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どうなる? 介護保険

介護職の給与はいくら?

ひとことで「収入」と言っても…
 介護現場で働く人(以下、介護職)の給与は、介護保険サービスの売上である介護報酬(費用)に大きな影響を受けますが、9月以降、社会保障審議会介護給付費分科会(以下、分科会)で介護報酬改定の議論が“本格化”します。
 ひとことで給与といっても、払う事業者にとっては「賃金」、もらう労働者にとっては「給与」で、「基本給」のほか、「手当」「一時金」なども含まれます。支払方法は「月給」「日給」「時給」とあり、雇用形態でも「正社員」「非正社員」、あるいは「常勤」「非常勤」と大別されます。「非正社員」はさらに「パートタイム労働者」「派遣労働者」「契約社員」「嘱託社員」など細分化され、「非正社員」の人数を「正社員」の労働時間にあわせて「常勤換算」したりもします。介護現場では、「ホームヘルパー」「介護福祉士」「訪問看護師」などの資格、「訪問介護員」「施設介護職員」など提供サービスによる区分もあります。
 ともあれ分科会では、第70回(2010年12月24日)で「平成22年介護従事者処遇状況等調査結果の概要(案)」や「平成22年介護従事者処遇状況等調査結果の概況(案)」、第74回(2011年5月13日)で「介護人材の確保と処遇の改善策について」など、厚生労働省資料がすでに提出されています。また、8月23日、財団法人介護労働安定センターは「2010(平成22)年度介護労働実態調査結果について」を公表しました。

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介護報酬アップは賃上げにつながらない?
 介護報酬は第2期(2003~05年度)にマイナス2.3%、第3期(2006~08年度)にマイナス2.4%と引き下げが続き、介護職の離職に拍車がかかり、麻生政権の政治判断により、第4期(2009~11年)で初めてプラス3.0%と引き上げが行われました。
 介護報酬は、その1割が利用者の自己負担で、残りの9割を介護保険料と公費(国、都道府県、市区町村)で折半しています。介護報酬が上がると、利用料と介護保険料、公費も自動的に上昇するのが基本ですが、第4期は「介護従事者の処遇改善のための緊急特別対策」(2009年度から2年間。1154億円)により、介護保険料の上昇分には税金(公費)が投入されました。しかし、介護報酬の引き上げは“処遇改善”に反映されないとして、さらに「介護職員処遇改善交付金」(2011年度末まで。約3975億円)で介護職員給与に限って税金が追加投入されました。

交付金で平均1万5000円の賃上げ
 分科会では「介護職員処遇改善交付金」について、「介護報酬や介護の基準のうち、経営者が意思決定することに政府は立ち入ってはいけない」(田中滋委員・慶応義塾大学教授、第57回分科会議事録より)という批判もありました。しかし、分科会に“処遇改善”プランはなく、政治判断に拠るしか給与引き上げは実現できませんでした。
 介護報酬3%引き上げについて、厚生労働省は第74回分科会で、介護職全体の「平均給与額」(2008年、2009年ともに在籍の場合)が8930円引き上げになったと報告しました。サービス別には特別養護老人ホームが1万2160円、老人保健施設が1万1550円と高く、居宅介護支援事業所は9340円、認知症高齢者グループホームは8850円、通所介護事業所は8470円で、訪問介護事業所は5560円です。
 「介護職員処遇改善交付金」については、第70回分科会で、「介護職員」(ホームヘルパーを含む)は「平均給与額」(基本給+手当+一時金)が平均1万5160円引き上げられ、「月給の者」は27万5480円に、「時給の者」は22万1690円になった(2009年、2010年ともに在籍の場合)と報告しました。

給与引き上げは基本給ではなく一時金
 「介護職員処遇改善交付金」は都道府県ごとに基金を設置し、事業者が申請するしくみです。申請率は全国平均83%(2011年1月末現在)ですが、財団法人介護労働安定センターの「2010年度介護労働実態調査」では、事業所の「介護職員処遇改善交付金への対応状況」は、(1)一時金の支給(50%)、(2)諸手当の導入・引き上げ(30%)、(3)基本給の引き上げ(16%)であり、一時金(ボーナス、賞与、期末手当など)による引き上げが多いと報告されています。賃上げは何よりですが、一時金による増額は不安定要素です。
 同センターの「月給(所定内賃金)」調査では、ホームヘルパーの月給が18万9718円、介護職員は19万6142円です。厚生労働省報告の「月給の者」27万5480円と比べると、ホームヘルパーは約8万6000円、介護職員は約8万円も低いことになります。
 厚生労働省報告をもとに、「介護職員の給料をどこまで上げればいいんでしょうか」(池田省三委員・龍谷大学教授、第70回分科会議事録より)という発言もありますが、2度にわたる税金投入の効果について、調査データの取り方によって大きな開きがあることは、今後の議論に不安を抱かせます。池田省三委員は「介護職員の給料が安いのは、勤続年数が短いからだ」「キャリアアップ、長期勤続の中で昇給していくことを考えて設計しないと、バランスが崩れる」(第74回分科会議事録より)とも発言しています。

介護職は増やす必要がある
 「2010年賃金構造基本統計調査(全国)結果の概況」(厚生労働省大臣官房統計情報部 以下、統計調査)は、全国平均賃金は29万6200円(男性32万8300円、女性22万7600円)で、「正社員・正職員」は31万1500円(男性33万8500円、女性24万4000円)、「正社員・正職員以外」は19万8100円(男性22万8800円、女性17万900円)と報告しています。
 また、8月29日に公表された「2010年就業形態の多様化に関する総合実態調査の概況」(厚生労働省大臣官房統計情報部)では、「医療・介護」という分類ですが、パートタイム労働者が78.1%(全産業平均は57.6%)で、「パートタイム労働者を活用する」一番の理由は「賃金の節約のため」となっています。
 社会保障国民会議の「医療・介護費用のシミュレーション結果」では、介護職は117万2000人(2007年)から、2025年には211万7000人から255万2000人を確保する必要があると推計しています。100万人以上も増やすには、安心して働ける雇用の場を保障する必要があります。
 分科会は今年度で期限が切れる「介護職員処遇改善交付金」を基本報酬に組み込むのか、あるいは交付金を継続するのかという大きなテーマを抱えていますが、(1)介護職の給与は一体いくらなのかを正しく把握し、(2)介護職の圧倒的多数が「正社員・正職員以外」や「時給の者」、「パートタイム労働者」でいいのか、(3)介護報酬の給与は「経営者の意思決定」でいいのか、という視点を併せもってほしいものです。

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本連載では、介護保険制度にまつわる皆さんの質問や疑問を受け付けています。制度改正のポイントや利用者・家族、介護職員などへの影響について具体的に知りたいなど、何でも結構です。
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プロフィール
小竹 雅子(おだけ まさこ)
市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰。「障害児を普通学校へ・全国連絡会」「市 民福祉サポートセンター」などを経て、2003 年から現在の活動に。著書に岩波ブックレット『介護認定介護保険サービス、利用するには』(09 年11月)、『介護保険Q&A 第2版』(09年5月)、『こう変わる!介護保険』(06年2月)などがある。
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