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どうなる? 介護保険

特別養護老人ホームの待機者問題

 6月29日に公表された2009年度介護保険事業状況報告(年報)のサービス別利用者数(月平均)は、在宅サービス約286万人(給付費約3兆3000億円)、地域密着型サービス約24万人(給付費約6000億円)、施設サービス約83万人(給付費約2兆6000億円)で、利用者の比率は在宅7:地域密着型1:施設2、給付費の比率は在宅5:地域密着型1:施設4になります。
 施設サービスは認定ランクの重い人が多く、要介護3~5が83.7%(特別養護老人ホーム88.3%、老人保健施設74.2%、療養病床95.5%)です。
 介護保険3施設のなかで利用者が多いのは特別養護老人ホーム(以下、特養)ですが、厚生労働省は2009年12月22日、「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」で、待機者が約42.1万人にのぼることを公表しました。
 2009年の第一次補正予算では、「介護基盤緊急整備等臨時特例基金」(約3011億円)が創設され、第4期(2009~2012年度)の施設整備計画12万人分に4万人分の上乗せをして、3年間で16万人分の整備を進めることになりました。
 今年5月30日に開かれた第75回社会保障審議会介護給付費分科会では、施設整備は2009年度が2万7000人分、2010年度見込みが6万1000人分で、2年間の合計8万7000人分と報告され、まだ目標の半分の実績です。しかも、そのうち特養は3万8000人分(資料2-1「介護保険施設について」)で、約42.1万人の需要に対し、単純計算で38万3000人分が不足していることになります。

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「真に必要」な人は待機者の1割?
 2010年11月30日、社会保障審議会介護保険部会は「介護保険制度の見直しに関する意見」で、「実際の待機者数(優先入所申込者数)及び施設における判断基準等について調査を実施する必要がある」としました。
 この意見に応えるように今年7月、医療経済研究機構は『特別養護老人ホームにおける入所申込の実態に関する調査研究』(以下、調査)を公表し、「『真に入所が必要』と考えられる申込者は1割強」と報告しました。これも単純計算すると、わずか4万2100人が「真に」特養を必要としていることになってしまいます。

「家族介護が困難」と「介護放棄、虐待の疑い」の落差
 現在、特養は全国に6123施設ありますが(2009年度介護サービス施設・事業所調査結果の概況)、そのうち1500施設(有効回答583施設)が調査対象となりました。
 待機者の申し込み理由の中で多いのは、(1)「同居家族等による介護が困難」、(2)「介護する家族等がいない」、(3)「施設・医療機関から退所・退院する必要がある」です。自宅待機者の「家族・介護者等の状況」は、「病気、高齢、就労、育児等により介護が困難」が約65%になります。
 一方、施設が優先入居させるべきと考える条件は、(1)「介護放棄、虐待等の疑いがある」、(2)「介護者が不在、一人暮らし」が圧倒的に多く、(3)「施設・病院から退所・退院を迫られている」が続きます。
 待機者側に「同居家族等による介護が困難」という理由があっても、施設側が「介護放棄、虐待の疑い」を第一条件とするのでは、双方の認識に相当なずれがあるといえます。

「真に必要」と「すぐに必要」の落差
 また、施設側は待機者の「入所の必要性」について、「現在の生活は困難であり、すぐにでも入所が必要」なのは11.3%、「入所の必要はあるが、最大1年程度現在の生活継続可能」は28.2%、「1年以上、現在の生活継続可能」は34.5%としています。
 施設が自宅待機者の「生活継続」をどこまで判断できるのかは疑問がありますが、「最大1年程度」は「現在の生活継続可能」とされた約3割についての分析はありませんでした。

「入所優先度」の調査だけでいいのか?
 6月27日付中日新聞では「『特養』設置率は日本一も 県は在宅介護拡充重点」で、人口あたり施設設置率全国1位の福井県が、独自基準で自宅待機者の入所を阻んでいる実態を紹介しました。7月1日付読売新聞では「特養待機者 解消程遠く」で、施設整備をしても介護職員が確保できない課題を伝えました。また、7月6日付信濃毎日新聞は「県内の老健など400施設調査 『特養入所必要』が3222人」で、老人保健施設などにいる「待機者」の存在を報じました。
 厚生労働省の「入所申込者の数は約42.1万人」の内訳は、在宅の申込者が19万9000人(47.2%)、在宅以外の申込者が22万3000人(52.7%)です。在宅以外のおもな場所は、老人保健施設(約7万2000人)、グループホーム(約1万3000人)、療養病床(約1万人)など他の「施設」です。
 特養などの施設整備には、職員も含めて財源確保という大きな課題があります。しかし、調査そのものは実態を把握するのが目的です。特養の待機者問題では、約20万人にもなる自宅待機者の「同居家族等による介護が困難」という最多理由をまず調査することが必要ではないでしょうか。



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本連載では、介護保険制度にまつわる皆さんの質問や疑問を受け付けています。制度改正のポイントや利用者・家族、介護職員などへの影響について具体的に知りたいなど、何でも結構です。
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プロフィール
小竹 雅子(おだけ まさこ)
市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰。「障害児を普通学校へ・全国連絡会」「市 民福祉サポートセンター」などを経て、2003 年から現在の活動に。著書に岩波ブックレット『介護認定介護保険サービス、利用するには』(09 年11月)、『介護保険Q&A 第2版』(09年5月)、『こう変わる!介護保険』(06年2月)などがある。
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