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私はこうして合格しました!

国家試験を突破して精神保健福祉士の資格を取得した合格者の皆さんに、合格までの道のりをご紹介いただきます。効果的な勉強法や忙しいなかでの時間のつくり方、実際に資格を手にして思うことなど、受験者が参考にしたい話が満載です。

第34回 H.Nさん

平成24年度試験合格

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プロフィール

 埼玉県内の高校総合学科卒。埼玉県出身。高校卒業後、社会福祉法人に就職し、特別養護老人ホームの介護職員として10年余、入所施設とデイサービスの相談員として8年勤める。この間に介護福祉士、社会福祉士の両資格を取得。その後、法人が立ち上げた居宅介護支援事業所のケアマネジャーに異動。介護支援専門員は第1回試験(平成10年)で取得。約10年にわたり在宅の要介護高齢者の支援に携わり、このなかで精神保健福祉に関する知識、技術の必要性を感じ、精神保健福祉士の資格取得を決意。小規模多機能居宅介護事業所の管理者にポジジョンを移すなか、専門学校の通信課程に入学。平成23年度試験に失敗したが、翌年の平成24年度試験に合格。特別養護老人ホームで要職を務めた後、現在は総合病院の相談科で管理者を務める。趣味は低山ハイキング。好きなことは、仲間とのお酒、特に日本酒。きらいなことは、努力する必要を感じないこと、自分勝手さに無自覚なこと。「精神保健福祉士の資格を直接は活かしていませんが……、いえ活かしてました!仕事でもプライベートでも」と自分に気づいた笑顔がステキな50代女性。

受験の動機

 精神保健福祉士の資格がほしいと思ったのは、在宅のケアマネジャーをしていて、精神疾患のことや障害の制度のことを知らないと、さまざまな難しい状況に対応できないと痛切に感じたからです。

 在宅のケアマネジャーをしていると、援助対象である高齢者への支援には直接関係しない、しかしその利用者の支援においては大いに関係してくるテーマがあります。その大きな一つが「精神障害」です。ケアマネジャーの利用者(要介護高齢者)支援でキーパーソンとなるはずの娘さんが統合失調症だった、利用者のだんなさんがアスペルガー症候群と見受けられた、家族介護力として期待したい息子さんがうつ病を発症して会社を休んでいたなど、利用者の支援として介護の問題に目を向けるより先に、まずはこの家族の全体状況を何とかしなくては先に進めないという状況は、けっこうな頻度であります。

 私の活動地域では、地域ケア会議の一形態として困難事例の検討会を役所の職員も入って開催していましたが、そこであがってくるケースの多くに精神障害が関係しているだろう内容が含まれていました。私の感覚では6割か7割、それ以上です。

 精神疾患のことはよくわからないし、精神障害のサービスのこともよくわからない。必然として保健師を頼りにするケースが増えてきますが、自分がよく理解していないなかでは、当の契約対象である利用者(高齢者)の支援もしっくりしてこない、チームを組んでいる介護保険事業所のまとまりもよくないと、いろいろ問題を感じました。

 当時、すでに介護福祉士、社会福祉士と資格はいろいろ取得していましたが、精神保健福祉に関する専門性は特殊というか、これらとはまたずいぶん異なります。地元では、年齢的にもキャリア的にも現場のケアマネジャーを引っ張って行かないといけない立場にあり、こうしたもろもろを考えあわせて資格試験に挑戦することを決めました。

働いている人は勉強する覚悟が必要

 まず、福祉の現場でフルタイム勤務している実践者の場合、肉体的にも精神的にも資格試験にチャレンジすることには高いハードルがある。このことは自分の経験からも初めにお伝えしておきたいと思います。私は1回目の挑戦では決定的な敗北でした。すでに社会福祉士の資格は持っていたので、難しいと定評の共通科目が免除、しかも精神の専門科目は取りやすいとも聞いていて油断があったともいえます。だとしても、勉強をせずに合格できるような試験では到底なく、恥ずかしいことに手も足も出ない状態でした。

 勉強が思うようにできないのは、やる気の問題ではなく、物理的な時間の問題です。介護の現場にしろ、相談業務の現場にしろ、人と人が関係する仕事というのは、心身が疲労するものです。一日が終わって帰宅して、さあ勉強しようと思っても、いえそう思う前にだいたい眠くなっています。いやいやがんばるぞと参考書を開いたところで、文字ばかりの中身に入っていけるはずがありません。私の年齢がけっこういっていることを差し引いても、一般論として異論はないのではと思います。

 雪辱を期して、2年目は自分なりに、できるなりにがんばりました。その内容をご紹介します。

一日のなかで勉強する時間帯を決める

 はじめに行ったのは、勉強する時間帯を決めることでした。試験日までの1年を通して、この時間帯は何があっても絶対に机に向かうという時間帯です。試験に落ちた直後に思い立ったので、来年の試験日までに約10カ月ありました。1日1時間で考えて、たしか295時間くらい作れるなと試算した記憶があります。

 時間帯はどう考えても朝でした。夜は疲れのこともありましたが、それ以上に予定がくるくる変わることがわかりきっていました。会議とか利用者、家族からの急な要請とか。娘が受験する年でそこへの配慮もしてあげたかったので、夜は使えませんでした。幸い、職場が自宅からそう遠くなかったので、早起きして時間をつくることにしました。朝は娘のお弁当作りもありましたが、簡単な下ごしらえは前の晩にしたり、夕ご飯の残りをうまく使えるように工夫したりもしました。これも記憶ですが、毎朝3時40分くらいに起床して机に向かうのが3時50分、とにかく1時間は何かをやるというふうにして、5時からはお弁当作りや出勤前の準備にあてていたと思います。

取り組みやすいもの、好きなものから

 このコーナーの依頼をいただいたとき、バックナンバーもいくつか見せていただいて、「苦手なものから」という方が多いことを知りました。理由も書かれていて、うんうん、やっぱりそうなのだと思いました。

 でも、私の場合は正反対でした。毎日1時間やるということを自分に課して(それこそ修行のように)、それが達成されればよしという、勉強の内容に関してはなんでもいいくらいの低いハードルにしていたので、最初は興味のある分野ややりやすそうなものばかり見ていました。担当している利用者さんの息子さんの発達障害を思い起こして、その障害のことを少し詳しく知ってみようと、精神疾患の科目で該当する項目を読んでみたり、うつ病にはどんな薬があるのかしらといった個人的な関心を広げる形でその分野の知識を集めたりするなど、本当に自由度の高い勉強の仕方です。インターネットでキーワードを検索して、そこから広がっていくキーワードに目を移していくなんてこともしていました。いわゆる受験勉強のスタイルではなかったかもしれませんが、けっこう楽しくて、1時間座ったらはい終わり、今日の勉強よく頑張りました、とするまでの時間の使い方としてはなかなか有効だったように思います。

 この時期は4月上旬でした。その年度に対応した新しい受験参考書は夏にならないと出ないことはわかっていたので、去年使った参考書や問題集を読んでいました。不思議なのですが、1年前には見るのも気持ちがひけていた本の中身がわりとすっすっと頭に入ってくるようでした。早朝の頭の冴えた状態だったからなのか、みんな寝静まって周りが静かだったからなのか、まだ本格的な勉強のスタートではないんだからと気楽さがあったからなのか、ちょっとわかりません。

 これら分野を科目にすると、「精神疾患とその治療」「精神保健福祉相談援助の基盤」「精神保健福祉の理論と相談援助の展開」でしょうか。つまみぐいの感覚で、その意味では「精神保健の課題と支援」も入っていたようです。

8月に入ってから問題集を解き始める

 そんな勉強法を夏までやって、8月の中旬、お盆があけたくらいから過去問など問題を解く形式の参考書に取り組み始めました。前年、中央法規の解説集を購入していて、新しい年度の本を買ってもよかったのですが、ほかのも見てみたいなと思い、別の本を2種類購入しました。今思うと、この気楽な感じもけっこうよかったのかもしれません。昨年やらなかった勉強を今年は絶対するけど、自由気ままにやるんだ、ストレスの低い状態でとにかく続けられることを第一に考えるんだというスタイルです。

 過去問を解いてみたら、精神医学や援助技術系の問題が思いのほかスイスイ解けて、急に自信がつきました。勉強する範囲も決して広くはないので、知らなかったことを深めていく過程で着実に知識がストックされていく実感をもてました。制度については、似たような名称や難しい用語がいろいろ出てきて、少し嫌になりかけましたが、歴史上の事件などからソーシャルワークの倫理、価値に結びつけていくと、精神保健福祉の制度というのは中身に入りやすく、また勉強する人間がソーシャルワーカーであるほど刺激もされる内容でもあって、途中から急に自分自身が詳しくなったように感じられました。

初めて全体を俯瞰したのは11月から12月

 基本的に、やりたいところだけをやっていく勉強をしていて、全体としてどういう知識の総体になっているかを確かめようと、そういう気になったのは11月か12月に入ってからでした。受かりたい気持ちがなかったわけでは全然なく、ただ、資格取得を目指す受験生でありながら、日々の精神状態は現場の実践者であることが何より優先で、その意識が9割以上でした。それをふまえたとき、したくないことはしなかったのです、正直に言えば。

 ただ、そうはいっても、試験本番がそろそろ見えかけてきたときに、総体として何を知識として持っておかなければいけないのかと考えるようになり、その時期が12月だったということです。

 その確認作業は、前年に購入した中央法規のワークブックで行いました。ワークブックは新しい年度の本は買っていません。全体網羅は完璧でなくてもいいと思ったようです。

現場実践のなかできっと役に立ってくれる

 毎日の意識が常に仕事のほうにおかれていたこともあって、長期にわたる勉強でストレスが過剰に高くなることはなかったようです。試験月の1月もいつもどおりでした。試験の前日に難しいケースの対応があって、試験のことよりもそちらのほうの解決が私にとっては大きな問題でした。

 試験の手応えは、ちょっと自慢になってしまいますが、すごくよくて自己採点でも8割以上の得点を確認しました。試験勉強の後半から興味が高まった地域生活支援関連の出題が、直前にインターネットなどで自分が調べていた内容とかなり似ていて、すごい偶然と思ったりもして、手応えは十分だったのです。

 結果は合格。介護福祉士、社会福祉士、そして介護支援専門員の資格取得からは10年以上経っていて、知った瞬間は気持ちが高揚しました。こういうチャレンジとその成果を手にすることは、本当に素晴らしい経験だと思います。

 現在、精神保健福祉士として活動はしていませんが、資格を取る過程で手にした知識の数々は間違いなく今の仕事に活かされています。精神疾患の知識、障害福祉の制度やサービスの知識、精神科病院や地域の事業所の状況、そうしてこれら精神保健福祉に対する自分自身の感覚の醸成。精神保健福祉士としての仕事をするのではなくても、この資格を取得する過程で、多くのことを学べると私は思いました。特に、ソーシャルワーカーが大事にしたい人権擁護の視点、技術を養うことができます。

 受験勉強については、仕事をしている人の場合、とにかく勉強そのものを重荷にしないこと、そして興味を持ち続けられるように楽しく勉強できる工夫を考えること、この2点です。多くの社会福祉関係者がこの資格にチャレンジしてくれたらすばらしいことだと思います。