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どうなる? 介護保険

介護職員処遇改善交付金の行方

 10月13日に社会保障審議会介護保険部会(座長:山崎泰彦・神奈川県立保健福祉大学名誉教授 以下、部会)の第38回、17日には第82回社会保障審議会介護給付費分科会(座長:大森彌・東大名誉教授 以下、分科会)が開かれました。部会は介護保険制度について、分科会は介護報酬と基準についてと検討内容の役割分担がありますが、共通テーマは“2012年度以降の介護職員処遇改善交付金をどうするか”です。
 第38回部会では、6月30日に政府・与党社会保障改革検討本部が決定した「社会保障・税一体改革成案」(資料1)、「2012年度予算の概算要求組み換え基準」(資料2)、「社会保障・税一体改革における介護分野の対応について」(資料3)が提出されました。『大企業従業員の保険料増 厚労省が検討』(10月13日共同通信)、『介護報酬、給与維持に2%分不足 厚労省試算』(同日経新聞)などの報道がありましたが、(1)介護職員処遇改善交付金を来年度以降も継続するのか、介護報酬に組み込むのか、(2)介護報酬に組み込む場合、プラス2%改定(単年度約1900億円)が必要になるが財源確保をどうするのか、が大きな課題です。
 なお、2012年度の介護報酬と診療報酬の同時改定に向けて10月21日に「中央社会保険医療協議会と介護給付費分科会との打ち合わせ会」、31日には第39回部会第83回分科会の同日開催が予定されています。

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介護職員処遇改善交付金と第2号保険料
 「社会保障・税一体改革成案」では「費用負担の能力に応じた負担の要素強化」という言葉で、財源確保のために「介護納付金の総報酬割導入」(40~64歳の第2号保険料を、健康保健組合の“加入者数に応じた負担割合”から、“所得に応じた負担割合”に変更する)が提案されています。
 すでに1年近く前の話になりますが、部会は2010年11月30日、「介護保険制度の見直しに関する意見」(以下、意見)をまとめ、それをもとに今年の通常国会で改正介護保険法が成立しました。意見では「第2号保険料は、その加入する医療保険の加入者数に応じて負担金が決められている。このため、総所得の高い医療保険者は低い保険者と比較して、総所得に対する介護保険料の割合が低率となっている」としながらも、「十分な議論なく、財源捻出の手段として導入しようとすることに対して、強い反対意見があった」「利用者負担の見直し等の必要な見直しを行うことなく、これを導入することについて慎重な対応を求める意見があった」と報告するにとどまりました。
 今回、交付金分を介護報酬に上乗せする場合の財源を確保するため、第2号保険料の引き上げが、再び部会の検討テーマとして登場したのです。

介護報酬に組み込んだ場合は「処遇改善加算(仮称)」
 一方、第82回分科会では「介護報酬において処遇改善措置を実施する場合の考え方」(資料2)として、厚生労働省(事務方)から“介護報酬において実施する場合”は処遇改善加算(仮称)とし、(1)現在、交付金を申請している事業所は「2012年度末の賃金額を下回らない給与を支給する」、(2)申請していない事業所は処遇改善加算(仮称)額相当以上に賃金が上回ることを条件とすることが提案されました。また、処遇改善加算(仮称)のうち一定割合を本給で支給することを条件としてはどうかという提案もなされました。

介護報酬に組み込むことが前提?
 これに対して、田部井康夫参考人(公益社団法人認知症の人と家族の会)から「介護報酬を引き上げた場合、利用者負担も増えるため、慎重な議論が必要」、藤原勝博参考人(社団法人日本経済団体連合会=経団連)から「サービス水準は変わらず負担は上がるため、介護報酬に組み込むのは反対」という発言があり、村上勝彦委員(公益社団法人全国老人福祉施設協議会)や伊藤彰久参考人(日本労働組合総連合会=連合)からも反対意見がありました。
 注目されたのは、介護報酬への組み込みに反対する発言のたびに、大森彌座長から否定的なコメントが出されたことです。これは、分科会としては基本報酬に組み込む前提で議論を進めたいのだろうと推測されます。

「労使の話し合い」の“労”はどこに?
 また、交付金分を介護報酬の“給与加算”とすることについて、田中滋委員(慶応義塾大学教授)は「給与確保のために国家が介入しすぎている。職員給与は労使の話し合いによるべきというのが経済学の原則」とし、池田省三委員(NPO法人地域ケア政策ネットワーク)もまた「賃金に国が介入するのは、やめてほしい」と発言、山田和彦委員(公益社団法人全国老人保健施設協会)は「介護報酬2%アップの配分は経営者の判断」としました。
 しかし、介護職員の多くは非常勤で、労働組合への加入率は「介護・医療」あわせても7.7%(推定組織率、「平成22年労働組合基礎調査の概況」より)と低いなか、「労使の話し合い」はどこで確保されるのか大いに疑問があります(池田委員の出身である全日本自治団体労働組合=自治労は地方公務員の労働組合で、官公労では最大の組織ですが、非正規雇用者の組織率は9.7%です)。

審議会の役割は?
 介護報酬の構成は1割が利用者負担で、残りの9割は税金と保険料です。公金を投入する社会保険制度として設計されているからこそ、分科会など社会保障審議会でサービスの値段(介護報酬)を検討しているわけです。
 そもそも交付金が登場したのには、第4期介護報酬改定で3%引き上げが行われたものの、介護職員の給与は「労使の話し合いが基本」「経営者の裁量」という分科会の判断があり、介護職員の離職傾向に歯止めをかけることができなかったという背景があります。
 交付金で税金を追加投入しなければ、介護職員の確保、ひいては介護保険サービスの確保ができませんでした。そうしたなか、再び「国の介入は不要」というのであれば、厚生労働大臣(国)の諮問機関である審議会の役割について再考する必要があるのではないでしょうか。

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本連載では、介護保険制度にまつわる皆さんの質問や疑問を受け付けています。制度改正のポイントや利用者・家族、介護職員などへの影響について具体的に知りたいなど、何でも結構です。
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プロフィール
小竹 雅子(おだけ まさこ)
市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰。「障害児を普通学校へ・全国連絡会」「市 民福祉サポートセンター」などを経て、2003 年から現在の活動に。著書に岩波ブックレット『介護認定介護保険サービス、利用するには』(09 年11月)、『介護保険Q&A 第2版』(09年5月)、『こう変わる!介護保険』(06年2月)などがある。
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