意主義的行為論とは、社会の構成員が共有する価値を「共通価値」と名づけ、社会の構成員がその共通価値に基づいて社会的行為を行うことにより、社会秩序の維持がもたらされるという考え方です。

 共通価値は、内面化された社会の規範に決定される価値観であり、パーソンズは、目的を達成するための行為に、正しさという規範を求めることによって、ホッブズのいう「万人の万人のための闘争」という状態から、社会的秩序をもたらすことができると考えました。

 これは、適切な手段を用いて目的を達成していくという社会秩序を形成するための行為論で、これをパーソンズは、「主意主義的行為論」と名づけました。

ゴッフマンの印象操作

 では次に、このほかの社会的行為論を見ていきましょう。

 社会的行為論の一つとして、ゴッフマン(Goffman, E.)は「印象操作」という概念を提示しました。ゴッフマンは、人間の社会的行為を、劇場におけるパフォーマーとしての役割演技としてとらえました。役割演技とは、演技者は、演技を見る者に対して、どのように見られたいかという意図をもって演技を行っているという考え方です。

 演技者が、演技を見る者に対して与える印象を操作することを、印象操作といいます。人間は、何らかの社会的行為を行う場合、自分がどのように相手に見られたいかと考えながら、相手に自分自身を示しているのだとして、人間の社会的な行為を、印象操作という概念で説明しました。

ブルデューのハビトゥス論

 フランスの社会学者ブルデューは、人間の行為のなかには、必ずしも意識的、自覚的に行われるわけではなく、何気なく身についた習慣として行われる行為というものがあることに注目し、それを「ハビトゥス」と名づけました。

 ハビトゥスとは、過去の経験に基づいて個人の内に身についた知覚や思考、実践行動を生み出す性向を意味します。その人が生まれ育った環境や生活歴、経験などによって身につけた、立ち居振る舞いや考え方、行動様式のことです。ブルデューは、このハビトゥスによって人々は、さまざまなことがらを、無意識に習慣として行動していると考えました。

 そしてブルデューは、このハビトゥスを含めて、社会的に再生産されるものを文化資本と名づけました。ブルデューは文化資本を、ハビトゥスのように身体化された行動様式としての文化資本と、家具や食器、絵画や書物等のように物体として蓄積される文化資本、学歴や資格等のように制度化された文化資本に分類しています。

 ブルデューはこれらの文化資本は、教育等によって再生産されるとし、文化資本の配分の不平等が再生産によって社会的な格差を生み出していると指摘しました。

パーソンズ主意主義的行為理論を提唱。社会の成員の「共通価値」により社会秩序が可能であるとしてホッブズ問題を論じた。共通価値は内面化された社会の規範に決定されるとしている。
ゴッフマン人間の社会的行為を役割演技としてとらえ、人間の社会的な行為を印象操作という概念で提示した。
ブルデュー人が環境や生活歴、経験などによって身につけた、立ち居振る舞いや考え方、行動様式を、無意識な習慣の行動としてハビトゥスと名づけ、文化資本の概念を提示した。

ハーバマスのコミュニケーション的行為論

 ドイツの哲学者ハーバマス(Habermas, J.)は、従来の社会的行為理論を、目的論的行為、戦略的行為、規範に規制される行為、演劇的行為の4種類に分類し、新たに、コミュニケーション的行為を提唱しました。

 目的論的行為とは、目的を達成するための行為で、ウェーバーの目的合理的行為と対応するものです。戦略的行為とは目的論的行為の一つで、他者の行為を計算に入れたり他者の選択に影響を与えることによって、自己の目的の実現を目指す行為のことです。何らかの力により、相手の意思決定に影響を及ぼし、自己の目的の実現を目指そうとする行為です。

 規範に規制される行為とは、社会が共有する共通の規則や規範に則って行われる行為のことです。演劇論的行為とは、行為者が相手に対して、自分自身について一定の印象を与えようとする行為です。

 ハーバマスは、従来の行為をこのように分類したうえで、社会的行為は、単に目的を達成するためだけに行われるべきではなく、真理性、正当性、誠実性に基づく、コミュニケーションによって合意を形成するという行為に移行すべきであるとし、コミュニケーション的行為という概念を提示しました。

 コミュニケーション的行為とは、言語を媒介として、自己と他者の相互了解や合意形成を目的として行われる行為です。これは強制による合意ではなく、承認や異議を自由に表明しながら行われる、主体的なコミュンケーションによる合意形成であり、このようなコミュニケーション的行為によって、真の意味での社会秩序の形成に、より近づくことができるとしました。

ハーバマスの行為論
目的論的行為目的を達成するための行為
戦略的行為他者の行為を計算に入れたり他者の選択に影響を与えることによって、自己の目的の実現を目指す行為
規範に規制される行為社会が共有する共通の規則や規範に則って行われる行為
演劇論的行為行為者が、相手に対して自分自身について一定の印象を与えようとする行為
コミュニケーション的行為言語を媒介として、真理性、正当性、誠実性に基づき相互了解や合意を目指して行われる行為

行為の意図せざる結果

 目的をもった意図的な行為は、意図した一定の結果をもたらします。ただ、目的のために行った行為が、意図しない結果をもたらすことがあります。具体的な例を見ていきましょう。

神の見えざる手

 経済学者であるアダム・スミス(Smith, A.)は、個人の自己の利益を目的とする利己的行為が、結果的に神の見えざる手に導かれて、社会全体の経済を活性化し経済の発展と調和を生み出すという、意図せざる結果を導き出すとしました。

顕在的機能と潜在的機能

 アメリカの社会学者マートン(Merton, R.)は、行為の意図せざる結果をもたらす機能として、行為の顕在的機能と潜在的機能という概念を提唱しました。

 私たちは、ある目的をもって社会的な行為を行いますが、その結果、目的とした結果だけではなく、目的としていなかった、意図せざる結果をもたらすことがあります。

 マートンは、行為者の行為が、意図した結果をもたらす機能を顕在的機能と名づけ、意図せざる結果をもたらす機能を潜在的機能と名づけました。

 顕在的機能とは、ある社会現象において、特定の行為者たちが意図し、認知している働きのことです。マートンは雨乞いの儀式を例にとり、雨乞いの儀式で雨が降った場合は、雨乞いという、意図し認知している行為の結果、雨が降ったので、これを顕在的機能と名づけました。潜在的機能とは、雨乞いの儀式を行った結果、意図はしていなかった結果として、その集団の結束力が強まったという結果をもたらした場合、その機能を潜在的機能と名づけました。

行為の意図せざる結果
スミス個人の利己的行為が、結果的に意図せざる結果として、社会全体の経済の発展をもたらすことを、「神の見えざる手」として説明した
マートン行為者の行為が、意図した結果をもたらす機能を顕在的機能とした
行為者の行為が意図せざる結果をもたらす機能を潜在的機能とした

 いかがでしたか。社会的行為の意味することや、行為によってもたらされる結果について理解を深めていくことによって、出来事の本質を深く知ることができ、生活課題を抱えている人々の現実を正しく認識することができるようになります。

 受験対策は、人物や業績の単なる暗記にとどまらず、社会全般を多角的な視点でとらえられるようになることが、深い理解力を培うことになり、受験のための本当の底力をつけていくことになります。これからもさらに学習を重ねていくことによって、学ぶ楽しさを体験していただければと願っています。

 次回は「現代社会と福祉」を取り上げていきます。

 では、第19回精神保健福祉士国家試験から今回の課題をあげておきますので、挑戦してみてください。

第19回 精神保健福祉士国家試験 「社会理論と社会システム」

問題19 社会理論における行為に関する次の記述のうち、正しいもの1つ選びなさい。

  • 1 行為とは、行為者自身にとってどのような意味を持つかとは無関係に、他者から観察可能な振る舞いを意味する。
  • 2 伝統的行為とは、行為対象に対して直接の感情や気分によって行われる振る舞いを意味する。
  • 3 価値合理的行為とは、過去の経験に基づき諸個人の内に身についた知覚・思考・実践行動を生み出す性向を意味する。
  • 4 コミュニケーション的行為とは、他者の選択を計算に入れながら、あるいは他者の選択に影響を与えることによって、自己の目的の実現を目指すものを意味する。
  • 5 行為の意図せざる結果とは、ある意図によって行われた行為自体が、思わぬ影響をもたらすことを意味する。