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どうなる? 介護保険

介護報酬改定(2)介護職員の給与引き上げ分は税金から加算に

 第5期(2012~14年度)介護報酬改定について1月25日、社会保障審議会介護給付費分科会(座長:大森彌・東京大学名誉教授 以下、分科会)の第88回で、社会保障審議会(会長:大森彌 以下、審議会)への報告書がまとめられました。
 翌26日、厚生労働省はパブリックコメント(1)「2012年度介護報酬改定に伴う関係省令の一部改正等に係る意見募集」を開始し、地域区分の見直し、介護職員処遇改善加算の新設、各サービスの報酬単価などについて意見を求めています(募集締め切りは2月24日)。
 また、2月3日、事務負担軽減のための介護認定有効期間延長について(2)「介護保険法施行規則の一部を改正する省令案に関する意見募集」(募集締め切り3月3日)、地域密着型サービスに新設された定期巡回・随時対応型訪問介護看護や複合型サービスなどの整備について(3)「介護保険法施行規則等の一部改正に関する意見募集」(募集締め切り3月3日)、地域支援事業(市区町村事業)に新設された介護予防・日常生活支援総合事業(要支援認定者、二次予防事業対象者が該当)について(4)「介護予防・日常生活支援総合事業の円滑な実施を図るための指針案等に関する意見募集」(募集締め切り3月4日)もはじめています。(1)から(3)のパブリックコメントは行政手続法に基づく意見募集で、(4)は厚生労働省の任意募集です。
 2月23日には全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議(傍聴締め切り2月9日12時)が予定され、パブリックコメントの意見集約を待つことなく、2012年度からの介護保険制度について自治体への説明が行われる予定です。

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交付金も介護報酬も期間限定
 「2012年度介護報酬改定の概要」(第88回分科会資料1-2 以下、概要)には、「介護職員処遇改善交付金相当分を介護報酬に円滑に移行するために、例外的かつ経過的な取扱いとして、2014年3月31日までの間、介護職員処遇改善加算を創設する」とあります。
 介護職員処遇改善交付金(2009年9月~12年3月 以下、交付金)は介護職員(介護職員、介護従業者、訪問介護員等)の給与(常勤換算)を月額平均1万5000引き上げることを目的に、介護保険サービスの種類別に事業者の売上(介護報酬)に交付率をかけた金額が交付されています。事業者は(1)過去1年以内に労働基準法などに違反していない、(2)労働保険に加入していることを前提に、(3)賃金改善計画を策定し、(4)介護職員処遇改善計画書を職員に内容を周知したうえで都道府県に提出することが条件になっています。
 交付金は全額税金(2.5年間で3900億円)で支給され、全国の83%の事業所が申請し、平均給与額の引き上げを達成できたと報告されています(2011年10月30日、第38回社会保障審議会介護保険部会資料3より)。しかし、時限措置として期間限定のため、2012年度以降が課題となっていました。
 昨年の通常国会では「具体的な方策は、今年の末には医療、介護同時改定もあり、そういうところで方策を決めていきたい」(2011年5月24日衆議院厚生労働委員会第15号、細川律夫厚生労働大臣答弁)とされました。
 交付金を介護報酬に換算すると2%程度(第5期3年間で約6000億円、単年度換算約1900億円)といわれていました。しかし、第5期改定率はプラス1.2%となり、交付金を介護報酬に組み込むことになりましたが、差し引きでマイナス0.8%改定といわれています。また、介護職員処遇改善加算の加算率は交付金と同じですが、概要にあるように、介護報酬に組み込まれてもなお、第5期3年間の「例外的かつ過渡的な取り扱い」とされ、2015年度以降は給与として確保されるかどうか不明という条件がつきました。
 なお、介護職員処遇改善加算は区分支給限度基準額の算定対象外ですが、利用者の負担は1割とされています。

表1 介護職員処遇改善加算
サービス別加算率事業所数加算率
小規模多機能型居宅介護1,557事業所4.2%
複合型サービス-4.2%
ホームヘルプ・サービス20,885事業所4.0%
定期巡回・随時対応サービス-4.0%
夜間ホームヘルプ・サービス83事業所4.0%
認知症高齢者グループホーム9,292事業所3.9%
特定施設入居者生活介護2,876事業所3.0%
地域密着型特定施設入居者生活介護91事業所3.0%
認知症デイサービス3,139事業所2.9%
ショートステイ(特養)7,347事業所2.5%
地域密着型特別養護老人ホーム183事業所2.5%
特別養護老人ホーム6,015事業所2.5%
デイサービス22,366事業所1.9%
訪問入浴2,013事業所1.8%
デイケア6,426事業所1.7%
ショートステイ(老健)3,469事業所1.5%
介護老人保健施設3,500事業所1.5%
ショートステイ(病院等)1,773事業所1.1%
介護療養病床2,252事業所1.1%
注:訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、福祉用具貸与、居宅介護支援は対象外

給与に限定した介護報酬は「国家介入」?
 そもそも交付金が登場したのには、第4期(2009~11年度)介護報酬改定で介護職員の給与引き上げを目的にプラス3%改定を行い、改定による介護保険料の急激な上昇を抑えるため介護従事者処遇改善臨時特別交付金(税金)を投入したが、介護報酬引き上げ分を給与にまわすかどうかは「経営者の裁量」とされ、結果として離職傾向に歯止めがかからず、新たに給与引き上げに限定した交付金が作られたという経緯があります。
 しかし、今回の介護職員の給与に限定した加算の新設について、第86回分科会(2011年11月24日)では「資本主義の原則に反する」(田中滋委員、慶応義塾大学)、「賃金の配分について国家が介入するのはおかしい」(池田省三委員、地域ケア政策ネットワーク)、「共産主義に入りかけたのか」(武久洋三委員、日本慢性期医療協会)、「あくまでも労使間で」(山田和彦委員、全国老人保健施設協会)などの意見が強く、概要では「例外的」、「経過的」な加算を新設するが、第6期(2015~17年度)の改定では「各サービスの基本サービス費において適切に評価を行う」となりました。

「給与は上がっていない」という声があるのは…
 介護職員など現場の人たちからは「交付金があるというが、給料は上がっていない」という声をよく聞きます。
 事業所の交付金の申請率は83%と報告されていますが、“給与の引き上げ”は、一時金(申請事業所の50%)や諸手当(同30%)が多く、基本給の引き上げは約16%なので、“給与”が上がったという実感がないことも理由のひとつと思われます。また、厚生労働省の資料では、介護職員はすべて“常勤換算”されていますが、非常勤職員が多いサービス(ホームヘルプ・サービスは非常勤率62.3%)では1人あたり平均1万5000円の引き上げにはなりません。

表2 介護職員1人あたり給与
介護職員常勤換算率常勤職員給与非常勤職員給与
ホームヘルプ・サービス43.70%22万3,464円19万9,209円
デイサービス62.70%20万3,586円18万7,440円
ショートステイ84.00%26万7,181円21万8,241円
認知症高齢者グループホーム76.80%23万430円19万3,297円
特別養護老人ホーム84.80%27万9,276円21万5,872円
老人保健施設88.20%27万4,216円21万7,869円
療養病床90.40%25万8,968円19万8,304円
厚生労働省老人保健課「2011年介護事業経営実態調査結果(速報値)」総括表より
表3 介護従事者の勤務形態
勤務形態従事者数常勤割合非常勤割合
ホームヘルプ・サービス210,044人36.2%62.3%
デイサービス147,734人70.3%27.9%
認知症グループホーム91,906人79.8%18.4%
特別養護老人ホーム210,332人91.7%7.7%
老人保健施設145,377人93.7%6.0%
介護療養病床24,905人93.4%6.6%
合計830,298人73.1%25.9%
厚生労働省「2010年度介護従事者処遇状況等調査」より

交付金を申請していない事業所の加算取得は?
 厚生労働省は、介護職員処遇改善加算は交付金と同じ条件(算定要件)と掛け率になると説明しています。交付金を申請している事業所の多くは介護職員処遇改善加算に移行すると予想されますが、交付金を申請していなかった事業所はどうなるのでしょうか。
 表4で単純計算すると、事業所の14.7%が申請していないので、交付金による給与引き上げがない介護従事者が約12万2000人いることになります。特にホームヘルプ・サービス約4万人、デイサービス約2万人と在宅サービス事業所に多くなります。

表4 介護職員処遇改善交付金申請率(2010年6月現在)
 事業所数申請率
ホームヘルプ・サービス27,324事業所81.4%
デイサービス26,015事業所85.3%
認知症グループホーム10,302事業所92.8%
特別養護老人ホーム6,182事業所95.4%
老人保健施設3,677事業所90.8%
介護療養病床1,581事業所51.2%
合計75,081事業所85.3%
厚生労働省「2010年度介護従事者処遇状況等調査」より

 事業所が交付金の申請を行わない理由としては、(1)事務作業が煩雑(41.0%)、(2)対象の制約のため困難(34.8%)、(3)2012年度以降の取扱いが不明(27.3%)が上位になります。(3)については加算の新設により申請することになるのか、再び「2015年度以降の取扱いが不明」という理由が登場するのかどうかはわかりません。
 しかし、算定要件が交付金と同様ということは、事務作業の煩雑さに変わりはありません。3年という不安定な加算ですが、全産業平均より約10万円低い介護職員の給与をひとりでも多く引き上げるための算定要件にしてもらいたいものです。


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プロフィール
小竹 雅子(おだけ まさこ)
市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰。「障害児を普通学校へ・全国連絡会」「市 民福祉サポートセンター」などを経て、2003 年から現在の活動に。著書に岩波ブックレット『介護認定介護保険サービス、利用するには』(09 年11月)、『介護保険Q&A 第2版』(09年5月)、『こう変わる!介護保険』(06年2月)などがある。
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